封印された記憶




「ふぅ。昼から歩きっぱなしってのも堪えるよな」
「にはは。わたしは歩くの好きだから」

 それは羨ましいことで、そう内心で思う相沢祐一(001)は適当に相槌を打ちつつ首を鳴らす。 
 神尾観鈴(025)は事実、楽しそうではないものの歩みに乱れはない。
 故郷が田舎と言っていたのだから、基本的に交通手段の主流が徒歩なのだろう。
 かくいう自分も引っ越してきた雪の町は都会とは言い難く、何処かの某従妹のおかげで頻繁に通学ダッシュを敢行していた身。
 口では堪えたといいながらも、幾分かは余裕があった。

「ま、何にしても鎌石村に着いた訳だけど……」
「うん。どこにあるのかな」
「一家に一台、そう思いたいがな。まあ、支給品に記憶媒体がある時点でパソコンを示唆しているようなもんだし……」

 観鈴の支給品は何の変哲もないフラッシュメモリ。
 当然単品では要を足さない。始めからパソコンがなくては使えないのだ。
 中に収められているのは勿論データであろう。
 パソコンがあって始めて支給品としての真価を発揮するのだから、彼等の目的はそれだった。
 集落へパソコンを探し、そのついでと言っては何だが観鈴や祐一自身の探し人を探すといった方針だ。
 端末があるということは、何処かに本体があるということにもなる。
 確かに武器ともいえない支給品も存在している様子ではあるが、メモリの関しては未知数。
 取るに足らない情報だと決め付けるわけにもいかず、もしかしたら優れた情報だと期待もしてしまう。
 だからといって、主催者に対抗するための情報が入っていることはないだろう。自身が不利になる物を支給品に加えるはずがない。
 よって、ゲームの進行上に有効な代物が入っていれば吉だ。生存率を少しでも上げることができる物ならば歓迎できる。
 祐一は知人を探そうと思ってはいるが、闇雲に探したところで遭遇できるかといえば望みは薄い。
 観鈴に関してもそうだ。当てもないのに島中を走り回る手間など実際無駄である。
 ならば、未確定の支給品に期待したほうが有意義だ。そのついでに探し人と合流できれば僥倖といえるだろう。

「ね、祐一さん。まずはこの分署なんてどうかな……?」
「……鎌石村で個別に名称がついているのは役場と郵便局と、この分署か。地図上でも外観からも目に付くからな……」
「が、がお。そっか……」
「ん、いや。そんなこと言ってたら切りないからな。こういう分かりやすい場所に設置されてる可能性のほうが高いだろ」

 祐一は、観鈴が広げた地図を覗き込みながら彼女の提案に頷いた。
 一般的な住宅に比べると、局や分署などの方がパソコンを活用する場でもある。
 わざわざ明記されているということは、何かしらの物があると一先ず当たりをつけた。
 祐一は観鈴に地図を畳ませ、既に目視できる位置にある消防分署を眺める。

「何にしても一番近いからな。だからこそ危ないわけだが……」
「そうだよね。気をつけていかないと……」
「ああ。どちらにしろ屋根を確保しなきゃならんだろ。暗くなる前に早いとこパソコンを入手して寝床も確保しないとな」
「にはは。観鈴ちん野宿でも全然大丈夫だよ」
「逞しいこと言うなよ……」

 笑ってブイサインをする観鈴に、祐一は軽く息を付いて苦笑した。
 この状況でもお互いが笑って話せるのは、観鈴の明るさのおかげだろうと思う。
 緊張の緩和剤となってくれる彼女の存在は、祐一にとってもありがたいものだ。
 一人で行動していれば、今頃は緊張と警戒の継続で疲れ果てていたことだろう。
 醍醐を殺して観鈴を救った自身の行為は許されることではないが、それでも後悔だけはしないようにしよう。
 祐一は一度咳払いし、表情を引き締めて観鈴へと向き直る。

「それじゃ行くか。こっから先は気をつけてな……」
「う、うん。―――あれ?」
「どうした神尾?」
「祐一さん……人がいるよ……」

 観鈴が祐一の肩越しに指を指す。 
 祐一もそれに従い振り返り、指の先を視線で辿る。
 消防分署前に、確かに人がいた。
 走ってきたのだろうか、顔を伏せて肩を前後に動かしている様子からすると、荒い息を整えているようだ。 
 身なりからして女性。二人にも見覚えがない制服のため、知り合いという可能性はない。 

「ど、どうしよう祐一さん……」
「嫌な所で立ち往生しているな。あそこを通らないと分署へは行けないぞ……」

 ちょうど制服の女性がいる場所は分署入り口前。
 裏口が存在しない限り、どうあっても入り口を潜るしかない以上、女性との接触は免れない。
 立ち去るまで待っても良かったが―――

「―――神尾はここで待ってろ」
「もしかして……」
「接触する。あの人は周囲に気を配っている様子はない。先手を打つなら今しかないだろう?」
「だ、ダメだよっ。危ないし……あの人だって良い人かもしれないし……」
「馬鹿。牽制して話を聞くだけだ。見た感じ何かから逃げてきたようだし、危険はないと思う……てか思いたい」

 人を殺した恐怖に錯乱している可能性も捨て切れないが、ここは危険を冒して接触を選ぶ。
 仮にゲームに乗った者から逃げてきたのならば、その当人までこの場を嗅ぎ付けてくるかもしれないのだ。
 分署に寄り付きたかった祐一達にとって、彼女はあまり嬉しくない誤算でもある。 
 そのために、まずは彼女を取り込む手段に出た。乗っていない者ならば好都合になる。
 逆に彼女が乗っているならば、仕方がない。
 今夜は一応留まると決めた村に、マーダーがいることは決して安心できない。
 つまり、あの時の醍醐の様に―――

(はは……。殺すってか? 人を殺して高が外れているのは俺の方かもな……)

 祐一は浮かび上がる自嘲を噛み殺し、それはあくまで最後の手段と自分に言い聞かせて足を踏み出した。
 何か言いたげな観鈴をその場に留め、彼は女性に気付かれないように回り込んで接近する。
 よほど急いできたのか、未だに不規則に吐き出す吐息が止まる様子はない。
 数メートルの距離にまで接近した祐一は、静かに拳銃を取り出して、その背に銃口を付きつけた。 

「―――っ!?」

 カチャリ、という音に女性―――向坂環(039)は肩を振るわせた。
 ようやく落ち着きかけた心臓の鼓動が、再び高鳴る。
 頬を滴る冷や汗を煩わしく感じながらも、環は咄嗟に拳銃を構えようとするが―――

「待て。悪いけど動かないでもらえるか。手荒なことはするつもりはないんだ」
「くっ……。直には殺さないってことは、何か目的があってのことかしら……?」

 祐一の制止の声に出鼻を挫かれた環は、小さく舌打ちをしながら顔を上げた。
 少なからず焦りの表情を浮かべながら精一杯の強がりを言う環に、祐一は軽く首を横に振る。

「そんな大層なことは考えちゃいないが、質問だ。お前は乗ったのか? それとも乗ってないのか」
「乗ってないわ。信用なんか出来ないでしょうけどね」
「まったくだ。こんな質疑応答で分かるとも思ってないけどな」
「……で? 何がしたいわけ貴方」

 祐一の間髪入れない返事に、環は眉を顰める。正直やり難いと思ってしまう。
 銃口が向けられている限り、彼女も迂闊な行動は出来ない。
 彼も自分が有利な立場であることはわかっていたから、ある程度の要求は通ると思っている。

「とりあえず、俺もゲームに乗ってはいないと言っておく」
「信用できないけどね」
「だろうな。とりあえずここは目立つ。移動しないか?」

 祐一は環の睨みつける目線と即答を流しつつ、観鈴がいる筈の茂みへと顎でしゃくった。
 視線で辿ってみると、そこは人の目が付き難い場所。環は不審気味に眉を潜める。

「ちょっと……言ったそばからそれ? そんな所に連れ込んで何をするつもりかしら……?」
「連れ込むって……また嫌な言い方だな。そんなつもりはないぞ」
「私は、信用できないと言っているのだけれど?」
「……ふぅ。分かったよ、これでいいんだろ」

 祐一は小さく嘆息し、構えていた拳銃のグリップを環へと差し出した。
 あっさりと拳銃を手放そうとしている祐一。
 幾分か冷静さを取り戻していた筈の環も、流石にその突拍子もない行為に唖然とする。

「な、なにを考えているの……? 急に態度を変えても逆に不気味よ」
「我侭だぞお前。とりあえずほらっ。良いから受けとれよ」

 強引に環の手に拳銃を握らせ、付いて来いと言わんばかりに背を向けて歩きだす。
 ここまでされたからには、彼女もついて行かざるを得ない。
 それでも警戒しながら、環は祐一の背へと声を掛けた。 

「ねぇ。一体どういうつもり? 私が背後から撃つとは思ってないわけ」
「どうだろうな。大丈夫じゃないのか?」
「私に聞かないでよ。……判断した根拠は何?」
「ま、一言で言えば感だ」
「はぁ? 感って貴方……」
「感だ。そういうことにしといてくれ」

 何を言っているのだこの男は、そう訝しむ環の様子が背を向けた祐一からでも充分に感じられた。
 祐一とて自身の無防備な行動に納得しておらず、むしろ自己嫌悪に苛まれている。

(ったく。何やってんだよ俺は……。下手したら死んでるぞ……いやマジで)

 頭を掻き毟る祐一を眺めていた環は、それが一種の照れ隠しだと唐突に気が付いた。
 そう思ってしまうと不思議なものだ。決して信用はしていないが、それでも危機感が若干和らいだのだから。
 自分の幼馴染と同じようなお人好しだと思ってしまうと、いくらか親近感も湧くというものだ。
 実際は環の幼馴染である貴明とは、ぶっきら棒で、ある意味冷静な祐一は似ても似つかなかったが。
 指定された場所へ辿り着いたとき、観鈴が二人の眼前に飛び出した。

「あっ、祐一さん!」
「よう。そっちは問題なかったか?」
「ないけど……祐一さんいきなり銃を突きつけちゃ駄目だと思う……」
「これも結果オーライだろ。気にすんな」
「なに貴方。連れがいたのね。二人で行動しているってことは、少しは信用できそうね」
「ま、そういうことだ」

 環から見ても、二人で行動していることからゲームには乗っていないということが分かる。
 人の見る目さえ曇っていなければ、祐一と観鈴はどちらかというと反主催者だろう。 
 ならば、手に持つ祐一の拳銃も必要はなく、環はそれを祐一へとおもむろに付き返す。
 どちらにしろ、対等な会話をするならば条件は同じでなくてはならない。彼女とて拳銃を所持しているのだから。
 軽く頷いて拳銃を受け取った祐一は、一時的な信用を取次げたことに安堵の息を吐く。
 そして、改めて二人に向き直った。

「んじゃ、まずは軽く自己紹介だ。俺は相沢祐一。こっちが神尾観鈴だ」
「にはは。観鈴ちんって呼んでくれると嬉しいかな」
「……それは遠慮するわ。祐一と観鈴ね。私は向坂環、環でいいわ」

 項垂れてがお、と鳴く観鈴を置いといて、祐一は本題を環へと切り出した。
 観鈴の支給品についてやパソコンを探していること。ついでに自分達の探し人といった情報だ。
 環からも先程発見した無残な死体や自分の幼馴染と弟の特徴について。
 それぞれが遭遇したゲームに乗っていないであろう人物の名前。この場合、芳野祐介(118)や来栖川綾香(037)などのことだ。
 そして、ゲームに乗った女性の特徴を語っていたときに観鈴が反応した。

「え……ホントにそんな喋り方で格好で……」
「そうね。娘がどうのこうの言ってたみたいだけど」
「―――ウソ……お母さんだ……」

 確信したように唖然と呟く観鈴。
 その言葉に祐一と環は驚きで言葉を失くした。
 人違いだと否定したかったが、そんな無責任な言葉を掛けられるはずもなく、三人の間に気まずい沈黙が流れる。
 環は襲われた身だが、それでも親の責任を子供にまで擦り付け様とも思わなかったために、敢えて何も言わなかった。
 だとすると、一番居心地が悪いのは祐一なのだが、彼も迂闊に声を掛けることはしない。
 誰よりもよく知っている母親のことを、何も知らない自分が知ったように言葉を連ねるのは憚かられたためだ。
 各々が言葉を濁していたときに、島中に響き渡る声が聞こえた。

『――みなさん聞こえているでしょうか―――』 

 三人は唐突な展開に、反射的に空を見上げていた。
 しかし、祐一にとってその声は聞き慣れたものでもあった訳で。

「これは……久瀬か……? アイツの声がなんだって……」
「知り合いなの?」
「ああ。学校の生徒会長だ」

 環の問い掛けに、祐一は眉を顰めながら頷いた。
 舞の行いを厳しく糾弾していた声を祐一が聞き間違えるはずがない。
 当時、祐一と久瀬は激しく対立していたこともあるが、今では和解している。
 いや、和解という表現は正しくない。どちらとも関わらぬよう接しているだけだ。
 内心では、お互い忌み嫌ってることだろう。
 その男が何故と思うが、彼の声には何時もの神経質そうな張りがないと、祐一は漠然と思った。
 だが、死者の発表の一言に全員が息を呑んだ。

 そして、放送が終わったとき、環と観鈴は小さく安堵の息を洩らす。
 環の幼馴染の名前や、観鈴の知り合いの名前がなかったからだ。
 観鈴も母親のことで気落ちしていたが、それ以上に今も生きているという事実は嬉しくも思えてしまう。
 だが、決して素直に喜べなかった。祐一の表情が劇的に引き攣ったために。
 二人は祐一へとそっと視線を寄せる。

「あの、祐一さん……月宮あゆって……」
「知り合い、なのね」

 観鈴は祐一の話の中で一度だけ出てきたあゆという名前が放送で呼ばれたために、彼へ痛ましそうに視線向ける。
 様子を察した環も同じだ。
 祐一は弱弱しく頷いた。

「あゆ……なんでだよ。なんで……クソっ! またかよ、またアイツは……」

 そこまで言葉を吐き出して、祐一は茫然と固まった。
 ―――また? またってなんだ。
 自分の不可解の言葉を反芻する。
 あゆの顔、あゆの姿を思い浮かべると何かが頭を掠めた。
 視界がぼやけ、ぐるりと風景が曖昧に霞んだ。
 脳裏を過ぎったある光景が、祐一の肉体を支配する。
 聳え立つ巨木―――純白の雪化粧に小さな少女。
 さんさんと降り注ぐ雪が、染まりゆく赤を塗り潰す。
 確かに存在した温もりが、冷たい雪と空気に同化していくような喪失感。

「―――な、んだ―――これは……っ」

 それらの情景が、祐一の行動を制限して、彼に頭痛を伴わす。
 訳も分からない鈍痛に膝をつき、苦しげに息を吐き出して呻いた。
 こめかみを強引に突くが、それでも収まりきれず、頭で暴れまわる記憶が彼の意識をも断ち切ろうとする。


「え、え……祐一さんっ」
「ちょっと祐一! 大丈夫……っ」

 それに慌てて祐一を支えようとする二人だが、その声さえも聞こえていないかのように彼は頭を抱えた。 
 収まる予兆のない頭痛と、さらに目の奥が焼けるように熱い。
 次々と移り変わる情景。何度も何度も繰り返される少女と巨木と雪と赤。
 既視感にようで、そしてまったく身に覚えのないことが脳裏を駆け巡っては拡散する。
 この数十分間、彼にとっては地獄のようであった。

 ****

「落ち着いた……?」 
「悪い……。もう大丈夫だ」
「もうちょっと休んだほうが……」
「大丈夫……もう、大丈夫だ……」

 観鈴の一言をやんわりと断って、祐一は大きく深呼吸をして立ち上がる。
 何度も自分に言い聞かせるように呟く祐一の様子を見て、彼女達も口を噤んだ。
 尋常ではない様子の彼へと問い質したくもなるが、二人にとって祐一は赤の他人。
 なにか踏み込んではならない雰囲気がこの時の祐一にはあった。 

「気を遣わせて悪かった。俺は大丈夫だから、とりあえず分署に行こうか」
「……そうね。ほら、観鈴も早く来なさい」
「う、うん」

 話を一方的に終わらせて、有無を言わさない態度で祐一は歩き出す。 
 どちらにしろ祐一の問題。環はこれ以上口を挟むことは諦め、一先ずは意向に従う。
 観鈴も、祐一と晴子のことで心配の板挟みに苛まれていたが、二人が歩き出したために思考を打ち切った。 
 祐一と環に追いついても、依然として会話は生まれない。再び気まずい沈黙だ。 
 場を嫌った観鈴が、現状打破を狙って小さく拳を握りながら口を開いた。


「あ、あの! 環さんは結局付いてきてくれるの?」
「まあ、一応はそのつもり。この村で夜を明かして明朝に発つわ。それまではいいでしょ?」
「うん。わたし達は勿論大歓迎。そうだよね祐一さん」
「そうだな。とりあえずはパソコンを探させてくれよ。何か役立つ情報が入っているかもしれないからさ」

 観鈴の一言が幸を成したのか、自然と会話が流れていった。
 そもそも、環は済し崩し的に二人に同行していたのだが、祐一達としては彼女と行動することは本意でもある。
 脱出方法を探る祐一は、様々な視点から得た情報を元にして手段を模索しようとしているため、少しでも多くの反主催者と行動しようと考えていた。
 この先ゲームに乗った者と争う可能性も無きにしも非ずなのだ。
 信頼できる同士を集めることにより、身の安全と本格的な脱出の手段を検討できる。
 パソコンさえ見つかれば、明朝に出発するという環に同行してもいいと思っている。
 だが、当の環はフラッシュメモリについて胡散臭そうに言葉を零していた。

「ホントにあんな棒みたいな物に情報が入っているの……?」
「……メモリの話をした時から思ってはいたが、お前も機械音痴かよ」
「失礼ねっ。今まで知らなくたって困らなかったわよ」
「わ、わたしも町に普及してないだけだよっ」

 環と始めに支給品の説明をした時から思っていたことだ。
 パソコンとメモリの関係について話していても、環からは目覚しい反応が返ってこなかった。 
 むしろ、祐一が求めた応答を適当にして言葉をはぐらかし、曖昧に濁していた。
 その反応から分かる通り、一応は無知であることを自覚しているのだろう。
 観鈴と揃って、その手に関しては役立ちそうにはなかった。
 祐一とて決して詳しいわけではないが、少なくとも一般動作や周辺機器の使い方ぐらいは分かっているつもりだ。
 まあ、フラッシュメモリに使い方もないのだが。コネクタを刺すだけである。
 低次元の言い争いをしている二人を放っていた祐一は、その歩みを止めた。
 ―――消防分署前に辿り着いたのだ。
 観鈴のおかげで若干硬質した雰囲気が和らいだものの、既に分署の入り口は手の届く位置。
 再び緊張に身を固め、三人はお互いの顔を見渡した。

「よし……開けるぞ?」

 コクリと二人は祐一の一言に頷いた。
 目に付いた窓などは全てカーテンなどで隠されており、中の様子は窺い知れない。
 正面玄関から侵入する事に決めた。
 扉を開けるのは祐一の役目で、環と観鈴は扉の左右に散る。
 環は拳銃を両手で構え、祐一は片手に拳銃とドアノブを持って唾を飲み下した。
 三人の心拍数が上がる中、小さく呼吸を静めた祐一が扉を開け放つ。




 『相沢祐一(001)』
 【時間:1日目午後6時30分頃】
 【場所:C−06】
 【所持品:S&W M19(銃弾数4/6)・支給品一式】
 【状態:普通。パソコン確保のため、分署探索】

 『神尾観鈴(025)』
 【時間:1日目午後6時30分頃】
 【場所:C−06】
 【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式】
 【状態:普通。パソコン確保のため、分署探索】

 『向坂環(039)』
 【時間:1日目午後6時30分頃】
 【場所:C−06】
 【所持品:コルトガバメント(残弾数:20)・支給品一式】
 【状態:普通。朝までは祐一達と同行】
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