みさきちがい。




「美咲さんっ!!」
「え・・・?」

声は思わぬ方向から。
藤田浩之他四名の元に姿を現したのは、彼等の知人には当てはまらない一人の少年・・・いや、それは容姿だけ。
負傷した右腕に黄色のバンダナを巻いた青年、七瀬彰だった。

「え・・・」

お互い、呆然と見つめあう。

「・・・ちょっと、みさき。何か呼んでるけど」

肩でチョンチョンと、深山雪見が隣の川名みさきの肩をつつく。
他の四人も、揃って彼女を凝視する。

「え、浩平君?」
「違うわよ、多分うちの学校の子じゃない」
「え・・・ごめんなさい、どなたですか?声だけじゃ人の判断が難しくて・・・」

彰は固まっていた。
目の前の集団の様子で分かる情報とすれば、長い黒髪の綺麗な少女が・・・「ミサキ」になる。
それは彰の求めていた「ミサキ」か、否。

(・・・!くそ、迂闊だったか!同名だって可能性を考えつかないなんて・・・)

5対1、敵うはずがない。
ゲームに乗っているとはいえ、ここでの手出しは難しい。

(どうすれば・・・銃ならまだしも、今手元にあるのはアイスピックのみ・・・)

彰が迷っている時だった。

「うー、血の匂いがするな」
「え?!」

薄いピンクの髪の少女、るーこの視線が彰を捕らえる。
その瞳に浮かぶのは、疑惑の眼差し。
戸惑い。ここで下手なことをしてしまえば、一気に分は悪くなる。
彰の額を汗がつたう、だが彼らは思ったよりも呑気な集団であった。

「ホントだ、ケガしてんじゃん。大丈夫なのか」
「血は止まってるみてえだし、平気なんじゃね?」
「・・・ああ、うん。もう平気」
「誰にやられたの?その人、ゲームに乗ったってことでしょう・・・」

るーこ以外の人物は、彼女の台詞の意味を履き違えたのか見当違いのことを尋ねてくる。
・・・正直、しめた、と彰は思った。
急に顔をうつむき加減にし、少し震えながらも語りだす。

「・・・知り合い、だったんだ。直接の面識はなかったんだけど・・・」
「マジかよ?!」
「緒方、英二・・・。眼鏡をかけた、短髪の男だ。注意した方がいい」
「よく逃げられたわね、知り合いじゃあ気を許していたでしょう?」
「はい、まさかこんなことになるなんて・・・しかも、その人小さな女の子を抱えてた。」

突発にしては思考がうまい具合に回転する。
調子に乗った彰は、そのままエピソードを創作した。

「お兄ちゃん、っていううめき声が聞こえました。俺、その子助けられなかった・・・」
「え、おい待て!その子の名前分かるか?!」
「いたっ」

陽平の態度が急変する、力任せに肩を掴まれ彰はその痛みに顔をしかめた。

「おいおい!まさか芽衣じゃないだろうな?!おい、早く言えっ」
「ちょ、いた・・・名前なんて、聞ける状況じゃ・・・」
「春原くん、落ち着いて」

みさきの静かな声。舌打ちしながら離れる陽平、彰の中で彼に対しての殺意が生み出た。
でも、今それを露見するわけにはいかない。
一度深呼吸する、その瞬間に頭を働かす。

(まずいな、あの子が本当にこいつの妹だった場合後の処置がきつい。
 かと言って、あいつ等が組んで行動していた場合、こいつ等が合流すればこの嘘は露見してしまう)

結局、彰は自分の殺そうとしたあの少女の特徴を正確に答えた。
陽平の拳が震える、どうやらビンゴだったらしい。
暴走しそうになる春原をるーこはグーパンチで黙らせる、説得も彼女一人が請け負った。

ここらでちょうど良いだろうと、彰は彼らに別れを告げる。
一緒にいた方が安全という声かけもあった、だが彰の目的は彼等と一緒にいては成すことはできない。
別れ際に視線で追ったのは、みさきの姿。

(・・・僕の知ってる「みさき」さんは、無事でいてくれているだろうか)

願わずには、いられなかった。




七瀬彰
【時間:一日目午後4時15分】
【場所:G−3】
【持ち物:武器:アイスピック、自身と佳乃の支給品の入ったデイバック】
【状況:とりあえずここから離れる・ゲームに乗っている】

藤田浩之
【時間:一日目午後4時15分】
【場所:G−3】
【所持品:折りたたみ式自転車、他支給品一式(ただし、ここまで来る間に水を少し消費)】
【状態:普通。知り合い・同志を探しに平瀬村へ移動中】

春原陽平
【時間:一日目午後4時15分】
【場所:G−3】
【所持品:スタンガン、他支給品一式(ただし、ここまで来る間に水を少し消費)】
【状態:緒方英二に対し殺意】

ルーシー・マリア・ミソラ(るーこ・きれいなそら)
【時間:一日目午後4時15分】
【場所:G−3】
【所持品:IMI マイクロUZI(残り30発)と予備カートリッジ(30発入り×5)、他支給品一式】
【状態:普通。知り合い・同志を探しに平瀬村へ移動中】

川名みさき
【時間:一日目午後4時15分】
【場所:G−3】
【所持品:スタングレネード(×3)、他支給品一式】
【状態:普通。知り合い・同志を探しに平瀬村へ移動中】

深山雪見
【時間:一日目午後4時15分】
【場所:G−3】
【所持品:SIG P232(残り7発)、他支給品一式】
【状態:普通。知り合い・同志を探しに平瀬村へ移動中】

巳間良祐
【時間:一日目午後4時15分】
【場所:G−3】
【所持品:ベネリ M3(残り5発)、他支給品一式、草壁優季のバッグ】
【状態:普通。ゲームに乗っている。浩之たちを追う】
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