復讐鬼




「最悪ね……」
香里はボソリと一人ごちる。
先ほどの弥生との邂逅の結果、状況がわかるまで人の集まるところは危険と判断した香里は
一路鷹野神社に向け、あかり共々山の中を歩いていた。
そんな中流れた死者の放送。
栞を含め、水瀬親子・相沢祐一・北川潤の名前が出なかったことに安堵するものの
その直後に出た名前に絶望をも感じる。
これが本当のことならば祈りは通じなかったということだ。
――森川由綺
聞きたくなかった名前。
あの女性はおそらくゲームに乗っただろう、と深くうなだれる。

そして同じように挙げられた死者と縁の深いものたちも動き出す可能性があるのだ。
緒方理奈も死んでいた。
兄である緒方英二も同じように考えているかもしれない。
そして月宮あゆの名前。
(相沢君の知り合いよね……だとすると彼も直情型だからもしかしたら……)
祐一が銃を持ち暴れまわる姿を想像する。
あながち見当違いでもなさそうな考えに思わず首を振った。

チラリと横に目を見やると隣に立つあかりが顔面蒼白になりながら震えているのがわかった。
「どうしたの?」
言って愚問だったと気付く。
この状況だったら答えは一つしかないではないか。
「葵ちゃん……後輩の……子が……いま」
それだけ言うのが精一杯だったのか直後あかりは駆け出していた。
「くっ」
自分の思慮の無さに腹が立ったものの、すぐさまあかりを追いかける。
だが草木に足を取られ、思うように進めない。
足を取られよろめいたほんの数秒の間に、あかりの背中が遠ざかっていった。
「神岸さん、待ってっ!!」

叫びも届かず一人その場に取り残される香里。
立ち上がろうと足に力を入れたその直後、彼女の頭に大きな衝撃が走る。

そこには見慣れぬ生き物を隣に携えた一人の女性の姿。
柏木千鶴だった。
長い黒髪をたなびかせながら香里を見下ろすその顔はまるで悪鬼のごとく、そしてその瞳は深い悲しみに満ちていた。
「……な、なに?」
頭ががんがんと揺れる、考えがまったくまとまらない。
千鶴は右手を香里の首に伸ばすと、片手で持ち上げた。
鬼の血は制御されているのにも関らず、信じられない力で香里の首を締め上げる。
香里の足が降り立つ地面を求めて、所在無くバタバタと揺れていた。
「――なんで……もっと早くこうできなかったのかしら……」
締め上げる手にいっそう力がこもる。
必死に逃げようと香里は千鶴の腕を殴りつける。
だがまったく怯む様子も無いその力の前に、抵抗しようとする意識さえ失われていった。
「私がグズグズしていたせいであの子は……楓はっ!」
ゴキッ
鈍い音と共に香里の首が折れた。
口の端から涎がたれ落ちたその死体を、さも興味が無いように投げ捨てるとウォプタルにまたがりあかりの逃げた方向へと視線を送る。

「……初音……梓……そして耕一さん、待っててください……」

そして鬼は再び走り出した。
最愛の家族を守るため、自身の手を血に染めて――。


美坂香里 死亡




神岸あかり
 【時間:18:30頃】
 【場所:G-05の北あたり】
 【所持品:支給品一式】
 【状態:錯乱】

柏木千鶴
 【時間:18:30頃】
 【場所:G-05の北あたり】
 【持ち物:支給品一式・ウォプタル】
 【状況:あかりを追う・目的地は氷川村】

 【備考:香里の荷物はその場に放置】
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