一時の休息




浩平と彰は鎌石村西部の民家の中で休憩していた。

「おい、大丈夫か?」
折原浩平は心配そうに、七瀬彰に声を掛けた。
浩平の手には、コップに入れられた水。
彰はそれを受け取り、一気に飲み干した。
「ああ、ゆっくりしてたおかげで多少マシになってきたよ。」
「それなら良かった。俺の迅速な治療のお陰といっても過言では無いな」
浩平は得意げだった。
(いや、酒をかけただけじゃないか!)
突っ込もうか迷ったが、ここは素直に礼を言っておく事にした。
「うん、助かったよ。ありがとう」
「ああ。無事ゲームを脱出した暁には、焼肉でも奢ってくれ。」
そう言って浩平は笑った。
「……検討しておくよ。」

そう言ったきり、彰は黙り込んだ。
(変な奴……。でも、きっといい奴なんだろうな。)
自分は美咲さんや冬弥、由綺達以外の者は殺すつもりである。
でも、僕は今目の前にいる男のような奴も殺すのか?
本当にそれが正しいのか?

考えても答えは出そうになかった。
そこで彰は別の疑問を口にする事にした。


「さっきの爆発はなんだったんだろうね」
「分からない。……でも多分、誰かが戦っていたんだろうな。」
爆発音は村の東の方から聞こえてきた。
それだけではなく、銃声も聞こえてきた。
まず間違いなく、誰かが戦っていたと考えていいだろう。
浩平は現場に駆けつけるか迷ったが、自分達の装備を考えた後、断念した。

「爆発音の後は辺りは静かになったね。…………誰かが死んでしまったのかな」
「その可能性は否定できないな……。出来れば様子を見にいきたいところなんだが。」

しかし、自分達は武器を全く持っていない上に彰は負傷している。
この状態で現場に駆けつけるのは、自殺行為だ。

長森に漢字テストで勝負を挑むようなものである。
4人掛かりで立ち向かっても長森の点数を上回れるかは怪しいものだ。
あの馬鹿、馬鹿の癖に頭は良いからな。
浩平はそんな、場違いな事を考えていた。

「長森……、無事でいてくれよ……」
浩平がそう呟いた時、突然巨大な音声の放送が辺りに響き渡った。


「――みなさん聞こえているでしょうか。
 今から僕は一つの放送をします。
 これは今後朝の6時と夕方の6時に1日2回定期的に行われます。
 出来るだけ聞き逃さないようにしてください。
 あなたがたの大切な人の命に関る問題です」

「これは!?」
「しっ……、とにかく落ち着いて聞こう。」


「これから発表するのは……今までに死んだ人の名前です」
………
……
…
「――以上です」
放送が終了した。



「そんな……、繭が…………」
浩平は、激しく動揺していた。
繭は優しい女の子だ。
繭がこのゲームに乗る訳が無い。それだけは確信出来る。
大体彼女が誰かと争ったり出来るとは思わなかった。
繭はゲームに乗った者の手によって、一方的に殺されたのだ。
何も悪い事はしていないのに、理不尽に、殺されたのだ。

「…………ちくしょう!」
繭を殺した奴、このゲームに乗って殺人を犯した奴ら……、絶対に許せない!
浩平の心の中に激しい怒りが湧き上がる。

しかし、今は怒りに任せて行動する訳にはいかない。
今こうしてる間にも、長森に危険が迫っているのかもしれないのだ。
今自分が一番にすべき事は、復讐なんかじゃない。
一刻も早く長森を探し出して、守る。それが一番大事な事だ。

それに、住井だ。
馬鹿な計画を色々と思いつく男、でも、一番仲が良かった親友。
二人で組んで色々と馬鹿な事をやってきた。だから分かる。
住井は、普段は馬鹿な事ばかりしているが、いざという時にはこれ以上無いくらい頼りになる奴だ。
アイツなら誰かに殺されるような事は無いだろう。
アイツならこんなクソのようなゲームも、きっとなんとかしてくれる。
それに、アイツは俺の親友だ。行動を共にする相棒として、アイツ以上に頼もしい奴はいない。
アイツと組めば、きっとなんとかなる。




そうだ、とにかく急いで長森と住井を探すべきだ。
そうすれば、きっと何とかなる。
……いや、何とかしなければいけない。
絶対にあいつらと一緒に生きて帰るんだ!

「おい七瀬、こうしちゃいられねえ、すぐに出発するぞ!」
方針の決まった浩平は振り返ってそう叫んだ。

「……あれ?」
そこに、彰の姿は無かった。
彼もまた、放送によって突き動かされていたのだった。




 【時間:1日目18時20分】
 【場所:C−03上部】


 折原浩平
 【所持品:だんご大家族(残り100人)、日本酒(残りおよそ3分の2)、ほか支給品一式】
 【状態:健康。長森と住井を探す】

 七瀬彰
 【所持品:武器以外の支給品一式】
 【状態:右腕に負傷。行動は次の書き手にお任せ】
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