腐っても主人公




うるせぇうるせぇうるせぇ!
ビービー喚きやがってこれだからガキは嫌いなんだよ!!

あいも変わらず中吊りのままの高槻は心の中で叫んでいた。
どこへ行っていたのか、マナが戻って来るとその直後、謎の声が響き渡り今までの死者が発表された。
それを聞いたマナは力無くその場にへたり込み、大声で泣き出したのだった。

「……おい、なんか言ってやれよ」
顔をしかめたまま、隣に同じように吊られている往人に小さく声をかけた。
「あいにくそう言うのは苦手なんだ」
俺もそうだよ。でもうぜえんだよ。この顔見りゃわかるだろ、察してくれよ!
「――なぁ」
諦めて高槻はマナに向かって口を開く。
涙をぬぐう手の動きが止まり、ギラリと睨みつけながらマナが一言。
「……なによ?」
「ん……と、そのだな」
だからなんで俺様が睨まれなきゃいけねーんだよ、あーめんどくせぇ。
で、なんて言やいいんだ。
やべぇ、まったくもって浮かばねぇ。
「……元気出せよ」
高槻が必死に必死に考えて出た言葉はそれだった。
「あんたに何がわかるって言うのよ!」
だがそれは当然のことながらマナの逆鱗に触れただけの結果に終わる。
「大好きな人が死んだ気持ちあんたにわかる?
 そんなノホホンとした顔してるんだからわかるわけないわよね。
 内心いい気味だとか思ってるんでしょ、ふざけんじゃないわよ!
 ……あんたみたいなのがいるから、お姉ちゃんは……お姉ちゃんは……」
機関銃のようにまくし立てたかと思うと、一変して力無く声は小さくなっていった。

――そして静寂


どうしろっつんだよホント!
暗い、暗いぞこの空気。
耐えられん!!

「なぁ」と往人が口を開いた。
おっ、なんか言ってくれるのか?ありがてぇ。
「今度はアンタ?なによ」
「泣いて何かが変わるのか?」
「っ!」
「!?」
非情にも取れる言葉に、マナが往人に銃口を向けた。

一歩間違えれば撃ちそうな、今までに無い形相で睨みつけている。
「確かに俺の知り合いの名前はさっき呼ばれた中に無かった。
 だからお前の気持ちはわからない」
往人は自身に突きつけられている銃を気にも留めず、小さく、淡々と語る。
「だが、今こうしてる間にも危険に晒されているかもしれない。
 もしかしたらもう死んでいるかもしれない……考えたくも無いことだ。
 だからこそ今しなければならないことがある、俺はそう考えてる。
 少なくとも俺がお前が同じ立場だったとして、それは泣くことではない、とも」

ドンッ!
「うぉっ!」
マナの持つ銃口から重い音と共に弾丸が飛び出した。
だがそれは当たる事も無く、行き場をなくして静かに天空へと消えていった。

「……冷たい言い草ね」
「慰めて欲しいのか?あいにくそう言うのは苦手でな。思ったことを言っただけだ」
マナは項垂れたまま今にも消えそうに呟く。
「……あたしに何が出来るって言うのよ」

「さぁな、それは自分で考えるしかないんじゃないか?
 とりあえずさしあたって出来ることを進言すると、降ろしてくれると非常に助かるな。
 さっきも言ったが、俺には今しなければならないことがあるからだ」

マナからの返事は、無い。
何かを考えているのか、再び数秒ほどの沈黙が訪れた。
おもむろにマナが立ち上がる。
変わらずこうべは下げたまま往人に尋ねた。

「一つだけ聞きたいけど、いい?」
「あぁ」
「……アンタは何をするつもり?」
「知り合いを探す、そして守る」
マナは顔を上げて往人の顔をじっと見つめた。
その顔には嘘も迷いも感じられない。
ゆっくりと往人の前に立つと足元に絡んだロープをほどいた。

「いてっ!」
ドンッと頭から地面に叩きつけられ苦悶の声を上げる往人。
「別に信用したとか、そんなんじゃないから」
マナは言いながらも小さく笑うと、往人にそっと手を伸ばすのだった。

国崎往人
 【所持品:なし】
 【状態:普通】
観月マナ(102)
 【所持品:ワルサー P38・支給品一式】
 【状態:普通】
月島拓也
 【所持品:なし】
 【状態:気絶中】
ポテト
 【高槻の支給品】

 【場所:F-7西】
 【時間:一日目18:30頃】
 【関連:→176 →216 ⇔78】
 【備考:往人の所持品と高槻の所持品は木の根元に散在、詳細は下記に。
     トレカフ TT30の弾倉(×2)ラーメンセット(レトルト)化粧品ポーチ 支給品一式(×4=往人と名雪と拓也と高槻のバッグ)】



――まてまてまて!
俺様の存在忘れんじゃねーよ!
出番すらないのに、気絶してる兄ちゃんはまぁ百歩譲ってもだ、参加者ですらない獣でさえ名前載せてんじゃねーかよ!!
なんだ俺様のこの扱いはチクショウ。Dルートあたりにぶち込んで大暴れさせろっつーの!

しっかしこの兄ちゃん、文句ばっかのクセに言うことがかっけーな。
そうか、ああ言えば良かったのか。
……うむ、さすが主人公は違うな。
ぶっちゃけ俺様も好きであんな三流役やってるわけじゃねーよ。
いい加減路線変更して純愛ストーリーでウハウハするのもいいかもしれん。よし、そうしよう。
手始めがこんなクソガキなのが気に食わんが……いかんいかん、この思考がダメなんだな。
選り好みはしちゃいけないってことで、うし。

「なぁ、泣いてなんか変わんのか?」
……あれ、なんでジト目?
「お前の気持ちなんかわかんねーよ」
いやまて、銃は向けるな。
「俺様にはやることがあるからとりあえず降ろせ」
そしてとりあえずこっちくんな。
え、なに?
その振り上げた手はなに?
お、おい待て落ち着け、やめ、やめやめやめ!

バシッ!!

無情にも、乾いた張り手の音だけが林の中にこだまするのだった、めでたしめでた……ふざけんな!




高槻
 【所持品:なし】
 【状態:宙吊り】
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