「――以上です」 放送の声が途絶えると、少年(055)は閉じていた瞳を開き、空を仰ぎ見た。 「時間だね」 とうとうこの時がやってきた。出来る事ならば、何人もの人の命は殺めたくは無い。少年とて人の心を持った人間なのだ。 しかし、今更どうしようもない。与えられた任務を遂行するのみだ。理想としては、郁未を殺した人物を最後に少年が殺して終わる。それが望ましいのだが、 「そう思惑通りに進まないのが、このゲームだからね」 先程の放送からも分かるように篁や醍醐と言った歴戦の猛者も命を既に落としている。支給品に恵まれ、常人に比べれば数段高い身体能力を有する少年でさえ例外ではない。 「さて、僕の武器はどんなのかな」 放送が終わるまでは何もしないと決めていたので初めて武器を目にすることになる。 デイパックを開けて、中身を確認する。 「…あれ?」 予想外の支給品に、彼らしくもない声が上がる。 「…おかしいな」 デイパックの中に入っていたのは、戦場携行食、つまりレーションだった。それ以外には何も入っていない。 「強力な武器だ、って言ってたのになぁ…」 レーションを見まわしても、毒入りだとか実は地雷でした、とかそういうオプションはついていない。どこからどう見てもレーションだった。 「…予想外だね」 やる気が失せかけたが、この身一つでも人一人殺ることなど造作も無いことである。少年は気を取りなおして山を下ることにした。まず狙うは銃を持った人間だ。 ――これはまったくの偶然なのではあるが、本来の少年の支給品、P−90は手違いで七瀬留美に渡ってしまっていたのである。 もちろん主催者側もゲームが始まってすぐに気がついたのではあるが、回収しようがあるはずもなく、そのまま続行するに至ったのである。 さて、この奇妙な出来事が少年にとって吉と出るか、凶と出るか。 その結末は、誰も知りようがない。 少年 【場所:神塚山山頂(F-05)】 【時間:午後6時】 【持ち物:レーション3つ】 【状況:無差別に攻撃を仕掛ける】 - BACK