ぱららららら・・・・ 太田香奈子のマシンガンが連射される。 「くぅ…、なめんなや!」 パンッ! 今度は別の銃の音。 民家の影に隠れている女、神尾晴子のH&K VP70の銃声である。 香奈子はシュンと離れてすぐに、晴子を発見し、迷うことなく攻撃を仕掛けていた。 しかし、直前に察知され、凌がれた。 晴子は今は民家の物陰に隠れて機を伺っている。 太田香奈子も同じく、近くの民家の影に隠れていた。 既に銃撃戦の経験がある神尾晴子は冷静に状況を分析していた。 (マシンガン持ちが相手はちょっと難儀やな……) 警戒は緩めず、遮蔽物に身を隠したまま辺りを見渡す。 所々に民家はあるが、上手く身を隠せそうな森はすぐ近くにはない。 相手はマシンガンである。 以前と同じように背を向けて逃げ出せば、 間違いなく蜂の巣にされるであろう。 ぱららら・・・・・ またマシンガンの音。そしてすぐさま、香奈子は民家の影から影へと移動し、 お互いの距離を詰めていた。 (焦る事はないわ……距離さえ詰めれば、こっちのものなんだから) マシンガンによる銃撃は、弾丸のシャワーである。 近距離で放てばほぼ確実に命中する。 焦る事は無い。 ただ冷静に距離を詰めていけば、最後には必ず自分が勝つ。 このゲームのどこかに、瑞穂を殺した者が、必ずいる。 だから、今自分がすべき事は瑠璃子だけでなく、ほとんど全ての参加者。 月島拓也と………………、そして、氷上シュン以外の者を殺す事だけなんだ。 香奈子はそう、自分に言い聞かせていた。 (こらまずいわ……) 晴子が相手の狙いに気付き、狼狽し始めたその時であった。 「駄目だっ、太田さん!!」 「!?」 香奈子が振り返ると、そこには氷上シュンが息を切らし、立っていた。 「なんで追ってきたの!?わたしは瑞穂の仇を討つのよ!」 香奈子は激昂しながら叫んだ。 しかし・・・。 「殺し合いなんて、駄目だよ!死んだ君の友達だって、そんな事願っているわけないよ……」 「……………………」 シュンの目には、またも涙。 どうして彼は、自分以外の者の為にこんなに悲しむ事が出来るのだろう。 「それでも、駄目よ…………。あたしには、瑞穂以外何も無いんだから…………。」 そう、自分にはもう何も無い。 月島拓也は、その愛情を妹以外には注いではくれない。 自分を想ってくれる人は瑞穂しかいなかったのだ。 「……僕じゃ、駄目かい?」 「え?」 思いもよらぬ言葉に、呆然とする香奈子。 「僕じゃ、駄目なのかい?少なくとも僕は、太田さんと友達になれたつもりだよ……」 「………………」 心が揺れる。 彼は、身勝手に振る舞い、挙句の果てには殺し合いに乗った自分の事を、 友達と呼んでくれている……。 香奈子は決心し、口を開こうとしたその時であった。 そんな時であった。 パンッ! 銃声が一つ、こだましていた。 「………………え?」 目の前の光景がスローモーションのように映る。 シュンは、香奈子の目の前で、胸から血を吹き出しながら、倒れていた。 「………堪忍な。うちはまだ、死ぬ訳にはいかへんのや。」 シュンを撃った張本人、晴子はそれだけ言うと、背を翻し走り去っていった。 「いやぁぁぁぁぁぁ!!!しっかりして!!」 香奈子は晴子の方には目もくれずに、シュンの体を抱きかかえている。 その体はまだ暖かかった。 しかし、元々体の弱い彼を即死させるには、先程の銃撃は十分過ぎた。 彼の口が再び開く事は無かった。 彼の笑顔が再び見れる事は、無かった。 「そんな……、そんな…………!」 香奈子はシュンの体を抱いたまま、泣いていた。 嗚咽をあげ、ずっとずっと、泣いていた。 「私、変われると思ったのに……。あなたとなら、真っ直ぐに生きていけると思ったのに……」 香奈子は、後悔の念に押し潰されそうになっていた。 (私は馬鹿だった。私の事を思ってくれる人が現れたのに、私の身勝手な行動のせいでその人の命を奪ってしまった。 きっと彼の命は、彼の人生は、私なんかのより何倍も尊いものだったはずなのに……) いつ終わるとも分からぬ香奈子の嗚咽は続いてた。 しかし、終わりは唐突に訪れた。 ダァンッ!! 一つの銃声と共に、香奈子の思考中枢は引きちぎられた。 ダァンッ!! もう一度、銃声。 香奈子の頭は、半分以上が消失していた。 「本当に理解に苦しむ。死んだ奴の事など、放っていけば良いものを。」 そう言って弾の切れたベネリM3を捨て、シュンと香奈子の武器を拾う狩猟者、巳間良祐。 彼は浩之達の残した支給品の一部を拾い、新たな獲物を求め、 自転車に乗り氷川村へとやってきたのであった。 「有効な装備が増えてきたな…。これで効率よく、狩りが行なえそうだ。」 良祐は不敵に笑っていた。 そして横たわる二つの死体には目もくれず、すぐに次の獲物を探しに歩き出していた。 後に残ったのは、氷上シュンと、彼の死体に覆いかぶさるように倒れている太田香奈子の死体。 それに、地面に染み込んだ香奈子の涙だけだった。 巳間良祐 【時間:1日目午後6時30分過ぎ】 【場所:I-06】 【所持品1:89式小銃 弾数数(22/22)と予備弾(30×2)折りたたみ式自転車・予備弾(30×2)・支給品一式・草壁優季の支給品】 【所持品2:スタングレネード(2/3)・ドラグノフ(残弾10/10)・H&K SMG U(6/30)、予備カートリッジ(30発入り)×5】 【状態:軽い疲労。次の獲物を探している。】 太田香奈子 【時間:1日目午後6時30分過ぎ】 【場所:I-06】 【状態:死亡】 氷上シュン 【時間:1日目午後6時30分過ぎ】 【場所:I-06】 【状態:死亡】 神尾晴子 【時間:1日目午後6時30分過ぎ】 【場所:I-05】 【所持品:支給品一式、H&K VP70(残弾、残り16)】 【状態:軽い疲労。次の標的を探している。】 【備考】 ・弾の切れたベネリM3はその場に放置 ・シュンと香奈子の残りの荷物は遺体そばに放置 - BACK