祭りの後




ドンッ!!
と外から聞こえる一発の鈍い音。
「なに!?」
広瀬真希は反射的に立ち上がっていた。
花火だろうかとも考えたがそんな楽観的な考えはすぐさま消え、おそらくは銃声だろうと気付く。
「北川、大丈夫かしら……」
数分前、外に飛び出していった割烹着姿の少し間の抜けた男のことを思い出す。
なんとなくだがそれだけでは無い様な気もしたが、そもそも出会って間もないのだ。
――あいつのことは何も知らないわけだし、ま、気のせいよね。
そんなことを考えていると、給湯室から少しはにかみながら遠野美凪が出てきた。
手には先ほどまで作っていたハンバーグ。
それをニコニコと広瀬の前に差し出した。
「……どうぞ」
――この子も無表情だしなに考えてるのかいまいちよくわかんないわね、ってなにこれ!?
差し出されたハンバーグを見て目を丸くする。
お面のように妙にリアルな人間の顔の形をしている。
「これを……食べろって?」
……コクコク。
「……うまくできました」
――いや確かにうまいわよ。なんて言うか、芸術?でもうますぎて逆に気持ち悪いわよ。
ただ固まるしか出来ない広瀬。

気にした様子も無くフォークとナイフを差し出す美凪にとてもそんなことは言えず、ただ黙って受け取った。
「……はぁ」
溜め息が漏れる。とその時だった。

ドンッ! ドンッドンッ!!
と再び銃声、しかも今度は立て続けに三発。
そして何事かと考えるまもなく響き渡る轟音と共に地面が大きく揺れた。
「ななななになになに、なんなのよっ」
軽くパニックに陥りながら美凪の手を引くと、机の下へともぐりこんだ。
慌てふためく広瀬に対し美凪はと言うと、キョトンとした顔で広瀬の頭をなでていた。
「落ち着いてください……はい、お米券」
「……そんなのあとでいいから」
大物なのか鈍いだけなのか、ますます美凪のことがわからなくなり、差し出されたお米券を押し返すと頭を抱える。
建物がまだ余震で揺れている中、落ち着きを取り戻そうとゆっくり深呼吸。
スー……ハー……スー……ハー……、よしおっけ!
それにしてもいまのは揺れはなに?
爆弾でも持ってる奴がいるとかなのかしら……だとしたらたまったもんじゃないわねホント。
胸中には再び割烹着姿の北川の顔が浮かび、そして爆弾で弾け飛ぶ姿が浮かんできた。
「あー、もう!」

フルフルと首を強く振るとその疑念を打ち消すように言った。
だが、一度わいた疑念は簡単には消えずモヤモヤしたものが広瀬の頭をめぐる。
気が付いたときには机から這い出て玄関に向かって走っていた。

玄関のノブを掴み、捻る。
直後、二回目の轟音が襲った。
少し開きかけたドアが勢い良く広瀬の身体にあたり思わずよろけてしまう。
「っとになんなのよっ!」
怯むことなく体勢を整えると、外へと飛び出した。
キョロキョロと首を振ってみるも、注意深く見渡す必要も無く目的の人物は見つかった。
見た感じ無事なようだが、それよりも広瀬の目に飛び込んできたものは爆炎とその下にある……それが何かを認識する前に目を逸らしていた。

えっと……北川のそばには……男の子?あ、肩を抱いてる。怪我してるのかしら?
傍には泣きじゃくった同い年くらいの女の子とそれを必死になだめるポニーテールの子。
向こうからは眼鏡の男……女の子を背負ってるわね、ってあんな子供まで参加させられてるの!?

見てはいけない、何かも考えちゃいけない。
奥底から沸いてくる直感に促され目の前の惨事から必死に視線を避けた。


注意を逸らそうと辺りの様子を窺い状況把握に努める。

「北川っ!」
広瀬の言葉に全員が広瀬を向き、そして北川以外の人間は身を構えた。
――えっえっ?
その剣幕に押され、思わず身じろいでしまう。
「……大丈夫、知り合いだ」
北川の一言に、彼らの緊張が緩まったのが見て取れ安堵する。
「一体何が……」
自分の意思とは裏腹に動こうとする目線を止め、北川の顔に戻しながら言った。

――。

誰も何も答えない。
泣き続ける杏の声だけが、静寂を許さないように時を動かしていた。
英二が背中から芽衣をそっと降ろし、代わりに杏の身体をそっと抱きかかえた。
「――詳しい話はとりあえず後でするとして、どこか安全な場所は無いかな?」
「安全かはわかりませんけど、とりあえず今まで私がいたところならすぐそこに……」
「じゃ、そこにしよう。みんないいかな?」
英二の言葉にただ黙ってうなずく一同。
もはや考える気力も無いのかもしれない。
杏を抱えたまま歩き出す英二。そして「行こう」と促すと小走りに芽衣が並び、みながみなゆっくりとその後を追う。


いつの間にいたのか、消防署の扉の前に立っていた美凪が小さく微笑む。
何も言わず一同を迎え入れ、静かにその扉が閉まるのだった。




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【時間:17:00頃】
【場所:鎌石村消防署(C-05)】
【関連:155罪と罰を通るルート】

相沢祐一
【持ち物:SPAS12ショットガン】
【状態:体のあちこちに痛み。若干の吐き気】
緒方英二
【持ち物:予備の弾丸、荷物一式、支給品の中にはラグビーボール状のボタンと少し消費した食料と水とその他】
【状態:疲労はあるものの外傷等はなし】
神尾観鈴
【持ち物:フラッシュメモリ、荷物一式×2(自分の分と相沢祐一の分)】
【状態:疲労はあるものの外傷等はなし】
北川潤
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾、他支給品一式、お米券】
【状態:腹部と胸部に痛み。若干の吐き気】
春原芽衣
【持ち物:英二の支給拳銃、荷物一式、支給品の中には少し消費した食料と水とその他】
【状態:疲労はあるものの外傷等はなし】
藤林杏
【持ち物:なし】
【状態:混乱しつつ泣いてます、精神状態不安定】

広瀬真希
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:混乱】
遠野美凪
【持ち物:消防署にあった包丁、防弾性割烹着&頭巾 水・食料、他支給品一式、お米券数十枚】
【状況:冷静】

【備考】
ラグビーボール状態のボタンは英二が、英二の拳銃は芽衣が回収
北川の携帯電話は転がったまま
杏の持っていたショットガンは祐一の手に
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