波乱の兆し




あれから十分以上が経過した。しかし、貴明たちと宗一はこう着状態であった。互いに相手の出方を伺っているためだ。

(――相手は4人。うち1人はショットガンを持っている。
しかし、ゲームに乗っているものが普通は集団で行動するとは思えないが……)
「おい貴明。どうすんだ?」
雄二が貴明に尋ねる。
「まだ相手が何者か、武器がなんなのかもわからない。もう少し様子を見たほうがいい」
「そ…それなら私が試しに外に出て………」
「だ…だめだよマルチちゃん! 危ないよ!」
貴明たちの向かいの物陰に隠れていたマルチが顔を出そうとしたのを一緒にいた沙織が制止する。
「――ならこうしよう。雄二、これ持っててくれ」
そう言うと貴明は自分の持っていたショットガンを雄二に手渡した。
「え!? 貴明おまえ何する気だ!?」
「俺が試しに外に出て相手に話しかけてみる。それで、もし相手が敵だったらそいつを敵に向かって射ってくれ」
「ば…馬鹿。おまえ死ぬ気か!?」
「そ…そうだよ貴くん! それ凄く危ないと思う!」
「やめてください貴明さん。そういうことはやはり私が……」
「みんながそう言ってくれる気もわかるよ。でもさ。いつまでもこうしていられないでしょ?
こうしているうちに別の敵が来て全滅なんてことになったら洒落にならない」
「そ…それもそうだがよ」
「大丈夫だ。俺だってそう簡単に死ぬつもりはないよ」
そう言って貴明は雄二たちにニッと笑った顔を見せる。
「――わーったよ。でも、間違えておまえを射っちまうかもしれねーからな?」
「サンキュー」
貴明同様、覚悟を決めた雄二はショットガンを握った。

「――来るか……」
宗一も貴明たちの動きを察知して、自分も動こうと一歩踏み出した。
その時……



「待てぇい!」
「ん?」
「え?」
貴明たちと宗一の耳に聞き覚えのない男の叫び声が聞こえた。

「だ…誰だ?」
「どこから聞こえた?」
「はわわ…わかりません」
「――!? 見て。あそこ!!」
「!?」
沙織が指差す方へ貴明たちが目を向ける。

そこには沈みかけている夕日をバックに一人の男が立っていた。
――それも、わざわざ民家の屋根の上に……

「……なんだあれは?」
「さあ…」

「このクソゲームのルールに縛られてしまっている愚かなガキ共よ、この俺を見るがいい。
ゲームに乗ることなどなく、ただ愛する妻と娘を守るために自分の信念を貫き通し一直線に前に突き進む男……………
人それを『父親』と言うッ!」

「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「わ〜。かっこ良いですね〜」
なんとかと煙は高いところが好きとは言うが、まさか本当だったとは、と宗一と貴明たち(マルチ以外)は思った。




「………おい! そこのガキ共、なにぼけーっとしてんだよ! ここは『だ…誰だおまえは!?』って聞いてくるのがお約束だろうが!?」
「知るか」
「くっ…最近のガキはマ●ン●ボも知らねえのかよ……
せっかく村を見つけたからダッシュで駆けてきたっていうのによ………」
などといいながら今度は肩で息をする男。
しばらくすると、調子が戻ったのか再び顔を上げて貴明たちにこう言った。

「あー…本題に入るが、おまえら古河渚と古河早苗っていう奴らを見かけなかったか? 妻子なんだが……」
(――古河? 妻子?)
宗一は診療所で早苗から聞いたある名を思い出した。
「おまえ、古河……秋生か?」
貴明たちが男の方に目がいっていることを確認すると、ためしに宗一は男に尋ねてみた。
「!? おまえ、何か知っているのか!?」
すると、男と貴明たちの目が今度は宗一に向く。
「あ。いや……早苗って人なら今この村の診療所に……」
「なんだと!? よおし。待ってろ早苗ぇぇぇぇぇぇ!」
「……………」
宗一からそのことを聞くと男――古河秋生(093)は診療所へと駆けていった。
もちろん民家の屋根から下りて。(しかも、やや飛び降り気味に)


「……なんだったんだ? あのおっさん?」
「さあ……」
取り残された貴明たちはなにがなんだかわからず、ただ途方に暮れるだけしかできなかった。
「――なあ。おまえら」
「あ……」
気がついたら宗一は貴明たちから数メートルほど近くまで来ていた。
気がついた貴明たちはあわてて武器を構える。
「ああ落ち着け。俺はこのゲームに乗っちゃいない」
そう言うと宗一は両手を上げる。


――とりあえず宗一は自己紹介とこれまでのことを貴明たちに説明した。

「つまり宗一さんは主催者を倒すための仲間を集めているんですね?」
「ああ」
「貴明。俺たちも一応診療所に行ったほうがいいんじゃないか?」
「まあ…人は多いほうがいいしな」
「あの…」
「ん?」
宗一たちが話していると、背後から女の子の声がした。
振り替えるとそこには物静かな感じのする自分たちと同年代の少女がいた。

「あっ。るりるり!」
「え? この子が?」
そう。今沙織が言ったとおり、彼女こそ沙織が探していた人の1人、月島瑠璃子(067)だった。


「でも、よかった〜。るりるりが無事で」
「うん……あとは長瀬ちゃんたちだね……」
その後、自己紹介などを一通り済ませたあと、瑠璃子を加えた貴明、雄二、沙織、マルチはそろって診療所へ向かっていた。
(ちなみに宗一は「食料調達がまだ終ってない」ということで村に残った)

「こっちは5人。しかも宗一が武器も貸してくれたから、これでまた少し安全になったな」
そう言って雄二は瑠璃子の持っているベレッタを指差した。
「うん。そうだね…」
瑠璃子も自分が今持っている銃に目をやった。
これは支給品の鋏をなくしたという瑠璃子に宗一が貸したものである。
「宗一が言うには診療所は今ゲーム脱出を考えている人たちが集まっているみたいだね」
「さっきのおじさんも今頃診療所で奥さんと再開しているのかしら?」
「もしかしたら浩之さんたちもいるかもしれませんね」
ゲーム脱出への希望が見えてきた貴明たちは診療所へ向かう足が自然と早くなっていた。



「あ。月島さん」
「なに…?」
あることに気づいた貴明が瑠璃子の方を見て言った。
「それ予備の弾は無いみたいだから、仮に使うときは慎重に……ね?」
まあ。人殺しの道具なんて俺たちに使うときがあるかなんてわからないけど、と付け足して貴明は苦笑いした。
「わかってるよ河野くん…」
そう言うと瑠璃子はまたベレッタに目を向ける。

(――使うときは確実に使える場所で使わなきゃ………)
この時、瑠璃子の口元がわずかに吊り上がったことに気がついた者はいなかった。




 河野貴明
 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】
 【状態:健康。診療所へ行く】

 向坂雄二
 【所持品:死神のノート(ただし雄二たちは普通のノートと思いこんでいる)、ほか支給品一式】
 【状態:健康。診療所へ行く】

 新城沙織
 【所持品:フライパン、ほか支給品一式】
 【状態:健康。診療所へ行く】

 マルチ
 【所持品:モップ、ほか支給品一式】
 【状態:健康。診療所へ行く】

 月島瑠璃子
 【所持品:ベレッタ トムキャット(残弾数7/7)、ほか支給品一式】
 【状態:健康。診療所へ行く。隙をついてマーダー化するつもり】


 古河秋生
 【所持品:S&W M29(残弾数5/6)、ほか支給品一式】
 【状態:健康。ダッシュで診療所へ】

 那須宗一
 【所持品:FN Five-SeveN(残弾数20/20)包丁、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
 【状態:健康。引き続き村で食料調達】

 【時間:午後5時50分】
 【場所:I−07】
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