ロワちゃんねる始動




敬介が去った後、美汐は再び机の上の自身の支給品に目を見やる。
何もするつもりも無いが、何もしないでいるというのもまた空虚なものだった。
おおよそ何か一人で出来そうなものは無いかと漁ってみるものの、見当たりはしない。
小さな溜め息を漏らしそれらをバックに戻していく。
全てをバックに戻し、再び椅子に深く腰を落としまた一つ溜め息を漏らす。

その直後のことだった。
特に気を払ってはいなかったので今まで気付きはしなかったが、部屋の隅に小さなパソコンが置かれていた。
触れてもいないにもかかわらず、小さな起動音と共に立ち上がっていた。
何が起きたのかと美汐が慌てて駆け寄ると、モニターに一人の青年が現れた。

『――みなさん聞こえているでしょうか』

(この人どこかで……)
ノイズで画面が乱れ、はっきりとはわからないがどこか見覚えがある顔だった。
事実、美汐の学校の生徒会長なわけだがそこまで思い出すことは無かった。
美汐が思慮している間も青年は言葉を続けている。

『――015 緒方理奈
   018 柏木楓――』

これは死者の放送だという。
だが、それを聞いても何も感慨は沸いてこない。

彼が主催なのだろうか?

一瞬そう考えたがよくわからない。
画面の中の顔が青く染まっているのが見て取れた。
彼も参加者の一人なのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
考えてもわからないことは考えないほうがいい、そう美汐は判断する。

『――以上です』

同時に青年の姿は消え、通常の画面に戻った。

知り合いの名前は無かった。
特に安堵の気持ちが沸いて来るわけでもなく、死人は出ているという現実だけが認識出来た。

画面を消そうと、ディスプレイに手を伸ばす。
と、デスクトップに『参加者の方へ』と書かれたフォルダが置かれているのが目に止まった。
伸ばした手を戻し、暇潰しにはなるだろうか、とマウスを持ちそのフォルダを開いた。
そして中に入っていたchannel.exeをクリック。

――画面に映ったそれは「ロワちゃんねる」の文字。
そして立っているスレッドは三件。

『管理人より』
『死亡者報告スレッド』
『自分の安否を報告するスレッド』

順にスレッドを開き、中を確認していく。
「――なるほど」
気になったのは『自分の安否を報告するスレッド』の一文。

――みんな、希望を捨てちゃ駄目よ。

何が希望なのか。
この島にも、自分の町にもそんなものは無い。
事実私がここに何かを書き込んだところで、誰かが心配してくれるのだろうか?

美汐はおもむろにキーボードを叩いた。


―真琴、相沢さん、元気ですか?
 さしあたって私は元気です。

手が止まる。
何か伝えたいことも思い浮かばなかった。

(――これなら)

少し考えた後、今打ち込んだ文字を全て消し再びキーボードを打ち始めた。
打ち終わった後に、少し戸惑いながらも送信ボタンを押す。

「少しは暇潰しになるかしら」

そう言ってパソコンのディスプレイから離れる。
後に残された書き込みだけが、本人は自覚していなくてもゲームを大きく動かしていく――。



 自分の安否を報告するスレッド

2:天野美汐:一日目 18:16:21 ID:H54erWwvc

皆さん気をつけてください!
最初は友好的に近づいてきたのに、いきなり態度が急変して襲われました。
なんとか逃げることが出来て、今これを見つけて書いています。
確か名前は「橘敬介」って名乗っていました。
トンカチを隠し持っていると思います。
真琴、相沢さん、どうかご無事で。




『天野美汐(005)』
 【時間:スレの通り、18:16:21】
 【場所:I−07】
 【所持品:様々なボードゲーム・支給品一式】
 【状態:普通。ただ漠然と過ごしている】
 【備考:195の「顔を出す」と言うウサギのセリフの保管、声はパソコン以外にも外で流れている過程で】
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