銃声(オト)の無い恐怖




「何とか着いたな…。」
鎌石村消防署【C-5】より、徒歩で30分程度の処にある普通の日本家屋【B-5】、そこが北川潤(30番)達の第二の寝蔵だった。
道中の旅は急ぎすぎず…だからといって遅すぎず…誰にも気づかれず、敵は勿論見方にも…慎重に期していた。
日本家屋を選んだ理由は庭中に敷き詰められた砂利の特性を活かしてのものだった、敵が来たとしても足音で感知が容易だからだ。
もちろん三人が踏んだ跡の砂利の慣らしも忘れずに…。
「…よくこんな所見つけられましたね。」
遠野美凪 (69番)に訊ねられた時も
「まっ、御宅らと出会う前にここら辺の地理は色々と調べてたしな」
北川は素っ気無い態度だった、家捜しは泥棒みたいで好きでは無かったのだ。

「はあっ…ついたぁ…」
広瀬真希は疲れた顔をして玄関で肩の荷物を降ろし一息付く。
「ご苦労さん、じゃあオレは本当に家の中に誰も居ないか確認しとくから、休憩しちゃってよ。」
北川はそう言って両足を靴紐で結んだ靴を首にぶら下げ、ショットガン片手に人気のない家の中を物色する、
「そうそう、靴はちゃんと持って入ってくれよ。」
言い忘れたかのように二人に念を押す北川…泥棒そのものに見えた。
「…マメな人ですね。」
美凪はそう言いながら靴をもって台所の方に向かう
「まったくね…見習うべきなのかしら…。」
玄関の鍵を閉め美凪と同じく靴を持って中に入る真希。
「夕飯何にしますか…?」
「う〜ん…。」
二人は二人なりに深刻だった。
時間は午後五時過ぎ、定期放送まで残り一時間…。

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北川は家の中に自分達以外誰も入ってない事を確認した跡、どこか落ち着ける場所を探していた。
(ここなら静かで落ち着けそうだな)
辺りを見回す北川、壁の端っこに乱雑に置かれた雑誌の束、古タイヤ、ダンボール、日本家屋の横に取り付けられたその場所は、
車やバイクこそ無かったが田舎などで見受けられる掘っ建て小屋のガレージである
ここの家の子供の物だろうか、ほこりの被ったビニールプールやミニ四駆のレースコースの一部分なども並んでいた。
(そう言えば俺のアバンテ何処やったっけ…棄てた憶えは無いんだけどなぁ。)
レースコースに触発されたのか、自分の世代の愛機をふと懐かしむ…。
(あれは…。)
北川は壁に面して立てかけられたみかん箱を二回り大きいくらいの木箱に目を奪われる
傘立ての中の傘のように木箱の中に乱雑に木の棒が入っていた…農具入れだ。
(…田舎ってこんなものがあるんだな。)
北川は木箱から柄の部分を木箱から取り出し剣先の刃ざわりを確認する、年代物の所為か少々表面が錆びていたが、気にはしなかった
(ショットシェル×8発とガンストラップに予備の4発、計12発か…。)
自分と仲間以外の参加者116名、(みちるを除く)自分の生命線とも言える弾数の役十倍、と考えるとどうしても心伴ない
心の中で…まだ一度も使われていない支給品と参加者名簿といった自分の荷物を交互に思い浮かばせ、丁度いい重さと判断したのか
剣先を下に向けて適当なロープでバッグに括りつける…移動中にいつでも取り出せるように…。
(必死だな…オレって……。)
無言で作業を繰り返す北川、現状を斜め上或いは、斜め下に考えを持っていこうとする。



その時何かが『パコッ』っと北川の後頭部に飛んで当る、何かは解ってる…スリッパだ。
(スリッパなんていつの間にもってきたんだ…?)
もう片足のスリッパを手に広瀬真希を見てふと思う、当の本人はガレージをキョロキョロと見てる…。
「こんな所にいたのね、で…それは?」
北川がそれとなくバックに括ったものが気になったらしい、ミニ四駆のレースコースを横目にしながら…。
「これか?ほらっ。」
取っ手に手を掛けバッグから鉄の刃先を惜しげもなく見せる北川、
「あたし的には持ち主には悪いけど…鉄砲なり刀のほうがよかったわね」
身も蓋も無い台詞を喋る広瀬、だが悪気は感じられ無い口調のようだ。
「オレは気に入ってるぜ、それにそんな都合よく鉄砲なり刀が置いてあるかってんだ。」
同じく身も蓋も無い台詞を喋る北川、しかし見つけた物が余程気に入ったらしい。
北川が手にしてるもの正体は九八式円匙、とどのつまりはスコップである。
「それはそうと…夕御飯出来たからそろそろきてね。」
思い出したように台詞を吐く広瀬、
時間は午後五時半過ぎ、定期放送まで残り30分…。

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「モグモグ――遠野…そういえば支給武器の中に小麦粉あったよな?」
消防署で作っていた残り物の鮭のおにぎりを頬張りながら北川は話を切り出した
真希の支給武器?の『和の食材セット』の中身をふと思い出し食べながら話す…。
「パクパク――真希さんと一緒に夜食のバターロール作るために一袋使ったので、あと一袋(1kg)ってとこです。」
「ズズーッ――美凪、食べながら話すのは行儀がわるいわよ。」
昼間に作ったハンバーグの残りの野菜炒めと
夜食のバターロールの残りの小麦粉と味噌で作った水団を交互でパクつきながら交互に話す二人。
「う〜ん…美味しい…。」
悩みながら野菜炒め&水団を食べる北川、悩みと喜びが交錯しているのだろうか。
「…美味しい夕御飯を悩みながら食べることに意味はあるのでしょうか…。」
「あたし達の料理が美味しいのは解ったから、マンガの影響での小麦粉は止めなさい!無理だから…。」
ついには北川に説教し始める二人…しかし理に適う的確な発言…どこか話がずれてるが…。
「消防署から消防着、パクっとくべきだったかなぁ…。」
「北川さんは3人分の消防着の重量がどれくらいなのか解ってるのでしょうか?」
「火傷はしないかも知れないけど爆風でオジャンだって」
ヘンなことにこだわる北川、それをツッコム美凪、美凪をフォローし追い討ちをかける広瀬、
消防署に居たころとは違う会話の流れ型だ…。
「広瀬、もずくパックも食え、折角冷蔵庫に入ってたのに。」
「あたしはもずくとか海苔とか駄目なの、ざるそばの海苔も駄目なくらいなんだから。」
「…でもおにぎりの海苔は大丈夫ですよね?」
「あーあれだ、味噌汁のわかめが嫌いなタイプだ…何となくわかる。」
ありきたりの何処かの食卓でありそうで無いような会話…今が平和な証拠だった…。
時間は午後五時半過ぎ、定期放送まで残り10分…。

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部屋の中で『コチ・コチ・コチ』と時計の針が進む音だけが鳴っていた、
三人は終止無言、手には参加者名簿と地図、自分達の荷物は纏められている。
「あと五分後…島中がガラリとかわる…。」
話を切り出すのは北川、肩のSPAS12ショットガンとバッグに括りつけたスコップの感触を確かめるように触る。
「…身内がいなくなるのは辛いですから」
鞄の中のタッパの中身が型崩れしないかを気にする美凪、みちるのことを気にしているのだ
「味方に成るはずだったのが、足でまといにもなるのね…。」
頭を掻き毟る広瀬、もう片方の手の携帯電話で北川と赤外線受信でメールのやり取りをする。
「ぶっちゃけ…クラスの奴らも参加してるんだが、放送のあと何しでかすかわからん…。」
「国崎さんと霧島先生、大丈夫でしょうか…。」
「似たようなものね…敵討ちの八つ当たりなんかには巻き込まれたくないわ。」
三人がそれぞれにゲームに参加している仲間の顔を思いだす。
「銃声一つないわね…怖いわね。」
広瀬が辺りの空気を感じ取る
「……。」
美凪の沈黙が気になったのか、北川が美凪の肩に手を置く
「…こういう時、絶対とか大丈夫だとか言葉かけてやりたいけど…。」
言葉のつまる北川、美凪は北川の目を真剣に見る。
「…辛くて苦しいときでも前へ進め。」
コクンとうなずく美凪…。
『ザザーッ!!』
そのとき島全体にスピーカーの雑音が響いた
「始まるぞ…。」
時間は午後五時過ぎ、定期放送まで残り一分…。

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【時間:1日目午後6時(放送前)】
【場所:日本家屋(周りは砂利だらけ)】【B-5】

北川潤  (30番)
【持ち物:SPAS12ショットガン(8/8+予備4)防弾性割烹着&頭巾 九八式円匙(スコップ)水・食料、支給品一式、携帯電話、お米券×2 】
【状況:冷静・臨機応変 放送後のクラスの仲間を警戒 】
広瀬真希 (87番)
【持ち物:消防斧、防弾性割烹着&頭巾、スリッパ、水・食料、支給品一式、携帯電話、お米券×2 和の食材セット4/10】
【状況:周囲警戒 放送後のクラスの仲間を警戒】
遠野美凪 (69番)
持ち物:消防署の包丁、防弾性割烹着&頭巾 水・食料、支給品一式、特性バターロール×3 お米券数十枚 玉ねぎハンバーグ】
【状況:放送前、緊張】

【その他】
北川のショットガンの弾数を追加しました。
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