──祖先の思い出




 平瀬村の方に行こうとしたが、途中思い立って鹿野神社の方角に向かった。

 彼は、走っていた。
 放送に、神尾晴子・神尾観鈴の両名の名前はない。
 ならば『生きている』と考えていいのだろうか。
 彼は、ただ不安だった。

 周りの森はまるで事業所のプラスチックの観葉植物のように何の音もせず
 風は吹いているがその風は生暖たく、Yシャツの背中は走りに走ったので汗ばんでいる。

 恐怖を感じないというとウソになる。
 ただ、探せるのは『今』しかない。少しでも遅くなればなるほど生存の可能性は低くなる。
 どこにいるかの当ても無く、只、今に全てを賭けて探すしかなかったとも言える。

 方向を変えて神社、つまり山の方に向かおうとしたのも、ただの直感でしかなかった。
 下手に人のいる村に向かうよりも、誰もいない神社のほうが、観鈴はいるかもしれない。
 そう思い立って、方向を変えた。

 否、実際はそこまで考えても無かった、というよりも考えられてなかった。
 ただ『呼ばれた』、そんなような感じだろうか。
 後から考えれば、そう彼女が「考えるのか」どうかはわからない。

 ただ、観鈴は精神的に明らかに障害を負っている。人と会うのは苦手だ「ろう」と。
 神社に着いた時、敬介は自分にそう理屈付けをしていた。






 神の社についた時には既に日は落ちていた。

 警戒して入ったが、神社には誰もいない。
 そして、探していた人間も、いなかった。

 敬介は、その神社の境内をしばらく探してみた。
 だが、まったく人気が感じられない。あるのは本殿と離れの蔵だけだった。

 敬介は蔵も探してみようとした。だが、鍵がかかっている。
 これでは誰も入れるはずが無い・・・と諦めた。

 だが、なんとなくではあるが、この蔵の鍵を壊してみようと思い立った。
 この蔵は人気が無いし、鍵もかかっているので誰も入った形跡が無いし近づいた形跡すらない。
 下手に身を村の中に隠すよりもこの中の方が安全かもしれない。幸い窓も高いところに一つしかない。

 鍵は懸かっているが持っているトンカチでぶち破れそうだった。

 彼は、渾身の力をハンマーにかけて、その鍵を叩き壊す。
 2・3回たたき続けると、その蔵の鍵が音を立てて壊れた。





 蔵の戸を開けると、そこは埃にまみれていた。

 そして蔵らしく、神刀や鎌倉時代に奉納されたのだろう函が残っていた。
 どうもこれは蒙古襲来の際に奉納されたものらしく、
 昔、水軍がここを拠点としていたのだろう。そしてその戦勝を祈願する為の神社だったのか。
 函を開けてみると鎧が中に入っていた。かなり古い物だろう。

「神刀?」と彼は蔵の中で足を止めた。

 ──神刀の函があるという事は、刀がこの神社に奉納されているのでは・・・

 彼は急いで、本殿に戻る。そうするとやはりそこに鏡と刀があった。
 初めて気がついた。神社というもの自体も立派な武器庫である場合もある。
 宝物殿に戻ると、古くはあるが鎧と弓もある。

 どれくらい使えるのかは判らない。だがこれは複数ある。
 無いよりかは遥かにマシな武器と防具。
 正しく神の助けかと、その時将に彼は天に感謝した。

 その宝物殿の中では、月あかりと共に白い羽根が蛍の様に静かに光っていた。




橘 敬介(64) 時間 6時〜8時? G06地点

武器: 日本刀(鎌倉神刀) 槍 日本の兜 火縄銃 弾薬
    蒙古短弓 毒矢(毒無し) 神風の時沈んだ蒙古の古い兜 等
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