苦労人の受難




「やぁっと……ついたわね……」
相楽美佐枝は大きく嘆息した。
「ごめんなさいですぅ……」
「あー、いーのいーの。気にしないで」
「…………」
「ん?早く行きましょう?それであってる?もう少し声大きく出来ないもんかねぇ」
「…………」
「ごめんなさい?あーもーいいから。さっさと行きましょ。はぁ……」
ここ、鎌石村まで来るのに一行は森の中を通ってきた。
道を堂々と歩いていては『参加者』の目に留まるかも知れない。
しかし、探している人が道を通るかも知れない。
向こうが隠れながら行動しているならどの道探り様が無いのだから道が見える場所をキープしながら隠れて進もうと言うことになった。
なった、のだが……
(茂みが揺れるたびに驚いて飛び上がって梢が葉を鳴らすたびに叫び声を上げて……これじゃ道歩いてる人も丸分かりだったでしょうに……)
本当に『参加者』が通らなくてよかった。
短機関銃は在るが、女三人で装備を固めた『参加者』に勝てるとは到底思えなかった。
まして、一人はどう考えても……言い方は悪いが、足手纏いにしかならないだろう。
隠れて進むことも儘ならないこの娘に殺し合いが出来るとは到底考えられなかった。
(って、殺し合い前提の思考になる辺りあたしも毒されてんのかねぇ……)
はぁ……と再び嘆息する。
「あの……どうしましたか……?」
「なんでもないわよ。早く行きましょ。はぁ……」
「…………」
「ん……?ああ、確かにそうね。じゃああっちにしましょ」
「…………」


「あの……なんですか?」
「あの役場ってこっちから来た人が一番最初に見る建物でしょ?」
「はい。そうですね」
「だったらこの村の『参加者』が一番待ち伏せに使いそうなところって何処?」
「……ああー!」
「だからあそこはやめよう、ってこの娘が」
芹香はこくん……と頷いた。
「そうだったんですか……じゃあ、行きましょうか」
「あぁ、そうだ。ちょっと待って」
美佐枝は愛佳のデイパックを後ろから掴んだ。
歩き出そうとした愛佳は足を取られて滑って転ぶ。
「な、なんですか〜」
涙目になりながら愛佳は美佐江を恨めしそうに見上げた。
「この林を出るともう人目を隠すものは無くなるから。行く前にちょっと聞いておきたいの」
「…………」
美佐江は芹香に向き直る。
「貴方のランダムアイテムは何?差し支えなければ教えてほしいんだけど」
風が一つ吹いて、木々を揺らしていった。
芹香はゆっくりとデイパックをおろして、その中身を二人の前に晒した。
「うわ……」
「わぁ……」
デイパックから出て来たのは……バックパック式火炎放射器。
「こりゃまた……厄介なもんを……」
「…………」
小さく返事をして、芹香は頷く。
「え?え?どういうことですか?」
美佐江は溜息を吐いて、一人泡を食っている愛佳に説明する。


「あたし達、殺し合いはする気無いでしょ?」
「ええ、まぁ……」
「人間の身体ってどれくらい火傷したら死ぬか知ってる?」
「ええと……三分の一位でしたっけ?」
「そ。まぁ試したこと無いから実際どうか知らないけど一般にはそう言うわね」
「はぁ……」
「これ使ったら、殺しちゃうわよ。加減なんて効かない」
「!!」
「そして、このシリンダーが打ち抜かれたりしたらあたしらみんな消し炭ね。火炎放射の燃料が一気に燃え上がるのよ」
「じゃ、じゃあこんなもの捨てちゃいましょうよ!」
「それが『参加者』に拾われたら?人を殺すのにこれほど惨い武器もそう無いと思うわよ」
「じゃあ燃料だけを抜いて……」
「あたしらにそんな技術は無いわ。抜いてる途中に燃え上がったらやっぱり消し炭ね。仮に成功しても捨て場所が無いでしょ。そこら辺に捨ててもし

銃弾でも当たったらやっぱり炎上よ?」
「う〜……じゃあ、全部使っちゃうって言うのは……」
「何処で?」
周囲は森だ。
生木は燃えにくいとは言え、実際燃えるのは燃料だ。
どう考えても良い結末にはならないだろう。
「街に行けば……」
「火炎放射器って煙出るのかしら?出るとしたら派手な狼煙になるわね。色々寄ってきそう。試すにはリスクが大きいわ」
「あぅ……」
「第一、耐熱服も無しに火炎放射使ったらどうなるか……考えんのも恐ろしいわ……」
最早、言葉も出ない。
「使えて脅しで、デメリットが大きすぎんわ……」
はぁ……と大きく嘆息する。


「ま、最大の幸運はこれを貰ったのが芹香ちゃんだった、ってことかしら」
万一これが参加者の手に渡っていたとしたら……考えるのも恐ろしい。
「芹香ちゃん、拳銃持った相手に背は向けないでね。万一打ち抜かれたら心臓撃たれるより早く死んじゃうから」
「…………」
はい、と言って頷く。
「それと、一応背負っておいて。……万一の時は、撃っちゃいなさい。殺されても殺すな、なんて言わないから」
後半は芹香にしか聞こえないように言う。
こく……と微かに頷いて火炎放射器を背負った。
「じゃあ、行きましょうか。はぁ……前途多難だわ……」
美佐枝のもう何度目か分からない嘆息を残して、一行は村に入った。




来栖川芹香
【持ち物:バックパック式火炎放射器(背負っている)】
【状態:やや疲労】

小牧愛佳
【持ち物:デイパック、包丁】
【状態:やや疲労、精神的疲労】

相楽美佐枝
【持ち物:デイパック×2(美佐枝、芹香)、ウージー】
【状態:健康、軽い精神的疲労】

共通
【時間:一日目午後四時過ぎ】
【場所:C-03の森の中】
【状態:村に入る。が、役場には警戒して近付かない】
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