目覚し編




重い、でも置いていくことはできない。
雛山理緒は自分の荷物と更に、今は亡き椎名繭の荷物を抱えながらひたすら神塚山を登っていた。
繭自身の遺体は既に弔った後である。
救えなかった彼女の代わりにはならないかもしれないが、彼女の荷物と共にこの困難を乗り越えていきたい。
それが、理緒なりのケジメであった。

「ふぅ・・・ちょっと休憩、しようかな」

周りは森、視界は決して良くない。
でもそれは、相手にとっても同じ条件である。

「・・・よいしょ」

自分の荷物は足元へ、繭の荷物は膝の上へ。
理緒はぺたんと座り、木々の香りに心を休ませた。

「ごめんね、助けてあげられなくて。・・・私、あなたの分まで頑張るからね」

名前も知らない少女に捧ぐ、理緒の固い意思。
今、彼女は神塚山の山頂へ向かっていた。
そこから周りを見渡せば、きっと島の全景も分かるであろう。
・・・そして、そこから見下ろすことで、何か情報を得ることができるかもしれない。
それは淡い期待である、だが理緒も理緒なりに考えこの結論を出した。

「あ、理緒ちゃん」
「え?!・・・わ、神岸さん?!それに佐藤くんっ。良かった、無事だったんだね・・・」


そんな時だった、彼女の前に知人が現れたのは。
神岸あかりに佐藤雅史、どちらも同じ学校の人物。
・・・ずっと一人でつらい時もあった、繭のことを考えると胸が張り裂けそうであった。
決意の裏に確実に潜んでいた不安、それが前面に押し出されるような感覚を得る。

「か、神岸さん・・・わ、私、わたし・・・」
「お疲れ様、理緒ちゃん。よく頑張ったね」
「あ、あう、ああああぁぁぁ・・・」

涙、とめどなく溢れるそれを抑えることができない。
あかりは優しく理緒の肩に触れ、彼女の背中をさする。

「偉い偉い。それにしても凄いね、私なんてまだ誰にも手を出していないもの」
「えぐ・・・・ぇ?・・・・」
「鞄が二つってことはもう誰か一人は殺したんでしょう?凄いな、尊敬しちゃうよ」

ぎょっとする、理緒はあかりの手を振り払うと一歩後ろにずりさがった。
体勢は座った状態だったので、距離は思ったより空かない。
あかりは気にせず続ける。

「理緒ちゃん、武器はなんだったの?私はこれ、先割れスプーン。えへへ、大はずれ」
「か、神岸さん・・・?」
「でもね、雅史ちゃんは金属バットだったの。これって当たりでしょう?」
「な、何言ってるの?!神岸さんっ」
「ん?ああ、別に理緒ちゃんは知らなくても大丈夫。知る必要ないよ。貸して、雅史ちゃん」

佐藤くん・・・そんな、訴えるような眼差し。
雅史は理緒に顔を向けることができなかった。


俯いたままあかりに向かってバッドを差し出すと、それは凄まじい勢いで奪い取られる。
そしてすぐさま聞こえる、惨劇の音。




フォン、グシャ。フォン、グシャ。フォン、グシャ。

フォングシャ。フォングシャ。フォングシャ。

フォングシャフォングシャフォングシャ。

フォングシャフォングシャフォン・・・




「や、止めてよあかりちゃんっ!も、もう彼女は・・・」

・・・理緒には、命乞いする暇すら与えられなかった。
最初の一撃目から頭蓋を狙われ、そのままの連続打撃は全てクリーンヒット。
あっという間に、雛山理緒だった少女は見る影もない姿に変化した。

「初めてだったし、ちょっと加減ができなかったのかな」

んー、と首を捻るあかりに、もはや突っ込む言葉もない。
呆然とする雅史を無視して、彼女は理緒の荷物を漁り始める。


「あ、かわいいー。・・・ん?24時間後に爆発・・・へぇ、面白いなあ」

理緒の支給品、アヒル隊長。

「ん?ちょっと重いかな・・・あれ、これは・・・」

今だ開けられていなかった繭の支給品。それは。

「わ、消火器だ。どうやって使うんだろう」

躊躇なく、あかりは荷物を自分の鞄へ移動させた。
整理が終わると雅史に向きかえり、にっこり微笑む。
・・・雅史は、笑みを返す余力すら残されていなかった。

「警戒して山付近で休む人が多いかと思ったけど、あんまり人来ないね」
「・・・・・・」
「やっぱり皆村に向かってるのかな・・・私達も行こう」

反論の余地はない。
雅史には、選択肢など用意されていないのだ。

「ふふ・・・この子が爆発するのは明日の正午。
 誰だろうな、爆弾が似合いそうなのは・・・楽しみだなあ」




佐藤雅史
【時間:1日目午後5時45分過ぎ】
【場所:F−07(東)】
【所持品:金属バット、他支給品一式】
【状態:あかりに服従】

神岸あかり
【時間:1日目午後5時45分過ぎ】
【場所:F−07(東)】
【所持品:先割れスプーン、アヒル隊長、消火器、支給品一式】
【状態:志保以外の東鳩女子を抹殺する、他者は興味ない・進路は氷川村へ】

雛山理緒 死亡
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