あれからずっと公子は理奈の死体の側で待ち伏せをしていたのだが、日没前になっても誰一人として現れる事は無かった。 この島の広さから言えば当然のことなのかもしれない。 「今日のところは、この辺にしておきましょうか」 殺人を犯すなどという普段の公子からすれば絶対にありえないことをしたせいで、彼女の精神は疲れきっていた。もちろん、肉体の方もであるが。 デリンジャーとスペツナズナイフをポケットの中に仕舞って、理奈の遺体を埋葬してやることにした。 そんなに深くは穴を掘ってやれないのだが、穴を掘る道具もなかったので仕方が無い、と公子は思った。 むしろ、地面が比較的柔らかい方だったので素手でもある程度掘ることができたのは僥倖だった。 理奈が入れるだけの大きさの穴を掘った後、彼女の体を抱き上げる。つい数時間前は温かかった体が硬直し、冷たい物体と化していた。 その感触にゾッとしながらも丁寧に彼女の体を取り扱う。それがせめてもの償いだと公子は思っていた。 理奈の遺体を埋めた後、その辺にあった木の枝をそこに突き立てた。墓標のつもりだったが、何ともみすぼらしいものであった。 「ごめんなさいね…こんなもので」 一言だけ言い残して、公子はその場を去る。 さて、これからどうするか。 夜になれば奇襲をかけやすくはなるが、同時に自分もその危険に晒される。 まだ百人以上が残っているであろうこの状況でまだ怪我は負いたくなかった。それに、疲労もある。 「どこか泊まれるところを探して、疲れを取るのが先決ね」 それに、着替えも必要だ。この血染めの服では、何かと目立ちすぎる。 地図を見れば、北東の方へ学校があった。学校。かつて自分もそこで教師として教鞭を振るっていた。今となっては、そこは日常の面影にしか過ぎない。 しかし、一番近い建物はここだ。大きさもそれなりにありそうだし、着替えは流石に無くとも洗剤くらいはあるだろう。 「今晩は、ここに泊まる事になりそうね」 他の人間も近づいてくる可能性もあるが、その時はこちらから仕掛けるまで。学校という建物を、公子は知り尽くしているのだから。 山を下って、ようやく学校の一部が見えてきた時、不意にザ、ザ、ザという雑音が聞こえてきた。何かと耳をすましてみると、若い男の声が聞こえてきた。 「あ、あー…これより、1回目の死亡者の報告を行いたいと思います」 公子の意識が、にわかに張り詰めた。 『伊吹公子(007)』 【時間:1日目午後6時頃】 【場所:D−6】 【所持品:二連式デリンジャー(残弾五発)、スペツナズナイフ】 【状態:疲労、服に返り血】 - BACK