別れの後に出会いはある




「結局またるーたち2人になってしまったな」
「そうだねえ……で。これからどうする?」
るーこと春原は浩之たちと別れた後、一度平瀬村の外まで避難していた。
本当はすぐに村に戻り浩之たちと合流したかったのだが、マーダーがまだ村に残っている可能性もあったので戻るに戻れなかった。

「地図によるとこの村の近くにはホテル跡と分校があるようだ。どちらも村と同じくらい人が集まりそうな場所だな」
「じゃあ藤田やみさきちゃんたちがそこに行っている可能性もあるわけだ?」
「ああ。だが村同様人だけでなくマーダーも潜伏している可能性も高い。
先ほどのように銃器を保有している者がマーダーだった場合、るーたちだけで対抗できるかが問題だ」

るーこと春原は自分たちの支給品であるマシンガンとスタンガンをもう一度取り出して見つめた。

「そうだねえ…銃器なら一応こっちにもるーこちゃんのやつがあるけど数が限られているしねえ……」
「うむ。しかもこの銃は連射すると弾が1秒ほどで切れるらしい。説明書に書いてあった」
「う〜ん。じゃあ考えて使わないとだめだな………ん? るーこちゃん。あれ」

ふと春原が前を向くと、暗くて詳しくはわからなかったが少女と思える2人組みの人影を見た。

「人……だね」
「ああ。うーゆきたちか?」
一応マーダーの可能性もあるので茂みと木陰にそれぞれ身を隠す。

「……うーゆきたちではないな」
「みたいだね。それにゲームに乗った奴なら他の参加者と行動するなんてまずない……よね?」
「うむ。話しかけてみるか?」
「それもいいかもしれないけど、もう少し様子を見ても……って、連中こっちに来るぞ!?」
「こちらの存在を気づかれたようだな。うーへい、万一のこともある。武器はいつでも出せるようにしておけ」
「わ…わかった」
言われたとおり春原はスタンガンをいつでも使えるように構えた。
春原とは向かい側の木陰に身を隠しているるーこもいつでも自分の銃を撃てるように構えている。


人影のうちの一方が春原たちから数メートル離れたところまで近づいてきた。
暗くて顔まではわからなかったが、やはり女の子のようだ。

「すまない。そこにいる者たちに尋ねたいのだが、お前たちはこのゲームから脱出したいと思ってはいないか?」
(――あれ? この声ってもしかして………)
春原はこの女の子の声に聴き覚えがあった。
というより春原の記憶の中でこのような喋り方をする少女など1人しかいなかった。

「………坂上智代か?」
春原が少女の顔を確かめるためゆっくりと茂みから顔を出す。
「私たちは一応このゲームから脱出する方法を………!? その声……春原か?」

ああ、やっぱり―――、と春原は思い、少女の前に顔だけではなく完全に姿を見せた。

「ああ。そうだ」
姿を見せると同時に相手の顔を見る。
間違いなく目の前にいる少女は坂上智代(046番)だった。

「うーへい。知り合いか?」
春原に続いてるーこも智代の前に姿を見せる。
「ああ。うちの学校の生徒会長の…」
「うん。坂上智代だ。呼ぶときは智代でいい」
「そうか。るーこ・きれいなそらだ。るーこでいいぞ。
……ところで、むこうにいるうーは何者だ?」
「ああ、そうだった。茜。大丈夫だ。こいつは私の知り合いだ」
智代は後ろを向き、後方いる少女、里村茜(050番)に声をかける。
しばらくすると、みつあみをした少女が春原たちの前に姿を見せた。

「……里村茜です。茜で構いません」
「ン。僕は春原陽平。まあ、苗字でも名前でも好きなほうで呼んでくれ」
「るーこ・きれいなそらだ。るーこでいいぞ、うーかね」
「………うー?」
「あ…ああ、気にしないで。彼女独特のネーミングセンスみたいなものだから……」
頭にハテナを浮かべる茜と智代に対して春原が適当に言ってごまかした。


「しかし、さすがは春原だな。このようなゲームでもしぶとく生きているとは………」
「それは褒めてるんすかねえ?」
「ところで、うーともたちはゲームから脱出すると言いかけていたが、なにか手はあるのか?」
「ああ……そのことなんだが、残念ながら今の私たちにも手立てはないんだ」
「そうか……じゃあもうしばらくは仲間を集めなきゃだめだな」
「そのようですね」
「ところで春原。もしかするとお前たちはこれから村に向かうのか?」
「いや、逆。さっきまで他の連中と村にいたんだけどマーダーに襲われたから散開して逃げてきたんだ」

春原は村であったこれまでのことを覚えている限り智代と茜に話した。

「そうか…少なくとももう2人も死者が出てしまったのか………」
「ああ。しかもそのうちの1人……柏木楓っていう子だと思うけど、その人の姉さんにもその後会ったんだ」
「……それでどうなったんですか?」
「楓を殺したのは柳川――ああ、この人さっき言った楓って子を弔ってた男の人の名前なんだけど、そいつが殺したんだー、とか言ってどっか行っちゃって……」
「そうですか……」
私も友人や知人を殺されたらきっとそう思うかもしれません、と茜は呟いた。

「―――それで。これからどうするんだ春原?」
「とりあえず藤田たちと合流したいんだけど、何しろ大急ぎで逃げてきたから合流場所決めてなかったんだよね」
「うむ。しかし、るーたちはこのホテル跡か平瀬村分校跡に行けばうーひろたちと合流できそうな気がするのだ」
そう言って広げた地図に記されている2つの場所を交互に指差するーこ。


「おそらく今私たちがいると思われる場所がF−03あたりですから………」
「どちらも行ける距離だね。分校跡のほうが少し近そうだけど」
「しかし2手に分かれるのもどうかと思う。なにしろ私たちの支給品が支給品だから」
智代がそう言うと、茜と2人で自分たちのバッグからそれぞれの支給品を取り出す。

「フォークです」
「手斧だ」
「確かに。これじゃ厳しいな。そして僕がスタンガン」
「るーがサブマシンガンだ」
「……陽平とるーこさんのどちらかが私か智代のどちらかと行動しても厳しそうですね」
「ああ。4人でどちらか一方に絞るしかないな」
「それならさ。これで決めないか?」
そういうと春原はポケットから10円玉を1枚取り出した。

「コイントスして表が出たら分校。裏が出たらホテル跡だ」
「なるほど。それなら異論はない」
「るーもないぞ」
「私もです……でも、コインを投げてこれからの行動を決めるなんて、なんか『バトルロワイアル』の桐山みたいです」
「いや…僕もそれを元にしたんだけどね。ていうか茜ちゃんバトロワ知っているんだね」
「はい。詩子…友人が面白いから一度見てみろと言っていたので見たことがあるんです。原作の小説、マンガ、映画を一通り……」
「へえ。見てみた感想は?」
「いえ。所詮はお話だと思っていたので当時は特に何も。
………しかし、まさか自分たちが今になってあのお話と同じ状況に立たされてしまうとは思いませんでした」
「確かに………じゃあ、トスするぞ」
茜にそう言って苦笑いした後、春原は親指でピーンと10円玉をトスした。

くるくると10円玉は宙で回転しながら重力に引かれて落ちていく。
やがて10円玉は地面に落ちて回転を止めた。
出たのは―――――大きく数字の『10』が映っている面。すなわち裏だった。


「……決まりだね」
10円玉を拾いながら春原が言った。
「ああ。じゃあホテル跡に……」
「行きましょうか」
「るー」

こうして春原たち一行はホテル跡を目指して歩き始めた。




 【時間:1日目午後5時55分】
 【場所:F−03(F−02との境界あたり)】

 058 春原陽平
 【所持品:スタンガン・支給品一式】
 【状態:健康】

 120 ルーシー・マリア・ミソラ(るーこ・きれいなそら)
 【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)・予備カートリッジ(30発入×5)・支給品一式】
 【状態:健康】

 046 坂上智代
 【所持品:手斧・支給品一式】
 【状態:健康】

 050 里村茜
 【所持品:フォーク・支給品一式】
 【状態:健康】

 【その他】
・春原たちと智代たちは一緒に行動(ホテル跡を目指す)
-


BACK