悪夢




倉田佐祐理は夢を見ていた。悪夢だった。

佐祐理は夢の中で、森を走っていた。
彼女は自分にとってもっと大事な二人を探し回っていたのだ。
「ハァ、ハァ・・・、早く祐一さんと舞を見つけなきゃ・・・!」

どれだけの間走り回ったのだろう。
しかしとにかく、彼女は祐一の後ろ姿を発見するに至った。
祐一は後ろ向きに立っていた。

「祐一さん、無事だったんですね!!」

彼女は駆け寄り、祐一の肩に手をかける。
――その瞬間、祐一はゆっくりと地面にうつ伏せに倒れた。
「え・・・・・。」

「どうしたんですか、祐一さん!!」
慌てて座り込み、祐一を抱きかかようとする佐祐理。
しかし、彼女の目に映ったのは、

「いやぁぁぁぁぁっ、祐一さん!!」
どす黒く変色した、祐一の顔だった。その顔に、生前の面影は無い。


「祐一さんなんで!?どうして!!いやぁ!!」
祐一を抱きかかえながら泣きじゃくる佐祐理。


その時、死んでいる筈の祐一の腕が動き、自分の首を指差した。
その首に刺さっているのは、赤く小さい矢。
佐祐理の吹き矢の、赤い矢だった。

そして祐一は、否、祐一だったモノは口を開いた。
「酷いな佐祐理さん、自分で殺しといて、忘れちゃったのか?」
佐祐理は頭を抱え、うずくまっている。
「嘘・・・、そんなの嘘・・・、そんなの嘘よぉぉぉぉぉっっ!!!」


そこで、彼女の悪夢は途切れた。


目を開けると、そこは森の中だった。
周りはすっかり暗かった。どうやらだいぶ長い間、寝てしまっていたようだ。

「起きたか女。」
横から突然声をかけられ振り返ると、そこには見知らぬ男が座っていた。

「あなたは誰ですか・・・?」
佐祐理は、起き上がり、恐る恐る尋ねた。
「俺は柳川祐也という者だ。ああ、心配するな、このゲームには乗ってない。」
そう言ってから、柳川は佐祐理の顔を指差した。
「とにかく涙を拭け。泣かれたままだと台詞が聞き取り辛くて鬱陶しい。」

「あ・・・。」
言われて初めて気付いた。彼女はまだ、涙を流していたのであった。
慌てて服の袖で涙を拭う。
「どんな夢を見ていたのか知らんが、随分うなされていたぞ。
あんな無防備な状態で声まで出していては、自分の死期を早めるだけだ。」

佐祐理は夢の内容を思い出し、俯いていた。
「すいません・・・、とても、酷い夢だったんです。」

「そうか・・・。」
柳川はそれだけ言うと、喋るのを止めた。

しばらくして佐祐理が落ち着いたようなので、
二人は自己紹介と、それぞれの経緯、目的を伝え合った。

目的の方向性が一致すると言う事で、彼らは行動を共にする事にした。
その際柳川は一つの問いを、彼女に投げかけた。
「主催者との戦いは厳しい道のりになる。足手まといになるようなら容赦無く見捨てさせてもらうぞ。
それでもついて来るというのか?」
そう、全ての人間を救う事はまず不可能だ。

時には自分が生き延びる為に、人を見捨てなければならない事もあるだろう。
時にはより多くの人を救う為に、一人を見捨てなければならない事もあるだろう。
だが・・・。

「はい、お願いします。佐祐理は例え自分が犠牲になっても、皆さんを救いたいんです。
それが佐祐理に出来る、一番の償いですから・・・。」
それが彼女の答えだった。


どうやら佐祐理は放送があった時間も寝ていたようだったので、
柳川は放送の内容を教えてやった。
佐祐理は放送の内容に、激しく動揺していた。
「そんな・・・、もうそんなに人が死んでるなんて・・・。」

「これが現実だ。ゲームは順調に進行中という訳だな。」
そう言うと柳川は立ち上がった。
「本気でこのゲームを止めたいのなら、感傷に浸ってる暇は無いと思え。さあ行くぞ、倉田。」
迷いの無い声で告げ、彼は荷物を持って歩き出した。


そう、刑事である彼の使命は決まっている。
彼のすべき事は、ただその使命を遂行する事だけなのだ。
感傷に浸るのは全てが終わってからでいい。


「・・・・分かりました。」
佐祐理も強い意志と決意を籠めそう口にし、立ち上がった。

「あの・・・」
「なんだ?」
柳川は立ち止まり、振り返った。

「ありがとう、ございますね。寝てる間、守っててくれたんですよね?」
「・・・・。」

やはり、悪い気がしない。
鬼に支配されていた頃には忘れ去っていた感情が、少しずつ戻ってきているのかもしれない。
「・・・・フン、これでも一応刑事だからな。礼はいらん。」
柳川はぶっきらぼうにそう口にすると、再び歩き出した。

「あはは〜、待ってくださいよ〜」
佐祐理はこのゲームが始まってから、初めて微笑み、そして歩き出した。


たくさんの人が死んだ事は悲しかった。
そして佐祐理は、その中に二人の親友がいなかった事に一瞬安堵を覚えてしまった自分を、
軽蔑していた。
死んだ人達の家族や友人は、想像を絶する悲しみに包まれているであろうにも関わらず、
一瞬でも安堵を覚えた自分を、強く嫌悪した。
強い自己嫌悪と、深い悲しみ。

それでも、今はただ前に進むしか無い。
悲しくても、罪悪感に苛まれても、強く生き続けるしかない。
迷いの無い柳川の背中がそう語っているように思えた。




【時間:1日目 19:00頃】
【場所:G-7】
 
 倉田佐祐理
【所持品:支給品一式、 吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状況:正常。ゲームの破壊が目的。】

 柳川祐也
【所持品@:出刃包丁/ハンガー/楓の武器であるコルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾3)】
【所持品A二連式デリンジャー(残弾3発)、自分と楓の支給品一式、ハンカチ】
【状況:移動中ずっと走っていた為、疲労。ゲームの破壊が目的。】
-


BACK