track6/Blizzard of Ozz




何だかんだと本部の方ですったもんだがあったようだが、放送はどうにか
滞りなく行われた。
もっとも逐一データ提供を受けている綾香には関係のない話である。
適当に聞き流した。

「ったく使えないわねー、久瀬って」

ぶつぶつ文句を言いながら紙パックの野菜ジュースにストローを挿す来栖川綾香。
もちろん支給品ではない。
喉が渇いたので主催部隊に持ってこさせたものである。
ぢゅー、と音を立てて啜りながら、綾香は地面に転がしたイルファを足で小突く。

「じゃー姉さん、とっととヤっちゃって?」

芹香の準備は万端である。
妖狐である真琴の血で書いた魔法陣と、その真ん中に置かれた狐の生首。
あうー、ちょんぱーという冥界からの恨み言もどこ吹く風と涼しい顔で
座っていた芹香は、綾香の声に頷くと何やら懐から取り出した水晶球を
天に翳し、怪しげな呪文を唱え始めた。

(うわー、やっぱこえー)

折からの曇天もあり、周辺は既に薄暗い。
奇妙な抑揚をつけて詠われる呪言に誘われるかのように、生暖かい風が
渦を巻き始める。
つむじ風に吹かれたか、狐の首がカタカタと音を立てる。

(え?)

否、首はひとりでに蠢いていた。

開くはずのない頤を大きく開け、まるで変わり果てた自らの哀れな姿を
哄うかのように牙を噛み鳴らす妖狐の首。
音のない哄笑と共に、周囲の空気が変わっていく。
どこか淀んだ、生臭い匂いが綾香の鼻をついた。
おぞましい気配が辺りを包み込む。

と、芹香の肩がぴくりと震えた。
その震えは瞬く間に全身に拡がっていく。
それはまるで質の悪いドラッグで神経を侵されている中毒者のように、
綾香の目には映った。

「ね、姉さん……大丈夫なの……?」

がくりがくりと身を揺らし、腕を、額を、地面に擦り付け、叩きつける芹香。
さすがに心配になってきた綾香が、芹香の肩を掴もうと手を伸ばした、その刹那。

「ぎにゃあ!」

一瞬の出来事だった。
快楽とも、苦痛ともつかない奇妙な感覚が、綾香の全身を駆け巡り、消えた。
思わず両腕で我が身を抱え、しゃがみ込む綾香。

「何だったの、今の……? って、姉さん!」

見れば、目の前で芹香が地に伏していた。
慌てて姉を抱き起こす綾香。
息が荒い。
ぼんやりと虚ろに見開かれていた瞳が、綾香を映して焦点を戻していく。



「ちょっと、しっかりしてよ姉さん、大丈夫!?」

必死に呼びかける綾香の声を聞いて、ぽそぽそと何事かを囁く芹香。

「え? ……あ」

ふるふると震えながら掲げられた芹香の手指が、Vサインを形作っていた。
秘儀成功。




【37 来栖川綾香】
【持ち物:パワードスーツKPS−U1改、各種重火器、こんなこともあろうかとバッグ】
【状態:健康】

【38 来栖川芹香】
【持ち物:水晶玉、都合のいい支給品、うぐぅ、狐(首だけ)、珊瑚&瑠璃】
【状態:珊瑚召喚成功】

【60 セリオ】【持ち物:なし】【状態:出番なし】

【9 イルファ】【持ち物:支給品一式】【状態:俎上の鯉】
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