虚ろな瞳




月島瑠璃子は手の痺れが取れた後に再び雛山理緒を殺しに戻った。
しかし既にそこはもぬけの殻であった。
繭の支給品一式も、そして繭の死体すらも、無かったのだ。
瑠璃子は自分が使っていた鋏をずっと探し回ったが、それすらも無かった。
彼女にとって唯一の武器なのに、茂みの中にも何処にも無かった。

月島瑠璃子は鋏を探すのを諦めた後、じっくりと思考を巡らせた。鋏が無くては戦えない。
――否、鋏があったとしても満足には戦えない。
先程も鋏があったにも関わらず、丸腰同然の女に遅れをとったばかりだ。

だから、彼女は仲間を、仲間という名の傀儡を探す事にした。
自分自身で戦えないなら、他の者に戦わせ、
自分自身で自分の身を守れないなら、他の者に守らせれば良い。

自分は傀儡達を散々利用し、最後に寝首を掻くだけでいい。
殺戮がしばらく楽しめなくなるのは残念だが、今は仕方無い。
彼女はそう考え、傀儡を探す事にした。

しかし、傀儡探しはあくまで慎重に行なわなければならない。
声を掛けた相手がゲームに乗ったマーダーだったとすれば、
今の自分の装備では抵抗すら満足に出来ずに殺されるだろう。

そこで今は街道付近の茂みで息を潜め、様子を見ている、という訳である。
その後1時間ほどずっと待っていると、
街道の向こうの方から一人の女が歩いてきた。
(駄目・・・、あの女の人は、殺気立ってる。)

女―――神尾晴子は、次なる標的を探し、街道を徘徊していた。

この女と話し合うのは危険過ぎる。
下手すれば姿を見せた瞬間撃たれかねない。
そう判断し、瑠璃子は隠れたままやり過ごした。

またしばらく息を潜めていると、今度はガラの悪い男が歩いてきた。
ベルトには大きな銃を差し込んでいる。
しかしその男の雰囲気は、何故か日常に近いものがあった。
このゲームに参加している者独特の緊張感も、殺気も感じられない。
この男には人に警戒心を抱かせない何かがあった。


男――古河秋生は、街道を歩いていた。
最初に鎌石小中学校を探索したが、彼の家族は見つからなかった。
その後はどこに向かうが迷ったが、自分の勘に任せ氷川村へと向かう事にした。

「あの、すいません。」
突然、近くの茂みから声をかけられる。

「誰だ!!」
秋生はすぐに足を止めて銃を茂みに向けて、構えた。

「待ってください、私、兄を探しているだけなんです。」
瑠璃子は両手を上げて、武器を持ってないことをアピールしつつ出てきた。

「わりいが、ゲームが始まってから人を見たのは嬢ちゃんが初めてだ。」
「そうですか。残念です。」
「すまんな。ところで嬢ちゃんは、古河渚と古河早苗って女を見なかったか?」

「いえ、見ていません。」
瑠璃子は俯きながら答えた。

「そうか。じゃあな」
秋生はそれだけ言うと、立ち去ろうとした。


「待ってください。あなたも人探ししてるなら、一緒に行動しませんか?」
「ふむ・・・。」
「お願いします、私一人じゃ何も出来ませんから。」

はたしてこのゲームで簡単に人を信用していいものか。
恐らくそれは、かなり危険な行為であろう。
しかし、娘と同じ年頃の女の子の頼みを断るのは罪悪感が残る。
出来れば信じてあげたい。

秋生はしばらく考えた後、
「・・・いいぜ。ついてきな。」
そう言い、歩き出した。

「ありがとうございます。」
それだけ言い、後をついていく瑠璃子は、微笑みを浮かべていた。
しかしその瞳だけは、どうしようもなく虚ろだった。
秋生はその事に、気付いていなかった。




神尾晴子
【時間:1日目16:20】
【場所:F−9、街道】
【所持品:支給品一式、H&K VP70(残弾、残り18)】
【状態:健康。次の標的を探している。】


月島瑠璃子
【時間:1日目16:30】
【場所:G−9、街道】
【持ち物:支給品一式】
【状態:健康。最終的にはマーダーになるつもりである。】

古河秋生
【時間:1日目16:30】
【場所:G−9、街道】
【持ち物:S&W M29(残弾5発)、他支給品一式】
【状態:普通。渚と早苗を探して氷川村へ移動中】
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