hungry road




「ゼェ…ゼェ…ゼェ…こ、ここまで来れば、もう大丈夫、よね」
十波由真(070)は後ろから誰も尾行してくる人物がいないことを確認すると、近くの木の陰に腰を下ろした。
「あ〜〜〜〜っ、つっかれたぁ…花梨の奴、大丈夫かな?」
今も岸田に追われているであろう友人の姿を思い浮かべる。まぁ、あの子は逃げ足だけは速そうだから、大丈夫よね。
勝手にそう結論付けて、水分を補給する為にデイパックから水をを取り出……せなかった。
「あっちゃ〜…あの場所に置いてきたまんまだったっけ」
状況が状況だったとはいえ、全食料を失ったのは痛い。しかし、戻ろうにも騒ぎを聞きつけた他の参加者が待ち伏せしている可能性すらある。食い気より命だ。
「さてここで問題よ。この食料の無い状況でどうやってこの先生きのこるか」
1、 キュートで可愛い十波由真は突如食料を調達するアイデアをひらめく
2、 仲間が来て食料を分けてくれる
3、 餓死する。現実は非常である
「あたしとしては2がベストなんだけど、そう簡単に誰か来てくれるわけでもないし、これを期待するのは酷ってもんよね。…となると、答えは1しかないようね…! よしっ、まずは自分の現在位置を確認よ」
地図を取り出そうとする、が手は空を掴んだままだった。
「…地図もデイパックの中だった」
ぶっちゃけた話、由真は双眼鏡一つしか持っていないのである。パックマンではないので、こんなもんをバリバリ食う事など出来はしない。
「はぁ…適当に歩いて、食べ物がありそうなところを探すしかないのか…」
ぐぅ〜、と由真の腹の虫が鳴る。朝から何も食べていなかった。
「こんな状況でもお腹が空くあたしが恨めしいわ…よいしょっと」
ふらふらと立ちあがり、行く当ても無くのろのろと歩きだした。


夕刻になろうとしている時間だったが、由真の視界には民家の一つさえ見えてこない。というか、そもそも自分がどれだけ進んでいるかも怪しい。
きっと今の自分の顔はゾンビのようになっているに違いない。この調子では銃に撃たれて死ぬどころか先に空腹で死にかねない。
いやだ、そんなの、絶対にいやだ。あたしの命はそんなに軽くない…はず。
色々な意味で自分に自信が持てなくなってきた時、とうとう体力が限界に達した。ふらりとよろめき、ドタッと地面に倒れ伏す。
が、がんばれ…あたしの体…ち、ちくしょーっ、動けッ、あたしの足! もっとふんばって体を持ち上げろーッ!
…が、抵抗も空しく徐々に意識が闇の中に飲まれていく。
――答え3 答え3 答え3
そんな言葉が頭をよぎった時。
「にょわ〜…この人、なんか行き倒れになってるよ。まるで国崎往人だ」
失礼ね。行き倒れ何かじゃ…ない。たぶん。
倒れた由真の前にやってきたのは、みちると岡崎朋也ご一行様だった。
「あん? 誰かいるのか…って、誰だコイツ? 死んでる…のか?」
冗談じゃないわ。こんなの最もマヌケな死に方じゃない。ズガンの方がまだましよ。
「あ、ちょっと動いたよ。まだ生きてるみたい」
「…ん? じゃあ、どうして倒れてるんだ。まさか…腹が減ってるとか」
朋也がそう言った時、ぐぅ〜〜〜〜、という大音声が木霊した。
「お腹、減ってるみたいだね…ね、かわいそうだから何かあげようよ」
あたしゃ捨てられた子犬ですか。でも、欲しい…
「…ああ、このまま見捨てるわけにもいかないしな…ほら、あんた。パンだ。食えよ」
目の前にパンが差し出される。すると、怒涛の勢いでパンにかぶりつく由真。ものの十数秒でパンを平らげる。
「にょわっ、国崎往人より早いっ」
「ごちそうさまっ!」
最後の一口を呑みこんだ後、手を合わせて元気に言った。それから朋也に向かって普段から考えると珍しく素直に礼を言う。


「ありがと。お陰で最悪の事態だけは免れたわ。朝からずっと食べてなくって。荷物も無くしちゃうし」
「ふぅん、そりゃ災難だったな…誰かに襲われでもしたのか」
うん、と由真が言ってこれまでの経緯を説明する。
「…ヤバい奴だな。いきなりやって来てしかも殺人鬼か」
「それに、口がものすごく上手いの。もうオレオレ詐欺を遥かに超越してるわよ、あれ」
「オレオレ詐欺って、もう古いよ。今は架空請求の時代だよ」
みちるがツッコミをいれるが、二人は気にしない。
「…口も上手い、か。渚なんかはお人好しだから、簡単に信じちまうかもな…早いとこ、渚を探さないとな。それで、あんたはどうする。連れてけというなら構わないぞ。仲間は多いに越した事はないからな」
「うん、みちるもオッケーだよ」
「そうね…荷物もないし、一緒に行かせてもらうわ。あたしは十波由真よ」
「俺は岡崎朋也だ。で、こっちのちっこいのが」
「みちるだよ。…って、さりげなくチビ言うなーっ!」
ゴスッッッ!
「ぐはっ! ぐぉぉぉぉ…」
鳩尾を蹴られ、悶絶する朋也。
(…このチビッコ、意外にやるわね)
みちるの素晴らしい蹴りに感心しつつ、由真はうんうんと頷いた。




十波由真
【時間:17:30】
【場所:E−2の街道】 
【持ち物:ただの双眼鏡(ランダムアイテム)】
【状況:朋也達と行動を共にする。まだ少しだけ空腹。デイパックはD−1に放置状態】

岡崎朋也
【時間:17:30】
【場所:E−2の街道】 
【持ち物:お誕生日セット(クラッカー複数、蝋燭、マッチ、三角帽子)、支給品一式】
【状況:友人達の捜索をする。パンを一つ消費】

みちる
【時間:17:30】
【場所:E−2の街道】 
【持ち物:武器は不明、支給品一式】
【状況:美凪の捜索をする】
-


BACK