「さて……随分と歩いてきたが、おまえさんは大丈夫かの?」 幸村俊夫(043番)は自分の足元を歩いている自身の支給品――ぴろ(猫)に目を向けた。 幸村と目が合うとぴろは「大丈夫だ」とばかりに、にゃーと元気そうに鳴いた。 彼はこのゲームに乗る気など微塵もなかった。 むしろ、密かに主催者への怒りで満ち溢れていた。 自分よりも若い多くの者たちを殺し合わせようとしている主催者たちに喝を入れてやりたいとすら思っていた。 (――大事な教え子たちを貴様らの勝手な都合だけで殺させはせんぞ…………) そう。このゲームの参加者の一部の人間は彼の教え子たちなのだ。 さらに、名簿を見るかぎりこのゲームの参加者の半数以上は現在の彼の教え子たちと同年代の者たちばかりだった。 そんなまだ未来ある者たちが殺し合う……… それを1人の教師として――否。人として見過ごしておけるはずが無い。 幸村はなんとかしてこのゲームを止めようと考えていた。 (しかし、この老いぼれ1人の身ではそれを成すことは難しい。誰か1人でも同士がいれば心強いのだが………) そう考えながら歩いていると前方に2人組の人影が見えた。 よく見ると、そのうち1人は銃らしき物を持っていた。 (――いかん!) マーダーかと思い一度幸村はぴろを一度バッグに入れ草影に身を隠した。 「皐月さん。本当にもう大丈夫なの?」 「うん。もう大丈夫だから。ありがとうね、このみちゃん」 「えへ〜…そう言われると照れるでありますよ」 2人のそんな話し声がかすかに聞こえた。 声からして2人とも女の子だろうと幸村は判断した。 (このままやり過ごしてくれればよいのだが……) 身を潜めながらそう思っていた幸村だったが、 ここで見逃してしまったらもう誰にも会えずに終わってしまうかもしれないとも思ったのですぐさま覚悟を決め2人に近づいて声をかけてみることにした。 (殺し合いに乗った者たちでなければよいが……) 「おまえさんたち。ちょっとよいかの?」 「ん?」 「ほえ?」 少女たちが同時に幸村の方へ振り返る。 振り返ったと同時に幸村は2人に尋ねた。 「わしは幸村俊夫というもんじゃ。 単刀直入に聞かせてもらうが、おまえさんたちはこのゲームとやらに乗ったのか? それとも乗っていないのか、どちらじゃ?」 「………まだわからないわ」 「このみたちは今タカくんたちを探しているんでありますよー」 「そ。まずはそれからよ。ゲームに乗るか、乗らないかなんて今は考える暇はないわ」 「ふむ……」 少なくとも彼女たちは今のところゲームに乗っていないようなので安心した。 「そういうおじいさんこそなにをしようとしてんの?」 今度は逆にこちらが尋ねられる。 だから幸村は正直に答えた。 「わしは――この理不尽なゲームを止めようと思っておる」 「………とめるのでありますか?」 「うむ。老いぼれだがわしとて教師じゃ。未来ある若いもんたちが互いのその身を食い合うところなど見たくはないのでな………」 「食い合う!? 隊長。このみたちは食べられてしまうのでありますか!?」 「このみちゃん。今のはたとえよ。たとえ……… ゲームを止めるか……きっと宗一やリサさんたちも今そうしようと動いているんだろうな……… よし。決めた! おじい…じゃなかった。幸村さん。私も協力するよ!」 「隊長、隊長。このみもお手伝いするでありますよー!」 「―――しかし、主催者たちを敵にするということはこの島においてかなり危険な選択じゃぞ?」 「心配ご無用! こう見えても私はあのNASTY BOYのパートナーですから!」 「このみもタカくんのお家のお隣さんでありますから!」 そう言って2人の少女――湯浅皐月(113番)と柚原このみ(115番)は自分の胸をどんと叩いた。 無論、幸村はNASTY BOYやエージェントなどは知らないが、彼女たちは頼もしい存在になりそうなことに間違いはなかった。 「さて。やはりまずは知人関係を探してみるかの?」 「はい」 「どこから探してみるでありますか?」 このみが広げた地図に3人が目を通す。 「そうじゃな……ふむ。近くにホテル跡があるらしい。そこから調べてみるかの」 「そうですね。それにここなら床にもつけそうですし」 「それなら早速出発でありますよー」 「にゃー」 【場所:E−03】 【時間:午後5時40分】 幸村俊夫 【所持品:支給品一式】 【状態:健康】 【その他:ゲームを止める。知人たちを探す】 湯浅皐月 【所持品:38口径ダブルアクション式拳銃(残弾8/10)、予備弾薬80発ホローポイント弾11発使用、セイカクハンテンダケ(×2)、支給品一式】 【状態:健康】 【その他:宗一たちを探す】 柚原このみ 【所持品:ヌンチャク(金属性)、支給品一式】 【状態:健康】 【その他:貴明たちを探す】 ぴろ 【状態:健康】 【その他:幸村の支給品】 【備考】 ・3人(と1匹)で行動。ホテル跡へ向かう ・このみの支給品は皐月が使うことに - BACK