各々の探し人を見つける為に、リサ=ヴィクセン(119)と美坂栞(100)はまずは南へ下っていくことにした。体力のあまりない栞に合わせて歩いているため、そんなに早く進むことはできなかった。 「栞、大丈夫? 荷物、持ってあげましょうか」 「いえ、私は大丈夫です。これくらいは自分でやりたいので」 「分かったわ。でも、辛くなったら言ってね」 リサの心遣いが、栞にとっては歯がゆかった。死ぬのが恐いくせに、人の役にも立たない。 もっと強くなりたい。心の底から、栞はそう願った。 …やがて、海岸沿いのある地点で、リサが足を止める。 「どうしたんですか、リサさん」 「…血の匂いがするわ」 血の匂い、と言われてもそんな匂いはしない。…いや、注意してよく嗅いでみると、かすかに鉄のような匂いがしてきた。 「注意して。近くに、殺人者がいるかもしれない」 殺人者。栞が体を強張らせる。リサは栞に体勢を低くするように命じた。リサは体勢を低く保ったまま、トンファーを構え匂いの元へと歩み寄っていく。 「栞はこのまま待って。安全そうだったら、合図するから」 こくりと栞が頷くのを確認すると、リサが「Good」と滑らかな発音で言ってから、一歩一歩匂いの元へと近づいていった。 数分が経った頃だろうか、栞が不安になってきたころ、リサから「OK、大丈夫よ」という声がかかった。栞はまだ周りを警戒しつつ、リサの元へと小走りに行く。 リサの待っていた地点では、おぞましいものが横たわっていた。 「リ…リサさん、これは…」 リサが見下ろしていたのは男の死体だった。腕は片方が無くなっており、恐らく致命傷を与えたものと思われる銃弾が男――醍醐の眉間を貫いていた。目は見開かれたままであり、その最後が壮絶である事を物語っていた。 「…この男はね、その筋の世界では一流の傭兵だった男よ。…まさか、こんなに早く脱落していたとはね」 リサが感慨深げに醍醐の死体を見つめる。一流の傭兵。そんな殺しのプロフェッショナルでもこんなに簡単に死んでしまうものなのか。 ましてや、自分は病弱。そんな自分が、生き残る事などできるのか――栞の不安は、いやがうえにも高まった。 (あの醍醐をこんなにも簡単に屠れる人間…あの兎の言っていた、人間離れした参加者がいるということ、まんざら嘘ではないのかもしれないわね。これからは、用心してかからないと) 心中で決意を新たにした後、リサは醍醐の目を閉じてやり、そして醍醐に向けて十字を切ってやった。 「さて、栞、行きましょうか。もう少し歩く事になるけど…栞?」 醍醐の死体を見たまま固まっている栞を見て、リサがぽんぽんと軽く叩く。 「ごめんなさいね。こんなものを見せちゃって…」 「いえ…それはいいんです。ただ…」 「ただ?」 「ただ…こんなに強そうな人でも簡単に死んじゃうなんて…私なんか、絶対に生き残れないんだろうなぁ、って思ってしまって…バカですよね、私」 リサはその言葉を聞くと、何も言わずに、ただ優しく微笑んで栞の体を抱きしめた。 「リ、リサさん?」 「大丈夫よ。何があっても私が守るから、あなたは絶対に死にはしない。だから、もっと気を強く持ちなさい。弱気は、いざという時に窮地を招くわよ」 栞の弱気の虫を追い払うように、優しく頭を撫でる。栞も、それに甘えるように顔をうずめた。 「はい…わかりました」 しばらくして、栞が落ち着いてから、二人はまた歩き出した。 空が赤みを見せ始めた頃、二人は海岸にある建物を発見した。 「リサさん、あれって海の家じゃないですか?」 「うみのいえ? あれがそうなの? 私はまだ見たことがなくてね」 「リサさん、見たことがないんですか?」 「ええ、日本でそういうことをする機会はあまり無かったから」 意外だった。日本語がかなり上手だったからこういうものも当然知っていると思ったのだが。リサの思わぬ側面に、思わず笑いが漏れてしまう。 「あ、栞。今笑ったでしょう」 「いえ、そんなことはないですよ」 「いいのよ、笑っても。どーせ私は外国人ですからねー」 不貞腐れるリサ。何だか、幾分か気分がほぐれたような気がする。 「拗ねないで下さいよー。取り敢えず、あそこでちょっと休憩しましょう、ね」 栞はリサを引っ張りながら、海の家まで歩いていった。 『美坂栞(100)』 【時間:1日目午後5時半ごろ】 【場所:G−9、海の家に向かって移動】 【所持品:支給品一式、支給武器は不明】 【状態:健康】 【備考:香里の捜索が第一目的】 『リサ=ヴィクセン(119)』 【時間:1日目午後5時半ごろ】 【場所:G−9、栞と同上】 【所持品:支給品一式、鉄芯入りウッドトンファー】 【状態:健康】 【備考:宗一の捜索及び香里の捜索が第一目的、まだ篁を主催者と考えている】 【備考:葵の制服は海の家に放置されたまま】 - BACK