無垢なる探求者




「―――ん〜……。これとこれと……これも使えそうかな」

 開始数分で一人を惨殺した柊勝平(081)は未だ鎌石村へと留まっていた。
 既に空は赤みを帯び始め、夕刻へと時間が差し迫っている。
 かれこれ数時間か。勝平が平凡な一軒家に腰を据えてから。
 何故、未だに場を離れないのか。理由としては武器の調達と夜に備えた休息だった。
 彼は一つの家を重点的に漁っており、その作業に長時間を必要としたのだ。
 生活用品でもなんでもいい。 
 人殺しが可能だと思える物は最大限活用しようと思っている。
 現在の武器は手榴弾。これも非常に有用できそうだが、自分の意向には沿わない。
 
「手榴弾もいいんだけど、全部吹き飛ばされちゃ困るからねぇ……」

 何が楽しいのか、勝平は鼻歌に合わせて家の中を物色する。
 特に刃物関係は基本的に確保だ。これがなくては始まらない。
 彼の目的を果たす上で、手榴弾よりかは有効的に活用できるからだ。

(ふふ。瑞穂ちゃんのはいい色だったからなぁ……。友達の香奈子ちゃんにも期待出来そうかな。
 朋也クン達とも早く合流しなきゃね)


 人を惨たらしく殺しておきながら、勝平の笑みに変わりはない。
 それは当然だろう。彼は罪悪感など片時も感じていないのだから。
 何処で狂ったのか。もしくは初めから狂っていたのか。
 彼にとってこのゲームは正しくゲームであった。
 自分が如何に楽しめるか、如何に攻略するか。その言葉に尽きる。
 
 勝平はこのまま日没までこの場を動くつもりはなかった。
 誰かが来れば当然親切に歓迎してやるつもりだ。自分なりのやり方で。
 それさえなければ、彼は夜まで待つつもりでいた。
 理由は簡単。奇襲は夜だと相場が決まっているからだ。
 緊張が緩み、眠気を堪える瞬間が食べ時である。
 何も知らない無垢な表情のままで。
 安らいだ顔で眠るその人の、開いた頭の中を覗くのだ。
 開いてからの数分が、一番の鮮度を保っている。
 時間が経過してしまうと汚臭しかしなくなるので、手早く行動することがポイントだ。
 現に勝平は経験済みだからこそ言えることである。
 それに、あの時掻き混ぜたのは良くなかった。赤黒く変色と変体してしまい、あまり綺麗とは言い難かった。
 やはり、開いた原型のままで鑑賞すべきだったのだ。
 だが、惜しむ必要は何処にもない。 

(うん、そうだよね。どうせまだ百人近く残ってるよね。とりあえず……十人は見てみたいかな。
 そしたら椋さんに会いにいこう。怖い話をしてあげると、椋さんは直に震えるからね。あの反応が可愛いんだよなぁ……)

 彼にとっての人殺しは、怪談話のストックを増やすということでしか意味はない。 
 そして、それを椋に聞かせることが、今のところの目的である。
 だから躊躇わない。自分の欲求を満たすためなのだ。努力は惜しまない。止まるつもりもない。
 自身が引き出した、椋の怯える表情を拝むまでは―――彼は、決して止まらない。




 『柊勝平(081)』
 【時間:1日目午後5時頃】
 【場所:B−04】
 【所持品:手榴弾三つ・首輪・和洋中の包丁三セット・果物、カッターナイフ・アイスピック・他支給品一式】
 【状態:普通。夜まで武器探し。一先ず10人殺して椋に会う。】
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