おばさんとおじさん




祐介達と別れた後、橘敬介(064)安全な場所を探すのに奔走していた。観鈴はあんな別れかたをしたとはいえ、たった一人の娘だ。是が非でも助けなければ。
「まずは拠点の確保だな…急ごう」
敬介は荷物を持って走り出した。空を見てみると、赤い色が一面を覆っていた。もう夕方になっていた。
「…この分だと、いくつか戦闘が起こっていても不思議じゃないな…クソッ」
二人に何かあったら――そう思うと、敬介の足は自然と早くなるのだった。
やがて、敬介は一軒の空き家を見つける。周りからは目立たないように、ひっそりと佇んでいた。
「ここなら、隠れ場所には向いているかもしれない」
すぐにそう判断した敬介は、中に殺人鬼が潜んでいない事を願って静かに扉を開けた。そして、注意深く中を窺う。すると、一人の少女が椅子に座っているのを見かけた。
(先客か。あの様子では、敵には見えないが…)
声をかけるべきか迷っていると、相手の方から声がかかった。
「…こんにちは。そこに誰かいるのは分かっています。安心して下さい。私に敵意はありませんから」
落ち着いた声色で答えたのは、天野美汐(005)だった。敬介は存在を悟られていたことに驚きながらも、ゆっくりと中に入っていった。
「見ぬかれていたか。どうやら、僕に忍者の才能はないようだな」
「そうでもありませんよ。扉が軋む音がしなければ、多分分かりませんでした。この島、小鳥の囀る声さえしないので」
無表情に美汐が答える。敬介は苦笑いしながら荷物を床に下ろした。
「君は、ずっとここにいたのかい?」
「ええ。特にする事もありませんでしたから」
「友達とか、家族とかはいないのか?」
「友達はいますが…わざわざ探しにいくほどでもありません」
しれっとした顔で、美汐は答える。敬介は肩をすくめながら、
「ここから移動する気がなかったら、ここを僕の行動拠点にしてもいいかい? 僕には探している人がいるんでね」


「構いません。ゲームには乗っていませんから」
「良かった。それじゃ、挨拶くらいはしておこうか。僕は橘敬介だ。橘でいい」
「天野美汐、と申します。天野でいいです」
互いに頭を下げた後、敬介は支度を始める。
「橘さん、あなたの支給武器は?」
椅子に座ったまま、美汐が尋ねる。
「僕かい? 僕はこれだ」
そう言いながら、敬介がデイパックの中から取り出した物はトンカチと花火セットだった。
「…外れの部類だけどね」
「トンカチはまんざら外れでもないんじゃないですか。思いきり叩けば武器になりますよ」
全然そうは思っていなさそうに美汐が言う。敬介はトンカチを持ち、小屋を出ようとする。
「荷物はここに置いておくよ。また後で戻ってくる」
「分かりました。泥棒さんには盗られないように見張っておきましょう」
「それは心強い」
敬介は少し手を上げた後、小屋を後にした。

「さて、次は観鈴たちを探さないとな…まずは平瀬村のほうにでも行ってみるか」
デイパックがなくなった分、体は若干楽になった。森を歩きながら、敬介は思う。
(確かに、小鳥の囀る声さえしない…いや、それ以前に動物の気配すらない。木や植物も、同じようなものばかりだ)
目の前の風景が、何となく作り物のように思われる。ひょっとしたら、と敬介は考えた。
「この島は…殺し合いのためだけに作られた人工島だとでも言うのか」
馬鹿馬鹿しいと思うが、何しろ主催者がイカレた性格だ。本当だとしても不思議はない。
「…いや、その前に観鈴たちを探すのが先だ。急ごう」
先を急ごうとした時、男声のくぐもった声が聞こえてきた。
――1回目の、死亡者の発表だった。




064 橘敬介
【時間:1日目午後6時前】
【場所:I−6】
【持ち物:トンカチ】
【状況:観鈴と晴子を探す、デイパック(花火セットはこの中)は美汐のところへ放置】

005 天野美汐
【時間:1日目午後6時前】
【場所:I−7】
【持ち物:様々なボードゲーム・支給品一式】
【状況:普通。ゲームには乗らないが、目的もない】
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