久瀬の口から出た言葉。 それはまさに予想もできないような話だった。 信じがたいその驚愕の真実を告げる久瀬の声が参加者たちの骨髄に響き渡ったが、 それはもうあまりにも信じがたい話だったので、誰も信じなかった。 「へえ」「ふ〜ん」「そりゃすげえ」「ぶったまげた」「馬鹿じゃねえの」「キモイ」「まぁ久瀬君だし……」 「……あれ?」 期待したリアクションが帰ってこないのでちょっと首を傾げる久瀬。 っていうか最後の、倉田さん? 代わりに罵声が飛んできた。 「うるっっっっせえよ久瀬!!」 聞き慣れた怒声だが、思わず首をすくめる。 盗聴器からではなく、司令室への直接通信。 来栖川綾香だった。 「あ、綾香さん。ちょうど良かった、先程の話はですね……」 「いいから!! さっき大声上げたこみパの馬鹿連中ぶっ殺しとけ! わかったら返事は!?」 「あのいやそれよりもですね、今の通告は非常に重要で」 「黙れ久瀬、久瀬のくせに口答えするな!!」 全然話を聞いてもらえなかった。 「そういう口は下の名前まで考えてから叩けこの権兵衛! そうだお前なんか権兵衛で充分だ、おいそこの榊とかいう女! お前厚労省の役人だったろ、そいつの名前権兵衛で登録! 復唱!」 綾香の怒声に、榊が冷静な声で答える。 「来栖川綾香様ですね?」 その静かな声音に内心で安堵する久瀬。 どうやら話を本線に戻してもらえそうだった。 「そうよ、だったら何! お前も権兵衛にされたいの榊権兵衛!?」 「はい、いいえ、久瀬様の姓名は久瀬権兵衛様で受理されました。オンライン入力完了」 「どうして!?」 「この国では金持ちの言うことは絶対ですボンボン野郎」 「ぼ、僕も一応金持ちなんだけど」 「そういう口は御自分で税金払ってから叩いてください権兵衛。 ああ早く帰ってメシくってオナニーして寝てえ」 「お前もういいから帰ってくれ!」 「……あ、じゃあようやくあたしの出番ですね……? あたし栗原と、」 「お前も帰れ!」 一言でも出番ゲット。 スキップしながら退場する栗原。 「誰か僕の話を聞いてくれえ!」 久瀬権兵衛の切実な叫びが艦内を駆け巡っていた。 【時間:夕方】 【来栖川綾香御一行様】 【状態:怒ってる】 - BACK