不幸な再会




姫川琴音は正気を失っていた。
気付いたら道路に倒れており、体のあちこちに痛みが走っていた。
何より彼女の唯一の武器である日本刀も無くなっていた。

それから琴音は必死に近くにあった民家の中を探し回り、
どうにか八徳ナイフを探し当て、今は街道を南東へと駆けていた。

「人・・・・!」
一人の少女―――仁科りえの姿が彼女の視界に入った。


「これをこれをつきさせばころせるころせるころせばしななくてすむんだ
いそがなきゃいそがなきゃはやくはやく」
彼女の形相は、もはや人間のそれでは無かった。

「いや・・・、いやぁぁぁぁ!!!」
その迫力は、りえを硬直させるに十分であった。

既に正気を失っていた琴音は何の躊躇も無く一気に斬りかかった。


「ああああっ!!」
琴音のナイフはりえの右肩を切り裂いた。しかし、浅い。
戦闘用の刀などに比べると、八徳ナイフはどうしても威力が足りないのである。

「あれ、しんでないしんでないなんでだろちゃんとちゃんとさしたのに」
琴音はそう呟くと、
またもやナイフを振るい、今度はりえの左腕に突き刺した。


「うわぁぁぁぁ・・・!!」
今度の傷は深い。りえの絶叫がこだまする。
琴音の顔に、返り血が降りかかる。


琴音は一瞬考えた後、ある結論に達した。
「・・・そうか、くびをきらないからしなないんだね」
そうして、琴音は、ナイフを、振り上げた。

りえの目に、琴音の動きがスローモーションのように映る。
振り降ろされるナイフ。琴音の狂気に満ちた表情。
りえの体は恐怖と痛みで硬直して動かない。
彼女は自分の命が終わる瞬間を見続けるしかない筈だった。

――しかし。
何かが飛び込んできたかと思うと、
琴音が3メートル程吹き飛ばされていた。

「うう・・・」
琴音が顔を上げると、彼女の友人、松原葵が立っていた。



「琴音さん、一体これは・・、どういう事なんですか・・・?」
狼狽した表情で問いかける少女の名は、松原葵。
彼女は琴音に当身を食らわせ、琴音の凶行を止めたのである。
ただし手加減していた為か琴音のダメージは小さいようであった。


琴音はゆらりと、まるで幽鬼のように立ち上がった。
「あおいちゃんあなたもじゃまするのなんでなんでなんで」
「な・・・、何を言ってるですか・・・?人殺しなんて、ダメに決まってるじゃ、ないですか・・・。」

「みんながわたしのじゃまをするみんながわたしをころそうとするなんでなの」
「え・・・?え・・・?」
かつての友人の面影の欠片も感じられない姿を目の当たりにして、
葵は完全に狼狽していた。

葵は今の今まで必死の思いで琴音を探し回り、ようやく見つけ出したのだった。
しかし、彼女が見つけ出した人物は、もはや以前の琴音ではなかった。


「その子を殺さないと私が死んじゃうのに、何で邪魔するのよぉ!!!」
琴音はそう叫び、ナイフを拾い上げた。




【時間:1日目午後17時頃】
 【場所:D−08】

 仁科りえ
 【所持品:拡声器・支給品一式】
 【状態:硬直。右肩に浅い切り傷、左腕に深い刺し傷】

 松原葵
 【持ち物:お鍋のフタ、支給品一式、野菜など食料複数、携帯用ガスコンロ】
 【状態:混乱】

 姫川琴音
 【持ち物:支給品一式、八徳ナイフ】
 【状態:狂気。数箇所打撲、擦り傷。19時間後に首輪爆発】
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