女傑三人、別離




神尾晴子(024)は新たな敵の出現に内心で毒づいた。
(ちっ、この子だけでもてこずってるってのに…こら、逃げたほうがよさそうやな)
ちらりと後方を確認する。だいたい銃はあの辺にあるはずだ。距離は…5歩くらいか。
(茂みになってる訳やあらへん。さっと見つけて逃げれば当たる事もないはずや。それにあの娘、プロっちゅうわけでもなさそうやしな)
綾香の方を見る。若干ではあるが、銃口は環の方へ向いている。まだ自分にはツキが残っているらしい。
「とりあえず、手を上げてもらいましょうか。それから、後ろを向いてもらうわよ」
綾香が銃をまだ向けながら環と晴子に命じる。まず応じたのは環だった。
「…これでいいの?」
手を頭の後ろに回し、綾香に背を向ける。続いて晴子も後ろを向き…そして即座に駆け出した!
「っ!? そこ、動くと撃つわよ!」
すかさずM1076を晴子の足元に発砲する。しかし、動く人間に簡単に当てられるはずがない。
「アホ! うちはまだこんなとこで終わるわけにはいかんのや!」
全神経を集中し、自分の銃を探す。そして視界の隅に自分のデイパックとVP70を見つけた。
(やっぱうちはついとる! 飛ばされた銃と荷物が同じところになるなんてな)
かっさらうように持ち上げ、逃走を試みる。
「くっ、待ちなさい!」
今度は晴子の胴体に向けて発砲する綾香だが、銃弾は空しく空間を引き裂くだけに終わった。綾香が舌打ちをして、環の方へ向き直る。
「…あなたは逃げなかったのね。今の隙に逃げることだって出来たでしょうに」
すると、環は皮肉な口調で、
「だって、動かないで、って言ったでしょ? それに殺人鬼扱いされちゃたまらないしね」
その言葉を聞くと、綾香はようやく固かった表情を少しだけ和らげた。
「…あなたは、あの女とは違う種類の人のようね。それじゃ、少し落ち着けて情報交換でもしない? 私は来栖川綾香よ」


「私は向坂環よ。よろしくね、綾香さん」
互いに固い握手を交わす。それから情報交換が始まった。
「…それじゃ、ついさっき動き始めたばかりだったの? 残念ね、姉さんのことを聞こうと思ったんだけど」
綾香が少しがっかりした表情になる。
「あなた、お姉さんがいるの? 名前は?」
コルトガバメントのマガジンを変えつつ、環が尋ねる。
「名簿にも書いてあると思うけど、来栖川芹香って言うの。極端に無口な人だから、すぐ分かると思うわ」
「ふぅん、そうなんだ…覚えとくわ。それで、綾香さんはここまででどんな人に会ったの?」
「残念だけど、環とあの女が一番最初の遭遇者なの。あなた、弟さんとその幼馴染達を探しているのよね?」
「ええ。特に、柚原このみっていう子の方は恐がりなところもあるから、早く探して安心させてあげないと」
「お互い、人探しに苦労するわね」
綾香が苦笑いする。環もつられて苦笑する。
「それじゃ、私はもう行くわ。早く姉さんと合流しないと」
「そうね…一旦別れるけど、またどこかで会いましょう。その時は、この主催者達を倒すためにね」
「ええ。けど、つまらないことでマーダーになったりしないでよ。…もっとも、その時は私が喝入れてあげるけど」
「残念ながら、その機会はないわね。それじゃ」
綾香は南へ。環は北へ向かうことにした。


「ゼェ、ゼェ…へへ、振りきれたようやな。はぁーっ、ごっつ疲れたわー…年は取りたないもんやな…って、うちはまだ全然若いっちゅーねん」
自分にツッコミを入れて、気合を入れなおす晴子。
「…さて、グズグズできへんな。早いとこ、観鈴のためにもたくさん殺っとかんと。観鈴が聞いたら怒るやろうけど、うちにはこれくらいしか思いつかへんからな…堪忍な、観鈴」
VP70にマガジンを再装填し、再び立ちあがる。目指すのは、新たな獲物だ。




『向坂環(039)』
【時間:1日目、午後2時ごろ】
【場所:E−3、森林帯】
【所持品:支給品一式、コルトガバメント(残弾、残り20)】
【状態:健康。北へ向かう。仲間の捜索を開始】

『神尾晴子(024)』
【時間:1日目午後2時ごろ】
【場所:G−3、森林帯】
【所持品:支給品一式、H&K VP70(残弾、残り18)】
【状態:健康。次の標的を探す】

『来栖川綾香(037)』
【時間:1日目午後2時ごろ】
【場所:F−3、森林帯】
【所持品:支給品一式、S&W M1076(現在装填弾数6)、予備弾丸30】
【状態:健康。芹香の捜索】
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