秋子の胸の内。そして決意




朝霧麻亜子―――彼女はまるで自分自身のひとつの可能性のように見えた。

自分ではなく、守りたいもののためにあえてゲームに乗って人を殺す―――
まさに『修羅』ともいえるその行為。

―――実を言うとゲーム開始当初は自分も彼女と同じ道を歩もうとした。

ただ娘のためだけに自分がすべての罪を一身に受けようとした。
…………しかし、それは叶わなかった。

自分に支給された品がただのコーヒー味の飴玉――それもたったの1個だったから。
そして、スタートしてすぐ近くの場所にあった村の入り口で捨てられた子犬のように怯える彼女と出会ってしまったから―――


「―――どうしたんですか?」
「――!?」

なぜあの時私は彼女に声をかけたのか、今ならそれがはっきりとわかる。

彼女は――私の娘と同じ、なんの罪も無いただの1人の女の子だったから―――ただ1人の人の子だったからだ。

『恐いの…近づかないでほしいの………』
「落ち着いて。ほら。これでも舐めて……」

飴玉はその時彼女にあげた。
ただ何も特別な力などもっていない飴玉。
最初はハズレだと思ったが違う。あれは間違いなく当たりだった。
だって――――

「――おいしい?」
『うん。おいしいの〜♪』
「そう…よかった……」

『恐怖』という色で染まりきっていた彼女の心に僅かではあるが『安らぎ』という色を与えることができたのだから。


―――彼女の笑顔を見て、私は決意した。
このゲームの主催者を倒すことを。
そして、娘や彼女のようなまだまだ芽吹いていく未来ある種たちを1人でも多く守っていくこと、あの笑顔を守っていくことを……………


――だからあの時、私は彼女を殺しはしなかった。
なぜなら、彼女もまた管理者の手により未来を奪われつつある被害者だったから。

――でも、彼女はこれからも罪を重ねていくだろう。
他の未来ある者たちを紡いでいくだろう。
しかし、私はそれを止めはしなかった。
たとえやり方を少し間違えてはいるけれども、彼女のしようとしていることも結果的には私と同じだったからだ。

彼女が茜色の空の下を駆けていく。
私たちはそれを見送ると、今度は自分たちの出発の準備をした。



「――じゃあ澪ちゃん、行きましょうか」
『はい、なの』

まだすべては始まったばかりだ。
これから先もこの島では多くの罪と悲劇が生まれていくだろう。
それでも私は自分の思いを貫き続けよう。
この島に彼女、そして多くの未来ある者たちの笑顔があるかぎり。




 【時間:午後5時30分】
 【場所:F−01(移動)】

 水瀬秋子
 【所持品:IMI ジェリコ941(残弾14/14)、包丁、殺虫剤、ほか支給品一式】
 【状態・状況:健康。主催者を倒す。祐一・名雪を探す。ゲームに参加させられている子供たちを1人でも多く助けて、守る】

 上月澪
 【所持品:フライパン、スケッチブック、ほか支給品一式】
 【状態・状況:健康。浩平やみさきたちを探す】

 【備考】
・秋子は澪たちに自身の胸の内を明かしていない。(そのため少し誤解されている)
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