休める時は休む、体力は無限ではないのだから。 天沢郁未は診療所のベッドに横になり、瞼を閉じている。 交代の見張り制にし、順々に疲労が溜まっているであろうメンバーに小休止を与えることになったのだ。 那須宗一(夕ご飯)はまだ帰ってきていない。 (・・・物資のパン、食べた方が効率的だったかもね・・・) 胃がキリキリと鳴く。 ふと、隣のベッドを見ると眠り続けていて今だ挨拶していない古河渚の横顔が見えた。 その隣のベッドには、霧島佳乃が眠っている。 「ふわ〜、だめだよぉーポテト〜。むにゃ・・・それは往人く・・・むにゃ」 外の見張りは鹿沼葉子と古河早苗が担当していた。 年小組みから休憩ということ、葉子が起きているなら、と郁未も特に反対はしなかった。 「ゆっくり休んでくださいね、郁未さん。外は私達に任せてください」 思い出すのは早苗の微笑み。 少し、感傷的な思いが生まれるが、郁未はそれを取り払おうとした。 ・・・キィ。 その時、足元の方・・・部屋の扉が開く音がした。 気を張る、コツコツという足音は、佳乃と渚のベッドの間にて止まった。 (・・・誰?) 薄く目を開ける。・・・暗くてよく見えないが、背格好で分かった。 「渚・・・まだ起きないのですね」 声。 渚の顔を覗き込むようにし、早苗が彼女の頬を撫でているのが見えた。 心配そうな顔。・・・母の、表情。 しばらくそうした後、渚、それに佳乃の布団もかけ直し、足元はこちらに向けられた。 「あら、目が覚めていたんですね」 気がついたら、じっと彼女を見つめていた。 早苗は何も言わず自分を見つめる少女にむかい柔らかい笑みを浮かべながら、枕元までやってきた。 そして。 ふわり。 頬に感じた優しい体温、さすりさすりと撫でられる。 「もうすぐご飯になりますからね、後ちょっとだけ待ちましょう」 それは、さっき見た光景の再現。 暖かい、その感触に酔いしれる。懐かしい感覚が郁未の心を締め付けた。 手が離れ早苗自身も扉の方へ、郁未はその姿から目が離せないでいた。 「お母さん・・・」 そして、気がついたら漏れていた声。 早苗には届かない本当に小さな呟き、郁未は言葉を噛み締めた。 ・・・早苗の姿が部屋から消えると、郁未はのそっと起き上がり、隣の少女に近づいた。 古河渚、母の庇護を受ける幸せな少女。 彼女の抱えるものを郁未は知らない、郁未にとって渚はそのような印象でしかなかった。 実際、目の前の少女の安らかな寝顔は、正直郁未をいらだせる原因にもなる。 このような非常識な時でもこうしていられるのは、正に母親が近くにいるからであろう。 「・・・あなたが私と同じ立場になった時、一体あなたはどうするのかしらね」 ふと思う。そう、彼女は。 古河渚は、今一番天沢郁未に近い少女だった。 大切な母を目の前で失ったら、彼女はどうするだろうか。 郁未は知らず知らずに、口の端を引き上げた意地の悪い笑みを浮かべていた。 それは期待、その裏に隠れているのは嫉妬。 郁未は面白くなってきた、とさらに歪んだ表情を浮かべるのであった。 ---------------その時、スピーカー特有のザーザーというノイズが辺りを走った。 時刻は午後6時。第1回目の放送が始まる・・・ 天沢郁未 【時間:午後6時】 【場所:沖木島診療所(I−07)】 【所持品:薙刀、支給品一式(水半分)】 【状態:右腕負傷(軽症・手当て済み)・悪いこと考えている・ゲームに乗っている】 古河早苗 【時間:午後6時】 【場所:沖木島診療所(I−07)】 【所持品:ハリセン、支給品一式】 【状態:空腹】 - BACK