罅割れた現実




(だーれもいねーナー)
エディはイルファと別れてからひたすらに歩き続けていた。
周囲への警戒だけは怠らず。
(あのネェちゃんが走ってきたのに何もなかったってこたぁ……)
鎌石村には宗一達はいないのだろう、と思う。
(お……?ありゃあ……)
曲がり角の先に、二人の人影が見えた。
片方がもう片方に肩を貸している。
怪我でもしているのだろうか。
(しかし、二人連れってこたぁ……)
このゲームに載ったときの勝利条件は自分以外の皆殺しだ。
二人以上の『参加者』が助け合うと言うことは考えにくい。
在り得ないと言う訳ではないが、自衛の道具が殆ど無いこの状況下ではなるべく安全そうな者に当たったほうが良いだろう。
「オ〜イ、チョイトそこ行くお二人さん。聞きたい事がってちょっとマテマテマテ!」
怪我している方がいきなりこっちを向いて鞄の中に手を突っ込んだ。
その後何かに気付いたように小さく舌打ちすると、鞄に手を入れたままエディの方を睨んだ。
「おい、七瀬。とりあえず話を聞こうぜ」
「……ああ」
そういうと彰は鞄から手を取り出した。


「で、何?おっさん」
「人を探してんだ。お前さん、名前は?」
「折原浩平」
「そっちの怪我してるは七瀬って呼ばれてたナ」
「……そうだけど」
「留美、彰、どっちダ?」
「……僕は、男だ……」
そういって彰はエディを睨みつける。
「ヒャッハッハッハ、スマネエスマネエ。だろうたぁ思ったけどもしかしたらと思って、ナ」
隣で浩平が腹を抱えて笑いをこらえている。
「……で、何」
憮然として彰が尋ねた。
「オウ、忘れてた。人探しだ人探し」
「その前に、あんたの名前は」
「オウ、更に忘れてた。オレッチはエディ」
そして又顔面総崩れで笑う。
何がおかしいんだか……と、小声で悪態をつく彰。
一頻り笑ってエディは本題に入った。
「いいカ?那須宗一、湯浅皐月、伏見ゆかり、梶原夕菜、リサ=ヴィクセン、それと姫百合珊瑚、姫百合瑠璃、河野貴明だ」
「結構いんなぁ」
「二人分の捜索だ。仕方アンメェ。で、どーだ?聞き覚えは?」
「や、俺は……」
そこまで言いかけて、浩平は言葉を止めた。
そして先程の悪夢が脳裏によみがえる。


「……なぁ、その人たちの特徴を教えてくれ」
「ン?なんか知ってんのカ?」
「かもしれない……」
問われて、エディはイルファに聞いたことを含め、浩平たちに話した。
浩平は青い顔をしながらその話を聞いていた。
「どーだ?知ってたら教えてくんねぇか?」
「……その話の中で一番近い、っつーだけだけど。……人が死んでるのを見た」
その話に、エディの剣幕が豹変した。
「っ! ダレだ! ダレに近い!」
浩平の肩を掴んで問い質す。
「っ……その……伏見ゆかりって人……」
「!」
エディはよろよろと二三歩後退り、項垂れた。
(なんて……こったっ……)
「……銃声がして、それで行ってみたんだよ。そしたら……誰かが死んでた……」
エディは項垂れたままその話を聞いていた。
「多分、機関銃の類だと思う。蜂の巣だった」
「ソウカ……」
「怒らないで聞いてくれ。これは……その娘の荷物から取ってきた」
浩平はそう言って日本酒を取り出す。
「傷の消毒には使えるかと思ってな。現に、こうして使ったわけだが」
彰の傷口を指し示す。
「イヤ、いい……。で、場所は分かるカ?」
「あ、ああ……多分……この辺だったと思う」
そう言って、D-02の道の辺りを指し示す。


「アリガトナ……」
「いや、いい」
「じゃあ、ナ……」
エディはそういって、駆け出した。
(ユカリちゃんなのか確かめねぇと……これがソーイチや姐さんなら違うって言い切れんダガ……)
イルファと約束した道からは外れるが仕方ないだろう。
いくらなんでもそんなすぐにここまで来れるとも思えない。
急いで確認してすぐに戻れば大丈夫な筈だ。
そんなことを考えながら急いで走った。
周囲への警戒だけは怠らず。




「……行こうか」
「ああ……」
彰と浩平はエディが行くのを見送って、再び鎌石村に向かって歩き出した。
が、暫くして気付く。
「あ……しまった……こっちも聞いときゃ良かった」
「聞けた?あの状況で」
「……無理だな」
力無く笑って、浩平は嘆息する。
彰は内心、葛藤していた。
(誰かを殺せばああいう人は出てくる)
(誰かが悲しむんだ)
(でも……そうしないと僕達は帰れない)
(いや、僕は良い。でも、美咲さんは……)
(美咲さんが帰れなくなる……)
(美咲さんが……誰かに……殺され……)
(駄目だっ!!それだけは絶対に!!)
(やはり殺し合いに乗るしかないのか……)
(でも……)
傷が痛む。
思考に集中出来ない。
(取り敢えず……)
(武器を手に入れてから考えよう……)
(今は……痛い……)
そうして二人は鎌石村に向かっていった。




エディ
【場所:C-05(スタート地点はS-10)】
【持ち物:瓶詰めの毒瓶詰めの毒1リットル、デイパック】
【状態:死んだ人がゆかりかどうかを確認しに行く。やや焦っているが、警戒は怠らない。人探し続行中】

折原浩平
【所持品:だんご大家族(残り100人)、日本酒(残りおよそ3分の2)、デイパック】
【状態:健康、鎌石村へ移動中】

七瀬彰
【所持品:デイパック】
【状態:右腕に負傷、殺人の決意はしているが迷いがある。鎌石村へ移動中】

共通
【時間:一日目午後三時十分頃】
【場所:C-03とD-03辺りの分岐点】
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