柏木耕一と長岡志保の壮絶な鬼ごっこはかれこれ50分程続いていた。 「ハア、ハア・・・・。待てってば!」 「ゼェ、ゼェ・・・。いつまで追ってくるのよ、この変態! 」 「だから、それは誤解だ!俺は変態じゃない!」 「私がいくら魅力的だからって、しつこいのよ!」 二人は叫びながらも、鬼ごっこを続けている。 鬼の力が制限されているとはいえ、 常人より遥かに優れた身体能力を持つ筈である耕一。 何故、普通の女子高生である志保相手にマラソン勝負で追いつけないのか。 全ての理由は支給品の差にあった。 志保の支給品は、新聞紙。 最軽量の部類の装備である。 ・・・・新聞紙が装備と呼べる代物であるかは、いささか疑問であるが。 一方耕一の支給品は、先の尖っていない大きなハンマーであった。 成る程、この武器なら近接戦闘では強力な威力を発揮するであろう。 相手が刀やナイフで受けようとしても、その程度の防御は容易に粉砕出来るに違いない。 高い身体能力を持つ耕一にとって、「当たり」と言える武器だろう。 しかし一つ、この状況においては大きな問題があった。 「くそっ、重い・・・・・。」 重い。とにかく、重い。 耕一の体力は、重い荷物と長時間の鬼ごっこにより、限界が近付いていた。 c−5地点にさしかかった辺りで、少しずつ両者の間隔は広まっていった。 ――逃げ切れる。そう確信した直後だった。 志保は傍の茂みに、何か光る物体が見えた気がした。 とっさにヘッドスライディングのような体勢で滑り込まなければ、 彼女はここでゲーム退場になっていたであろう。 1秒前まで彼女の首があった空間を、鋭利な日本刀が切り裂いていた。 茂みから日本刀を携え出てきたのは、 女子84番、姫川琴音だった。 「い、一体何なのよ、あんた!!」 倒れた体勢のまま叫ぶ。 「ははは、早く死んで死んで死んで時間無い時間無い時間無い」 琴音はうわごとを呟きながら、倒れている志保に向かって日本刀を振りかぶった。 「くぅ!!」 琴音が刀を振り降ろす前に反応し、間一髪で地面を転がり狂気の一閃を凌ぐ志保。 しかし、再び顔を上げた時には、既に琴音は次の一撃を振り下ろしていた。 避けきれない。そう確信した志保には 「きゃあああああああああああぁぁ!!」 目をつぶり悲鳴をあげる事しか出来なかった。 しかし、いつまでたっても琴音の斬撃が志保を捉える事は無かった。 「やめろぉーーーーーっっ!!!!」 ドゴッ!! ズザザザザッッ!! 派手な効果音と共に、姫川琴音は吹き飛び、地面に倒れていた。 追いついた耕一が体当たりを決めていたのである。 大きな体格の耕一の体当たりは破壊力十分で、琴音は完全に気絶していた。 耕一は呆然としている志保に手を差し伸べながら言った。 「大丈夫か?」 志保は、その手を取り立ち上がった。 「ちょ、ちょっと足を擦り剥いちゃったけど、大丈夫よ、ありがとう。」 倒れている琴音を見据える。 「この子確か私の学校の後輩よ。大人しそうな子だったのに、なんでいきなり・・・。」 「それは分からないけど、とにかくこの場を離れよう。 さっきの騒ぎで人が集まってくるかもしれない。」 そう、このゲームでは騒ぎがあった場所に人が集まる。 もしかしたら殺し合いを止めようとする勇敢な者が来るかもしれない。 しかし、漁夫の利を得ようとする殺戮者もまた、呼び寄せてしまうのだ。 耕一は琴音の日本刀を拾い、すぐさま歩き出した。 「ちょ、ちょっと待ってよ変態さん!私も行くわ!」 「俺は変態じゃねえっ!」 かくして変態・ガセネタのコンビが誕生した。 時間:1日目13時ごろ】 【場所:c-5、街道】 姫川琴音 【持ち物:支給品一式】 【状態:気絶。吹き飛ばされた際に数箇所打撲、擦り傷。23時間後に首輪爆発】 長岡志保 【持ち物:新聞紙、支給品一式】 【状態:疲労、足に軽いかすり傷】 柏木耕一 【持ち物:日本刀、大きなハンマー、支給品一式】 【状態:疲労】 - BACK