決意と惑い




「ここは………氷川村かしら?」
地図を見ながら歩いていた太田香奈子は氷川村と思える村の入り口にめぐり着いた。
周辺をよく調べてみるたら、『氷川村』と書かれた看板があった。
「――つまり、これで地図には誤りはないことがわかったってことね」
そう自分に言い聞かせると、地図をバッグにしまって今度は支給品のサブマシンガンと予備のカートリッジを取り出した。

(――村にはゲームに乗った参加者もいるかもしれないけど、人は結構いそうね…………もしかしたら瑞穂にも会えるかもしれない)
親友である藍原瑞穂の顔が一瞬だけ香奈子の脳裏に浮かんだ。
「それに人がいなくても情報や使えそうなものも手に入るかもしれないし……行くしかないわね」
予備のカートリッジをポケットに入れ、村に入ろうとしたその時、ふいに誰かに呼び止められた。

「そこの君、ちょっと待って!」
「ん?」
声がした方へ振り替える。
もちろん、警戒は怠らずにサブマシンガンはいつでも射てるように構えておく。

そこ(といっても少し距離はある)には香奈子と同い年くらいの少年がいた。
「なに? わたしに何か用?」
「呼び止めたりしてごめん。ちょっと聞きたいことがあるだけなんだ。いいかな?」
少年はそう言いながら香奈子に近づいてきた。
「……別にいいけど………銃はこのまま構えさせてもらうわよ?」
そう言いながらサブマシンガンの銃口を少年に向ける。

「ああ、かまわいよ。仮に僕が君を襲おうとしたら遠慮なくそれをぶっぱなしてくれていい」
そう言って少年は香奈子の前方2メートルくらいで足を止めた。


「自己紹介がまだだったね。僕は氷上シュン」
「太田香奈子よ。それで、用件は?」
「太田さん。相沢祐一、河野貴明、水瀬秋子っていう人を知らないかな?
僕はその3人を探しているんだ」
「いいえ。知らないわ。それに、わたしこの島に来てまともに出会った人はあなたがはじめてだから」
「そうか、ありがとう」
そう言うとシュンという少年は香奈子の横を通り村に入ろうとした。

「あ。待って!」
「ん? なんだい?」
今度は香奈子がシュンを呼び止める。
「わたしも人を探しているの」
「そうなんだ。奇遇だね」
「藍原瑞穂って子と月島瑠璃子って子なんだけど知らないかしら?」
「……ごめん。僕もこの島に来てまともに会話をした人は今はもう君だけなんだ」
「そう………今は?」
「ああ。君に会う前に草壁優季、月宮あゆって女の子と出会ったんだ。
だけど………ゲームに乗った誰かの手によって殺されてしまった…………」
「そう……」
――よく見るとシュンの握られた右手は震えているようだった。
聞かないほうがよかっただろうか、と香奈子は思った。
しかしシュンは話を続けた。
「僕なんかよりもぜんぜん強い人たちだった。それなのに、銃弾の弾を1発受けただけで簡単に死んでしまった…………
だから僕は、彼女たちが伝えられなかったことを代わりに伝えてあげるためにさっき言った3人を探している」
シュンの顔には涙も悲しみの色もなかった。
ただ、そこにあったのは決意という色に満ちた男の顔だった。

「あ……ごめんね。こんな話に付き合ってもらっちゃって」
「いえ……わたしこそ、急いでいるところを呼び止めちゃって………」
2人は互いにすまないと頭を下げた。


「……ねえ。氷上くんはこの村にははじめてきたの?」
「うん。3人に関する情報やなにか使えそうなものが手に入るかもしれないしね」
「………じゃあ、もしよかったら今は一緒に行動しない?
わたしも氷上くんと同じ目的でここに来たばかりなんだけど………」
「…………そうだね。そのほうが少しは安全かもしれないし、情報とかも集められそうだ。
………それに、お互い探している人を見つけやすいかもしれない」
シュンはうんと頷いたあと「よろしく頼むよ太田さん」と言って香奈子に手を差し出してきた。


「………………」
シュンが手を差し出してきた瞬間、自分で言っておいてなんだが、一緒に行動して大丈夫だろうか、と香奈子は内心悩みはじめた。
なぜなら香奈子は親友の瑞穂はともかく、瑠璃子を探している理由はほかでもなく『殺す』ためだからだ。
もちろん香奈子はシュンにそのことを言っていない。
きっとシュンは瑠璃子は香奈子の親友の一人だと思っているだろう。
――もし、この後仮に瑠璃子が見つかった場合、自分はシュンの前で瑠璃子を殺せるだろうか?
香奈子の心にそんな疑問が浮かんだ。

「太田さん?」
「あ……」
シュンの声を聞いて香奈子ハッと我に返った。
目の前にはまだ差し出されたシュンの手があった。
「大丈夫? 疲れてるみたいに見えるけど………」
「ごめん……大丈夫だから……」
そう言いながら香奈子も手を差し出した。
「そうかい? それならいいんだけど……あまり無理はしないほうがいいよ?」
「うん……ありがとう」
そうして2人は握手をかわした。
ただ、香奈子のほうははシュンをだましているんじゃないかということに内心心を痛めた。




「太田さん。これが僕の支給品なんだけど……」
そう言いながらシュンが自分のバッグから取り出したのは狙撃銃――ドラグノフだった。

「人を殺す気なんてないけど、防衛や威嚇に………ね」
「そ…そう」
香奈子はとりあえず相づちをうった。
しかし、少なくとも1人殺そうとしている香奈子にとって誰も殺す気はないというシュンは別の世界の人に見えた。
「よし。それじゃあ行こうか」
シュンはドラグノフを肩にかけると先に歩きだした。
それに続いて香奈子も再び歩きはじめた。

(せめて今は――氷上くんといるときだけは瑠璃子さんと出会わないでほしい……)
そう心の中で呟きながら――――




 【時間:1日目午後2時30分過ぎ】
 【場所:I−06】

 太田香奈子
 【所持品:H&K SMG U(残弾30/30)、予備カートリッジ(30発入り)×5、他支給品一式】
 【状態:健康。内心迷いあり。目標・瑞穂を探す。瑠璃子を見つけて殺す】

 氷上シュン
 【所持品:ドラグノフ(残弾10/10)、他支給品一式】
 【状態:健康。目標・祐一、貴明、秋子を探す】

 【備考】
・香奈子とシュンは一緒に行動
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