三人から四人へ




宮内レミィ(107)、沢渡真琴(052)、久寿川ささら(034)は困惑していた。何しろデイパックの中からロボットが現れたのである。どこぞの男のように言うなら、
「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!『私は支給品を確かめようとしたらなんとロボットが出てきた』
な…何を言ってるのかわからねーと思うが私も何が起こったのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…
そもそもどうしてロボットがデイパックに入るんだ、とかどうしてぱんつはいてないんだ、とかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…」
とか言う感じである。ともかく、三人が思ったのは「主催者の頭はイカレている」ということだった。
「あのー…お客様? ここはどこでしょうか?」
何が何だかわかっていないように話すロボット、ゆめみ。それはこっちが聞きたいわよ、とは真琴の弁。
「困りました…ものすごく困りました。実を申しますと、わたしは今日からとある方の元へ最新型コンパニオンロボの試験体として送られることになっていたんです。
名前はわたしもまだ存じ上げないのですが、今日大規模なパーティを開かれるということでして、わたしはその披露宴で紹介されるということになっていたのですが…」
こちらが返答する時間も与えないようにまくしたてるゆめみ。話がようやく切れたところでささらが尋ねる。
「あの…質問していいかしら?」
「はい、何でしょう?」
「そのパーティの内容、というのは…」
「はい。わたしもまだ詳しくは知らないのですが、120人もの男女が集まって大いに楽しむ、ということらしいのですが…もしかして、もうパーティは始まってしまっているのでしょうか?
でしたら、わたしはたいへんな粗相をしてしまったということになります…あの、そちらの皆様は、お客様でしょうか?」
不安顔で尋ねるゆめみ。ささら達は顔を見合わせる。
「もしかして、この人…じゃなくてロボットが言ってるのって…」
「イエス、間違いなくこのゲームのことだと思うネ」
「だとしたら…このロボットも、参加者なの?」
ロボットに振り向くや否や、三人で取り囲みじろじろと観察する。


「えっ? あ、あ、あ…あの?」
困惑するゆめみをよそにぺたぺたと触る三人。
「…やっぱり、支給品でも、首輪はついてるみたいね」
「わぁ…キレイな髪の毛〜。あうーっ、うらやましいなぁ」
「マルチとは、チョット型が違うようデス。最新型というのは間違いなさそうネ」
「え、えーと…」
すっかり困り顔のゆめみを一通り観察すると、ささらがゆめみに話しかける。
「すみません、返答が遅くなってしまって。結論から言わせてもらってもいい?」
「あ、はい。わたしは構いません」
「あなたの言う通り、私達はこのパーティの『お客様』には違いないわ。…でも、あなたの想像しているようなパーティとは、全然違うの。このパーティはね、殺人ゲームなの」
殺人ゲームと言われたにも関わらず、ゆめみはきょとんとした表情だった。
「…あの、お客様。申し訳ないのですがわたしの情報データベースにはそのような情報は存在していないのですが…『さつじんげーむ』とはどんなパーティでしょうか」
どうやらまったく知らないようだった。今度は真琴が話す。
「あのね。『バトルロワイアル』っていう小説って、知ってる?」
「あ、はい。それならわたしも存じ上げています。原作は高見広春さんで、過去に映画化もされており、社会に問題を巻き起こした話題作ですね。映画版はR−15指定になっていて…」
「ストップ、ストップ! 話がそれていってるヨ!」
レミィの指摘で、ゆめみの口が止まる。
「あ…申し訳ありません。何分ロボットですので、求められた情報には全てお答えするのがわたしのお仕事ですので…それでそのバトルロワイアルがどうなさったのですか?」
「その『バトルロワイアル』が今まさに行われているノ。もちろん、ジョークじゃないヨ」
レミィが真剣な眼差しで答える。ゆめみが驚いたように答えた。
「えっ? あの、お客様。この国におきましては、殺人は犯罪で、ましてや集団による殺し合いというのは…」


「もちろん許されることじゃないけど、でも実際に行われているの。…もう、死人だって出ているかもしれないのよ」
「そ、そんな…そのようなことが…お客様、申し訳ありません。少しお時間を頂いてよろしいでしょうか」
ゆめみはそう言うと、後ろを振り向いて何かを呟き始めた。
「警察への通信…不可能…各通信センターへの救助要請を試行します…通信、不可能…」
ゆめみのすがるような、そんな風にさえ聞こえる事務的な機械音声は、しばらく続いた。
「各センターとの通信、全て不可能…業務モードへの復帰へ移行します」
ゆめみがそう言って、三人に向き直る。
「…お客様。各情報機関との連絡がとれないということが確認できました。したがって、お客様の言っていることは、事実だと判断します。…わたしは、どのようにすればよろしいでしょうか」
コンパニオンロボットだという彼女。人間のために存在する彼女。ここにいる意義を失って、彼女はどう思っているのだろうか。
「えーっと…とりあえず、私達と一緒に行動しない? ロボットだったら、きっと強いと思うし。ね、二人ともいいでしょ?」
真琴がレミィとささらに同意を求める。
「ワタシは全然オッケーだヨ。この子、マルチにそっくりだしネ」
「…敵ではないですから、私も構いません」
「決まり! それじゃ、自己紹介しよっ! 私は真琴。沢渡真琴」
「レミィ・クリストファー・ヘレン・宮内デス。レミィでいいヨ」
「久寿川ささら、といいます。よろしくお願いします」
今までずっと困惑気味だったゆめみの顔が、少しだけほころんだ。
「わたしは、SCR5000Si/FL CAPELII.通称はほしのゆめみと申します。どうか、よろしくお願いいたします」




 【時間:午後2時】
 【場所:B−05】

 久寿川ささら
 【所持品:スイッチ(どんなスイッチかは謎。充電器は付属していない)、ほか支給品一式】
 【状態:健康】

 沢渡真琴
 【所持品:日本刀、ほか支給品一式】
 【状態:健康】

 宮内レミィ
 【所持品:支給品一式】
 【状態:健康】

 ほしのゆめみ
 【所持品:なし】
 【状態:普通。ささら達と行動を共にする。首輪もつけられている】
 【その他:一応レミィの支給品】

 【備考】
・真琴の日本刀は吉岡チエのものとは長さ、形状が少し異なる
・ゆめみは大戦前の世界なのでなんの支障もなく普通に活動可能
・ささらのスイッチがどんなスイッチなのかはまだ不明
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