脱出の鍵穴




「……」
「……」
「……さっきの珊瑚ちゃん瑠璃ちゃん、可愛かったな」
「それ以上言うな!」
まだ赤い目をした瑠璃ちゃんが雄二を思いっきり蹴っ飛ばす。
「ぐはっ!」
悶絶する。
「雄二、流石にお前が悪い」
「ジョークだよジョーク……空気重いしさ……」
「選べよ……」
「雄くんひどーい」
しかし空気が軽くなったのも確かだった。
「これから、どうする?」
「そやねー、どないしよー」
そういいながら珊瑚ちゃんは紙を取ってくる。
「? 珊瑚ちゃ……」
珊瑚ちゃんの指に口を塞がれる。
「瑠璃ちゃんは、どうしたい?」
そう言いながら紙を手渡される。
「……。そやね……」
……! これは……


そこには珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんがした筆談の跡があった。
これが本当なら大事なことは会話では決められない。
いや、上らせることすら危ない。
(しかし……これは……)
マルチちゃんにこれを見せるのはどうだろう。
マルチちゃんに腹芸は出来ないだろう。
最初の一行に【マルチちゃんには見せないほうがいいと思う】と書き加えて、沙織ちゃんに渡した。
ちゃんと口を塞ぐのも忘れず。
「そうだね……とりあえず、お互いのアイテムの確認をしようか」
「そやね」
「……これって! あ……」
新城さんが声を上げてしまった。
まずい……何か……あ!
「ああ! 凄い! レーダーだ!これがあれば無闇に人と会わなくてすむ!」
「へへー、すごいやろー?さんちゃんが引き当てたんやで?」
「うん。凄いや」
新城さんが手で謝る。
雄二が訳が分からないと言う風にこっちを見ているが、さっきのジェスチャーで喋るのがまずいのだけは伝わったようだった。
取り敢えず黙っていてくれた。
そして新城さんが雄二に渡す。
ちゃんと口を塞いで。
雄二がそれを見て方眉を吊り上げる。
声は漏らさなかった。


「で、瑠璃ちゃんが鉄砲やねん」
「なんか……こっちのアイテム見せるのが申し訳ないというか……」
「ねぇ……」
「私はモップですー」
「この子は……」
「モップ……?」
「あ、いや、モップ型のライフル」
「すごいやん」
「まぁ……それだけと言うか……」
「それ以外は使えないと言うか……」
「愚痴っていても仕方ないだろ。さっさと言って楽になろうぜ。俺は、これだ」
雄二はさりげなく紙を折り畳んでポケットに入れながら両腕を見せた。
「ガントレットだ」
「私は……その……フライパン……」
新城さんがフライパンを顔を隠すようにしながら取り出す。
この二人はまだ防具に出来るだけましだろう。
「で、まぁ……俺が一番はずれっぽいんだけど……これ」
そういって、工具セットをデイパックから取り出す。
「!?」
とたん、珊瑚ちゃんが急激に反応した。
「さ、珊瑚ちゃん?」
焦って紙を取り出して、それに書き殴る。
【なんとかなるかもしれへんよ】
それをみんなでまじまじと見て、俺が一言書き加える。
【ごめん。読めない】
珊瑚ちゃんは、ちょっぴりむくれた。




姫百合珊瑚
【持ち物:水を消費、レーダー、工具セット(貴明から貰った)】
【状態:冷静、安堵、僅かな擦過傷、切り傷(手当て済み)】
姫百合瑠璃
【持ち物:水を消費、シグ・サウエルP232(残弾8)】
【状態:やや冷静、安堵、擦過傷、切り傷。珊瑚ちゃんよりは多少深い。が、動くには支障は無い程度(手当て済み)】
河野貴明
【持ち物:水を少々消費、モップ型ライフル】
【状態:やや冷静、安堵、健康】
向坂雄二
【持ち物:水を少々消費、ガントレット】
【状態:やや冷静、股間に打撲(瑠璃ちゃんに蹴っ飛ばされた)】
新城沙織
【持ち物:水を少々消費、フライパン(カーボノイド入り)】
【状態:やや興奮、健康】
マルチ
【状態:一人話に入れない、みんなで紙を見ていたのにも気付いていない、健康】
共通
【持ち物:デイパック】
【時間:一日目午後五時頃】
【場所:I-07の民家】
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