「さて、出発前に確認しておきたいことがある」 灯台から出たところで、雄二が周りの仲間に向かって声をかける。 「何? 雄くん」 「出ようと言った言い出しっぺが悪いんだが、まだ武器の確認をしてない」 「…あ」 「そうでした…」 共に「しまった」という表情をしていたのは貴明とマルチ。彼らは仲間を探すのに精一杯で武器の確認を怠っていた。 「お前ら、まだ見てなかったのか? まったく、危機意識がなさ過ぎるぞ」 「そう言う雄くんはどうなの?」 「…すみません、俺もまだっす」 ははは、と笑う雄二を沙織はこんなので大丈夫なのかしら、と思わずにはいられなかった。 「それじゃ、いっせーので開けてみようか。オーケイ?」 雄二とマルチもコク、と頷く。 「それじゃ…いっせーのーでっ!」 三人のデイパックが一斉に開けられる。沙織も興味深そうに覗き込む。 「俺のは…何だこりゃ?」 雄二が取り出したのは無線機が四つ。『特別仕様』と本体に書いてある。 「これは…多分、トランシーバーの類なんじゃない? でも、『特別仕様』って、何だろうね」 「多分…だと思うけど、この島では俺達、どうしてだか知らないけど携帯が使えないよね。だから、この無線機だけが特別に使えるようになってるんじゃないかな」 「わ。貴明さん、頭いいですね」 マルチがぱちぱちと拍手する。 「ふーん…それじゃ、次は貴明のを見せてみろよ」 雄二が貴明のデイパックから武器を取り出す。 「げっ、貴明っ、これってメチャクチャ当たりの部類なんじゃないか?」 貴明の支給品はレミントンM−1100P。銃身が低く、威力は通常のショットガンより落ちるものの携帯性の良さから長期に持ち歩くには適した代物だ。 「はは…あまり嬉しくないんだけどね。こんな、人を殺す道具なんて」 貴明のその言葉で、一同が静まる。 「あっ、ご、ごめん。ヘンな事言って」 「…いや、貴明は間違っちゃいねえよ。お前は正しいんだ。…さて、最後はマルチちゃんだな」 「あっ、はい。わたしはこれみたいです」 マルチが取り出したのは… 「モップね」「モップだよな」「モップ…だね」 何の変哲も無いお掃除に使うモップだった。しかも微妙に汚れていることから、使用済みの品らしい。 「…ううっ、これって、適当に入れられた武器のような気がします」 涙目になるマルチ。それをみんなが慰める。 「ま、まぁまぁ。いいじゃないか。マルチちゃんにピッタリだぞ」 「そ、そうそう。それにほら、年季が入ってていい感じよ」 「何かの役に立つかもしれないしさ。ほら、持って持って」 「…はい」 いささか複雑な空気になったものの、取り敢えずは全員の武器が確認できた。 「よしっ。んじゃ改めて姉貴やチビ助達を探しに行こうぜ。それと、もしもの時のためにこれを持っておいてくれ」 雄二が各々に無線機を渡していく。 「これでたとえ離れ離れになっても連絡がとりあえるはずだ。使い方は分かるよな?」 「もちろんよ。…でも、ちょっとテストはしておいたほうがいいかもしれないわね」 「そうだね。それじゃ、俺から試してみるよ」 そう言うと、貴明はみんなから少し離れて無線機を口に当てる。みんなも音が重ならない程度に離れる。 「あー、テスッ、テスッ。みんな、聞こえる?」 「ええ。ちゃんと聞こえるわよ」「おう。俺もだ」「だいじょうぶですー」 どうやら全員大丈夫のようだった。 「大丈夫みたいだね。それじゃ、行こうか」 「オーケー。…んでも、無線機に話しかけると全員に伝わるってのはちょっと厄介だな。みんなが喋ったら何が何だか分からなくなるな」 「そうね…そこは気をつけるようにしましょ」 互いに再度持ち物を確認し合い、灯台を後にする。 向坂雄二 【所持品:無線機、他支給品一式】 【状態:普通】 新城沙織 【所持品:フライパン、無線機、他支給品一式】 【状態:普通】 河野貴明 【所持品:無線機、レミントンM1100P(24発)、支給品一式】 【状態:普通】 マルチ 【所持品:無線機、モップ、支給品一式】 【状態:普通】 【時間:1日目午後2時】 【場所:I−10】 - BACK