「さて、とりあえず診療所まで無事に来たわけだが……」 「明かりは点いてないね」 「そりゃあ点けてたら敵に居場所を知らせるようなものだろ」 「そっか」 宗一たちが家を出発してかれこれ1時間ほど経過したが、2人は無事に沖木島診療所にたどり着いた。 (本当なら30分足らずで着けたのだが、宗一の案で油断せずに警戒しながら進んでいった結果ここまで時間がかかった) 「とりあえず中に入るか。ここでつっ立っててもしょうがないしな」 「うん」 「中に敵がいる可能性も考えられるからな。慎重にいくぞ」 宗一はゆっくり診療所の入り口の扉を開いた。 「静かだね」 「そりゃあそうだろ」 「お姉ちゃんいるといいな…」 「確かに、ここで見つけられれば苦労はしないな」 とりあえず入り口付近には人がいないことを確認すると宗一たちは奥に進む。 「ん?」 少し進んだところでふと宗一が足を止める。 「あれ? どうしたの、宗一くん?」 「人の気配がする」 「えっ?」 「――この部屋か?」 宗一はある部屋の扉の前に立った。 それは患者の入院用の病室うちの1室だった。 廊下をよく見るとあと2、3部屋は入院用の部屋があった。 「診療所なのに入院用の病室が数部屋もあるとはな……」 「そりゃあこの島唯一の診療所だからね」 「なるほど」 頷いた宗一は左手でドアノブを握った。 「いくぞ佳乃。いるのは敵かもしれないが、その時は覚悟はいいな?」 「うん……」 「よし……いくぞ!」 宗一が扉を開いた。 ――スパーン! 「いてっ!」 扉を開けた早々宗一は中にいた女性にハリセンでぶっ叩かれた。 「郁未さんに手出しはさせません!」 ハリセンを持った女性が宗一たちに叫んだ。 そして、もう1回それで宗一をぶっ叩いた。 ――スパーン! 「だから痛いっての!」 「――早苗さん、やはり危ないです。ここはわたしに任せて下がってください」 女性の後ろにいた鉈を持った女が女性に言った。 「そうね。それに、そいつ銃持ってるし」 さらにもう一人、椅子に座っている右腕に包帯を巻いた少女が言った。 「いいえ。それでも引き下がれません。だって郁未さんは怪我をしているんですよ! 葉子さん。今のうちに郁未さんを連れて逃げてください!」 ――スパーン! 「おい! だからちょっと! 俺の話を聞け……ぶっ!」 ――スパーン! 「ええと…とりあえず宗一君を攻撃するのは止めてもらえるかなあ?」 遅れて部屋に入った佳乃が言った。 「あたしたちは人を探しているだけなのー。人を殺す気はないから〜」 「えっ?」 佳乃のおかげで宗一をハリセンでぶっ叩いていた女性の手がぴたっと止まった。 「ごめんなさい。つい郁未さんを守るために必死になってしまって……」 女性――古河早苗は宗一に頭を下げた。 「いえいえ。大人は万一の時には未来ある子供たちを守ることが務めですから。お気になさらずに…」 「あら? 私ももう大人ですよNASTYBOY?」 早苗の後ろでベッドに腰掛けていたもう一人の女性――鹿沼葉子が宗一に言った。 「あらら…こんなところでも俺を知っている奴がいたなんて。俺も随分有名になったもんだ」 「そりゃあ有名人ですもの」 葉子はそう言ってクスリと笑った。 きっと先程の世界一のエージェントが普通の主婦にハリセンで一方的にぶっ叩かれていた姿があまりにも可笑しかったのだろう。 「でもハリセンで宗一くんに挑むなんてすごいよー」 「そう? ただの無謀な行動にしか見えなかったけど?」 そして病室にいた最後の1人、少女――天沢郁未が言った。 「ええと…それで那須さんたちが探している人って誰なんですか?」 参加者名簿を開いた早苗が宗一たちに尋ねた。 「俺が探しているのはこの010番のエディと022番・梶原夕菜。065番・立田七海に092番・伏見ゆかり。それと113番の湯浅皐月と119番のリサ=ヴィクセンの6人だ」 「あたしが探しているのはお姉ちゃんの032番・霧島聖と035番の国崎往人くんだよ」 「全部で8人ですか……」 「―――残念ですが、この中で私が出会った人はいませんね……」 早苗がしゅんと肩を落とす。 「――そうか」 「あ…早苗さん。そんなに気を落とす必要はないよー」 「――で。そちらの探している人は?」 「あっ。はい。今わたしが探しているのは秋生さんと朋也さん。それと春原さんに伊吹先生と風子ちゃん、芽衣ちゃんです」 「そりゃまた随分といるな……」 「はい……皆さん無事だといいのですが………」 早苗の顔からは不安の色が浮かんでいた。 「……あんたらはいないのか?」 「…………別にいないわ」 郁未が無愛想に宗一に答えた。 (いいんですか、郁未さん?) 葉子が小声で郁未にこっそりと尋ねた。 それに対して郁未も小声で返答する。 (かまわないわ。どうせ晴香や由依や少年たちともいずれ敵になるんだから……) 「……ねえ宗一くん」 「ん? なんだ?」 突然、佳乃が深刻そうな顔をして宗一に尋ねてきた。 「どうした? ……まさか、誰かが診療所に入ってきて…………」 「…………………お腹すいてない?」 「……………」 ぐう〜… 「その言葉を待っていた」とばかりに宗一、佳乃の腹の虫が同時に鳴いた。 「………そういえばこの島に来てから特に何も食べてなかったな」 「…そういえば私もです」 早苗が恥ずかしさのあまり顔を赤らめて言った。 「本当に馬鹿ねあなたたち。食べられるときに食べておかないとこの先何かあるかわからないっていうのに……」 宗一ってそれでも本当に世界No.1エージェントなの? と付け足して郁未が毒づいた。 「――あ〜…でも、ちょうど支給のパンがあるから……」 「え〜。でもさ宗一くん、このパンあまり美味しそうじゃないよ。それにさ、万一のことも考えてこれは非常食として取っておいたほうがいいと思うよ」 バッグの中から取り出したパンを見ながら佳乃が言った。 「………つまりどうしろと?」 なんか嫌な予感、と宗一は感じた。 「せっかく村にいるんだからさ。宗一くん一度村に戻って何か料理の材料を調達してきてくれないかな?」 もちろんパン以外で、と付け加えて佳乃がお願いと両手を合わせた。 「――おい。なんでそうなる? みんなで行けばいいだろ?」 「酷いなー宗一くん。か弱い女の子や女性が夜道を歩くのは危ないんだよー」 「あの…那須さん。すいませんがわたしからもお願いできますか? 私も佳乃ちゃんと同じ意見で、このパンは万一の時のために残しておいたほうがいいと思うんです」 早苗が佳乃の隣に来て宗一に言った。 「な…早苗さんまで……なあ…郁未たち、何とか言ってくれないか?」 「悪いけど私たちには関係ないわそんな話。したがって私は棄権票」 「ごめんなさいね宗一さん。郁未さんがそうおっしゃるなら私も同じ意見ですので」 「マジかー!?」 「あはは。賛成票2・反対票1・棄権票2で宗一くんが一人で行くことに決定。 じゃあ悪いけど宗一くんは『おつかい役1号』として早速行ってもらうね」 「はあ……わかったよ。行ってくればいいんだろ? 悪いが、邪魔になりそうだから俺のパンと水はここに置いていくから取るなよ」 「わかってる、わかってる〜。あ。そうだ宗一くん、もしよかったらこれを持っていってよ」 「――!」 佳乃は自身の支給品である銃を宗一に差し出した。 銃が姿を見せた際、郁未と葉子がなぜかピクリと反応したように見えたが、多分気のせいだと佳乃は思った。 「これは……」 それは宗一にとって馴染み深いものだった。 ―――FN Five-SeveN。 宗一が普段から愛用していたものと同じ自動拳銃だったからだ。 「持っていたんなら最初から出しとけよ。まったく無用心な……まあ、ありがたく借りていくぜ」 「うん。いってらっしゃ〜い♪」 そうして『おつかい役1号』こと那須宗一は一度診療所を後にした。 「それにしても郁未たち、なんかずっと俺を警戒するような目で見ていたような気がしたが……この島じゃ俺ってそんなに悪人面なのか?」 などとぶつぶつ口に出しながら…… 【時間:午後5時過ぎ】 【場所:沖木島診療所(I−07)】 那須宗一 【所持品:ベレッタ トムキャット(残弾7/7)、FN Five-SeveN(残弾20/20)、包丁、ツールセット、ロープ(少し太め)、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】 【状態:空腹。氷川村に戻り食料調達へ】 古河早苗 【所持品:ハリセン、支給品一式】 【状態:空腹】 霧島佳乃 【所持品:武器以外の支給品一式】 【状態:空腹】 天沢郁未 【所持品:薙刀、支給品一式(水半分)】 【状態:右腕負傷(軽症・手当て済み)。ゲームに乗っている。宗一を警戒。隙あれば早苗たちを殺す気満々】 鹿沼葉子 【所持品:鉈・支給品一式】 【状態:特に異常なし。ゲームに乗っている。宗一を警戒】 【備考】 ・佳乃の支給品は宗一に貸したためのもとに ・宗一の水と食料は診療所に置いていく ・渚は早苗たちとは別の部屋で寝かされている - BACK