祐一はまっすぐに北川に走り寄ると尋ねた。 「……いまいち状況がつかめてないんだが、あいつはゲームに乗ったやつって認識でいいんだな?」 「あぁ……」 そして北川の珍妙な格好と、抱えられた杏をチラリと見ると一言。 「まぁ積もる話は後でたっぷりするとして……とりあえずあいつだな、神尾さん少し下がっててくれ」 「めんどくさいなぁ」 つまらなそうに言う勝平に祐一は苛立ちを隠せない。 「お前なんだってこんなゲームに乗っちまったんだよ?」 「うーん、なんでだろ……面白そうだったからかな?」 「ざけんなっ!」 祐一が吼えた。 「人が死ぬのがおもしれぇだ?舐めたこと言ってんじゃねぇよっ!」 自身の右手をゆっくりと見つめ、苦しそうな顔で続ける。 「俺はさっき人を、この手で、殺した」 親友の口から出た信じられない言葉に、北川の顔が固まる。 「そうしなければこの子が、俺が、危なかった。 だからって言い訳になるとも毛頭思っちゃいない。 俺がやったのは最低な行為で、楽しくなんかまったくねぇんだよ!」 「いまいち君の言ってることが良くわからないんだけど…… 僕は凄く楽しかったよ?可愛かったなぁ、あの子。 噴水みたいに血が飛び出てさ、こう脳味噌をかき混ぜたらグニョグニョって僕の手を刺激してくるの」 「こいつおかしいよ……」 北川が泣きそうな顔でかぶりを振った。 祐一も同意だった。 ドス黒い嫌悪感だけが襲ってくる。 (こいつはダメだ……) 狂ってる。 まともな交渉など通じるはずはないだろう。 銃を握り締める手に力がこもる。 「撃つの?撃てるの?ちょっとでも狙いがずれたらコレに当たってみんな大爆発かもね。 はは、それはそれでおもしろいかな」 「けっ、黙れよ」 もはやこいつの声は、言葉は、一分一秒たりとも聞いていたくなかった。 ドンッ S&W M19が火を噴き、弾は外れ勝平の足元へと吸い込まれた。 だがこれは威嚇。 射撃訓練もしたことのない自分が、先ほどのように偶然でも狙い通りに撃てることを期待なんか出来なかった。 同時に身をかがめ勝平に向かって駆ける。 一気に間合いを縮めながら銃を左手に持ち直すと、右手を握り締め振り上げた。 手ごたえは……ない。 渾身の力を込めたアッパーがむなしく空を舞う。 「遅いよ」 一瞬のうちに後ろに回りこんだ勝平の拳が、隙だらけの祐一のわき腹をえぐる。 「ゴフッ」 左のわき腹が重い、折れてはいないだろうがひびぐらいは入ったかもしれない。 痛みに崩れ落ちる祐一の左手を思いっきり蹴り飛ばした。 「ぐあっっっ!」 その反動でS&W M19が手を離れ、大きく飛ばされた。 休む暇も与えず続けざまに顔面を蹴り上げ、そして両手を握り締めると祐一の脳天に向かって叩きつけた。 バタリと倒れこむ祐一の背中に、なおも足を振り上げる勝平。 「やめろよっ!」 ほんの数秒の出来事。 その数秒の間何も出来なかった自分を恥じ、北川が声を荒げた。 左手に抱えた杏をぐっと離すと観鈴に向かって叫ぶ。 「あんた、ちょっとこの子を頼む!」 ヨロヨロと歩く杏を観鈴がそっと抱きしめ、心配そうな瞳で北川を見つめていた。 SPAS12ショットガンの照準を勝平に向ける。 だが北川の叫びにも勝平はまったく怖じることなく言った。 「次は君?」 「うるせぇっ!相沢から離れろよっ!!」 「別に撃ってもいいけど……彼に当たるよ?」 そ呟くと、全身を襲う痛みに呻く祐一の身体を抱え、自身の盾とする。 「くそっ!やめろってんだろ!」 「言ってるね。やめないけど、ははは」 祐一を前に差し出し、一歩、また一歩と北川に歩み寄っていく。 (これじゃ相沢に当たっちまう) ショットガンを観鈴に向かって投げつけ、腰から斧を引き抜いた。 「え?え?」 「持っててくれ!」 勢いよく助走をつけ斧を振りかぶり、勝平に向かって振り上げた。 だがその前に祐一の身体がそっと差し出される。 その行動に北川の動きがピクリと止まった。 「はい、残念」 同時に北川の腰をつんざくような衝撃が襲った。 斧を握る手から力が抜け、束縛されることが無くなったそれは静かに地面へと突き刺さる。 腰を抑えながらヨロヨロと後ずさる。 「あーもう、つまんないよ君たち……2対1でこれなの? もっと面白くしてくれないと諒さんへのお土産にならないじゃない」 侮蔑したように言い放つと、刺さった斧を引き抜いた。 「――なら3対1でもいいのかな?」 後ろから聞こえた声に勝平がくるりと身を翻す。 「楽しませてくれるなら、喜んで」 まったく笑みを崩さない瞳には、銃を構えた英二と芽衣の姿があった。 相沢祐一(001) 【所持品:支給品一式】 【状態:左わき腹損傷、他打撲多数、結構ぐったり】 北川潤(030) 【持ち物:防弾性割烹着&頭巾、他支給品一式、携帯電話、お米券】 【状態:目立った損傷はないが腰を痛める】 柊勝平(081) 【所持品:消防斧 手榴弾(2つ)他支給品一式】 【状態:祐一を抱えている】 藤林杏(090) 【所持品:手ぶら、荷物はC-6消防分署に】 【状態:観鈴と一緒に、なおも精神状態不安定】 神尾観鈴(025) 【所持品:SPAS12ショットガン フラッシュメモリ・支給品一式】 【状態:杏を支えながらも混乱中】 緒方英二(014) 【持ち物:武器拳銃、支給品の中に入っていた食料と水を少し消費、他支給品】 【状況:勝平と対峙】 春原芽衣(057) 【持ち物:支給品の中に入っていた食料と水を少し消費、他支給品】 【状況:健康状態中】 共通 【場所:C-5鎌石村消防署のすぐそば】 【時間:1日目午後4時過ぎ】 【備考:→096&→125 多分B-2ルートで S&W M19(銃弾数3/6)は地面に落ちました】 - BACK