先程の何者かの銃撃を上手く回避しきった高槻と郁乃&七海ペアは銃撃がもうないのを確認すると、まずは一段落をつけた。 「あ、あのっ…どちら様だか分かりませんが、ありがとうございましたっ」 目の前のちんまい少女、立田七海に一生懸命頭を下げられ、高槻は半ば困惑していた。今までの高槻の人生でここまで感謝されたことはなかったからである。 「………」 が、もう一人のちんまい少女、小牧郁乃からはジロリとした目線を浴びせられるだけだった。 「ほらっ、郁乃ちゃんもありがとう、って言わないと。せっかく助けてもらったんだから」 「…ま、一応礼はしとくわ。でもあなた、一つ聞きたいんだけど」 「あん? 何だ」 疑いの視線を崩さないまま、郁乃は腕組みをして尋ねる。 「どうして、あんな絶妙なタイミングで助けに来ることができたの? 銃撃が始まったとたんに『危ない』って言ったでしょ? しかもあんな近距離から。あらかじめ機を窺っていたようにしか思えないんだけど」 「い、郁乃ちゃん、そういう言い方は…」 「七海。悪いけど、あたしは疑りぶかい性格なの。で、どうなの? 本当のところは」 言えない。ってか、言えるか。「実は、あなた達の懸命に叫ぶ姿があまりに美しかったので、思わずガールウォッチングに勤しんでいたんです」などと言った言葉を進呈するが如きは、良くて変態扱い、悪くてその場で頭を撃ち抜かれない。最近の女は怖いからな。 「あー…それは、だな」 高槻は考えうる限りの頭脳を駆使して一番適当な言い訳をチョイスした。 「あー…実はな、俺はハードボイルド小説の愛読者なんだ」 「は?」 郁乃が素っ頓狂な声をあげる。 「女が悪に襲われてる現場を見るとだな、アメリカン・コミックヒーローのようにジャジャーンと登場して『待ってました!』と間一髪助けるのが俺の夢なわけよ。で、目の前にまさにそんな状況があったから思わず口が」 「………」 完璧な言い訳をしたつもりだったのだが、ものの見事に疑われていた。しかも七海までジト目だった。 「と、ともかく、これで俺は目的を果たした訳だ。じゃあな、お嬢ちゃんたち」 クールに決めて、その場から逃げようとする高槻。しかし郁乃達がそれを許すはずもない。それは高槻にも分かっていたので。 「ちょっと待ちなさいよ…って、逃げた!」 覚えてろよガキども。武器がまともだったら、こんな三流悪役のような逃げ方をせずに済んだものを。おのれクマのぬいぐるみ。おのれ、高野山。 クマのぬいぐるみと高野山に全ての責任を押し付けて、高槻はどこかへと走り去っていった。 「…で、結局何だったの? あの男」 「さぁ…少なくとも、ハードボイルド小説の愛読者じゃなさそうだね。それより、郁乃ちゃんのお姉さんと、宗一さん達を探しに行こっ」 小牧郁乃 【時間:1日目14:30頃】 【場所:E−07】 【持ち物:支給アイテム不明、車椅子、他基本セット一式】 【状況:七海と共に愛佳及び宗一達の捜索】 立田七海 【時間:1日目14:30頃】 【場所:E−07】 【持ち物:支給アイテム不明、他基本セット一式】 【状況:七海と共に愛佳及び宗一達の捜索】 高槻 【時間:1日目14:30頃】 【場所:E−08】 【持ち物:熊のぬいぐるみ(やや大きめ)、他基本セット一式】 【状況:街道に沿って南へ逃走】 【備考:Bルート系で】 - BACK