賭け




 木の幹に腰を落ち着けながら、青い矢を見つめる少女。倉田佐祐理。
どれくらい走ったのだろうか、時間の感覚が掴めていない。
いや、それよりも問題はこの矢の効能だ。致死性の毒か、大した事のない毒か。
あの男性の倒れ方からみて、超強力な致死性の毒か、
麻酔薬かのどちらかであろう事は佐祐理の頭にも推測できた。
どちらかというと、麻酔薬の可能性の方が強い。例えばヤドクガエルの毒でさえ、
ああも一瞬では死なないだろう。
(いえ、それさえ佐祐理の願望でしょうか?単にそう思いたいから、
致死性の毒ではないと思いたいから、思い込んでいるだけでしょうか?)
 どちらにせよ、人を殺す覚悟はできそうになかった。さっきは出来たと
思っていたが、いざ実行してれみれば、殺人の重さは想像以上だった。
(ならば…佐祐理がすべき事は、祐一さんと舞を帰すこと…。たとえば二人以外の
人を全員殺したとしても、あの二人はもとの世界には帰れない。
どちらか一人しか…。そしてその選択をあの二人はできないでしょう…)
そうなれば、穏便にここから逃げ出すか、ゲーム自体を崩壊させるしかない。
それが出来るのか、そしてやるのか、と佐祐理は自問自答した。
(答えは…佐祐理の罪に聞いてみましょう)
佐祐理は青い矢を取り出した。これを自分に刺し、もし生きている事ができれば
このゲームを壊す、もしくは脱出する。もし、致死性の毒ならば彼に対する償いには
ならずとも、最低限の罰を自分に与えることができる。
仮に麻酔薬で、寝ている隙に誰かに殺されてもそれはそれで構わなかった。
すくなくとも自分は殺そうとしたのだから。
 そう考えた佐祐理は、躊躇いもなく青い矢を腕に走る脈に刺した。
効果はすぐに現れた。段々と佐祐理の意識が遠くなる。

遠くなる意識の中で、昔読んだ本の一節が彼女の頭に浮かんだ。

『私の文章を読んでくれている君 君が誰であろうとかまわない。
君の好運を賭けたまえ。私がしているように慌てずに賭けるのだ。
今これを書いている瞬間に私が君を賭けているのと同様に君も賭けるのだ。
この好運は君のでも私のでもない。すべての人の好運であり、すべての人の光なのだ。』

誰のなんという本の一節だったか。それが何であれ、
睡眠に落ちる佐祐理の脳を過ぎったのは、ある種の願いであり、決意であった。
(もし、”私”に幸運が訪れたのなら…。それが皆さんの幸運になりますよう…)




【時間:1日目 14:30頃】
【場所:G-7】
【所持品:基本セット、 吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状況:麻酔による睡眠。起きたら脱出・ゲーム破壊の方法を考えるつもり】
【備考:ルートB】
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