一ノ瀬ことみの奮闘




この島は、地獄だ。
彼女、一ノ瀬ことみ(006)は即座にそう判断した。
昨日までの日常は今では非情なものと成り下がり、
愛や友情は灰の荒城と化すだろう。
生きたければ“強さ”を求めなければならないのだ。
それは単純な力でなく心の“強さ”
意志の力・・・
そのことを理解してからの彼女の反応は早かった。

まず、冷静にこの状況を分析する。
ルールは単純、この島で119人の人間と戦えばいいのだ。
しかし彼女はその考えを打ち消した。
自分にそれだけの力量はない。
それに主催者の言った『人間とは思えないようなやつ』
彼女の両親の生涯のテーマはこの世とは別の世界を取り扱うものだった。
そのよう人間がいても不思議ではない。
ならばできることはただ一つ。
「言われなくてもすたこらさっさなの」

障害は意外に少ない。
『首輪を外して、海を渡る』
たったこれだけだ。
この沖木島は瀬戸内海に浮かぶ全長6キロあまりの島だと認識している。
うさぎの言うことが真実なら渦潮に気をつければ
泳ぎのうまいものなら泳いで脱出できてしまう。
それを予防するための首輪も彼女の技術力なら
普通の工具さえあれば簡単に無力化できるだろう。
「一家に一台一ノ瀬ことみ、どっかのサテライトより役に立つの」
しかし、簡単すぎはしないだろうか?
自分がそれだけの技術力を持つ人間だということは相手も理解してるはず。
ならばこの首輪、あるいは他のところに罠が仕掛けられている?
そもそも相手の全容、目的もわからない。
わざわざ危険を冒して自分達を隔離する目的は?
「わかった!!相手は情報統合思念体なの。私達は本体じゃなくて
 情報統合思念体によって作られた実験体なの!!」
下らない考えが頭をよぎる、ありそうで怖い。
とりあえず相手の出方がわかるまで首輪もそのままにしたほうがいいだろう。
この首輪にはおそらく発刊、発熱、脈拍、呼吸、血圧等の個人の身体状況を調べる装置に
発信機や盗聴、盗撮器などの個人を管理するための装置が入ってることを
念頭に置かねばならないだろう。
ならば迂闊な真似はできない。
あくまで秘密裏にことを進める。
そのためには協力者がいる。
ならば動かなければ、話はそれからだ。

まずは周囲の状況を確認しなければならない。
街道沿いに進み、手頃な民家、窓は少なく適当な広さで出入り口が二つ以上あるもの、
を探す。最初期に出た彼女なら誰かと出会う確率は極端に低いだろう。
適当なものを見繕ったら中に入るがあえて鍵はかけない。
これならば偶然誰かが入ったとしても鉢合わせにならずに済む。
そこで彼女はまず手荷物の確認、ひいては名簿と武器を調べ始めた。
武器はすぐに見つかった、『十徳ナイフ』
「えぇと。毒針、吹き矢、高圧電流などを兼ね備えた便利な暗殺用ナイフ。
 いや、普通の十徳ナイフがよかったの」
つぎに名簿の確認
「椋ちゃん、杏ちゃん、渚ちゃん、朋也くん。みんなそろってるの」
しかも古河姓、岡崎姓が続いてることから家族ぐるみでさらわれたのだろう。
この中の誰かと接触できればあるいは…
「椋ちゃんは出会ったイケメンとしっぽりやってるの、渚ちゃんは即マーダー化
 しそうなの。杏ちゃんはデフォルトマーダーなの」
とりあえず知り合いといえど迂闊に信用しないほうがよいだろう。
しかし一人では生きていけない。何とか同じ考えの人と接触する方法を考えなくては。
「うぅ〜朋也くん・・・」
彼女の苦難は続く




  一ノ瀬ことみ
 【時間:正午前】
 【場所:平瀬村民家F02】
 【持ち物:暗殺用十徳ナイフ、基本セット】
 【状況:冷静、民家を不法侵入かつ家宅捜索中】
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