やったねパパ。明日はホームランだ!




「とりあえず逃げ切れたみたいだな…」
住井護(059)は後ろを振り返り誰も付いてきていないことを確認するとふぅと安堵の息を吐いた。

(しかし、もうゲームに乗った奴がいるとはな)
先程遭遇した自分と同年代の女の子の顔を思い出す。
「はあ…あれで敵じゃなかったら是非とも仲間になってもらいたかったぜ」
別にロリ系フェチじゃないけど、結構可愛かったし、などと言いながら住井は別の場所へ移動するために足を進める。


(――そういや、腹減ってきたな。支給されたパンでも食うか……)
住井は物陰に隠れて腰を下ろすと、バッグを開いた。
さすがに走りっぱなしだったせいか、既に住井の腹は空腹を伝える音を2、3回度鳴らしていた。
(えーと。パン、パンと……ん?)
その時、住井の鼻に美味しそうな匂いが漂ってきた。

(こ…この食欲を誘う美味そうな匂いは……まさか)
住井はバッグを持って立ち上がると、匂いに誘われてふらふらと歩きだした。


「も…もう限界っス〜〜……………」
吉岡チエ(117)は箸を止め、その場にごろんと大の字に寝っ転がった。
「……まだ3杯目。頑張る…………」
川澄舞(028)は5杯目の牛丼に口を付けるとチエに言った。
「そんな無茶な……」
そう。彼女達は今例の1週間分(すなわち3食×7日分=計21杯)の牛丼と格闘している真っ最中なのだ。
ちなみにチエは現在まで2杯と半分を食べたところである。

「……ていうか、苦しくないんスか?」
「………………正直言うと少し辛くなってきた」
「はあ…せめてけんちん汁か卵かコールスローとかも付いていればもう少しはいけるかもしれないっスけど…………
さすがに牛丼だけだとお腹は苦しくなるし飽きてきちゃうっスよ…………」
そう愚痴りながらチエは残り半分を下回った自分の水に口を付けた。

「ここか…………って、おお! やはり牛丼じゃないか!」
そこに牛丼の匂いに誘われた住井がやって来た。

「だ…誰っスか!?」
突然の住井の登場を敵襲と勘違いしたチエはとっさに支給品の日本刀を持って住井を威嚇した。
「ああ、俺は敵じゃない。ただ腹が減っていたところをこの匂いに誘われて来ただけなんだ」
「え? えーと……つまりコレが食べたいんスか?」
舞のバッグの中にあるまだ手付かずの牛丼たちを指差すチエ。
「くれるのか!?」
「…食べるの手伝ってくれるなら大歓迎っス!」
「はちみつくまさん。でも、今日中には全部食べないと……」
「まかせろ! さっきも言ったが、ちょうど腹が減っていたところだ!」
そう言うやいなや、住井は早速手付かずのうちの1杯を手に取り容器のフタを開けた。
刹那。牛丼独特の匂いが住井の周りに広がる。

「くぅーっ! そうそう。この匂いだよ! いっただきまーす!」
住井は物凄いスピードで1杯目の牛丼をそれは美味そうに口の中に掻き込み始めた。
「…………負けていられない」
「そ…そうっスね。あたしもせめてこれだけは食べきるっス」
住井の食べっぷりを見て闘争心に僅かに火が点いたのか、
舞とチエも食べ掛けだった自分たちの牛丼に再び箸を進めはじめた。

―――3人の牛丼攻略はまだ始まったばかりである。




 住井護
 【状態:空腹】
 【所持品:投げナイフ(残り4本)、ほか支給品一式】

 吉岡チエ
 【状態:腹8分目】
 【所持品:日本刀、ほか支給品一式(ただし水・残り3分の1)】

 川澄舞
 【状態:腹・少しきつくなってきた】
 【所持品:牛丼以外の支給品一式(ただし水・残り半分ほど)】

 【場所:G−04】
 【時間:1日目午後1時30分】
 【状況:牛丼攻略中】
 【牛丼:残り15杯(現在食べている分含む)】
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