無題




「冬弥君、冬弥君。私頑張るよ・・・待っててね。冬弥君、冬弥君・・・」

森川由綺の呟きは止まらない。
そんな中で、構えられた89式小銃は何の躊躇いもなく火を噴くことになる。

「ちっ!」
「・・・っ」

柳川祐也は柏木楓を抱える形でしゃがみこみ、横一線引かれる弾の流れを回避する。
あくまでギリギリ、紙一重。
少しでも遅れれば即刻退場だ。

(鬼の力が制限されているのがつらいな・・・)

それでも軌道を読み取れたのは、彼のくぐって来た修羅場があったからこそ。
そして。
よた・・・。軽量とはいえ、女性の手には余るのであろう。
非力な由綺は体勢を少し崩す、一瞬ライフルの照準がずれた。
だが、その隙を楓が見逃すはずは無い。
パァン!パァンッ!
二発の銃声。
柳川の懐から放たれた楓の反撃、狙いは由綺の右肩口。

「きゃあ!いっ、痛いいぃぃ」

打たれた場所を庇う形で、由綺は膝をついた。

楓が外すわけはない。
二発の銃弾は、しっかりと由綺の肉を抉っていた・・・。
アサルトライフルVS拳銃、勝敗は一目瞭然のようでもあったが、最後は使用者で決まる。
鬼の力の名残が、この結果を生んだ。
倒れこむ由綺を冷静に見つめ、彼女はとどめに残りの4発を全て彼女の腹部を狙って射撃した。

「・・・何とかなるもんだな」

血の海に沈んだ由綺を見つめた後、柳川は感心したように楓に目をやる。

「正直、最悪の展開しか予想してなかったからな」
「・・・・・・」

柳川が手を貸さずとも、すくっと立ち上がる冷静な少女。
楓は柳川よりも長く、慎重に由綺を見据えた後やっと彼に向き直った。

「・・・・・・」
「何だ、柏木の娘」

じっと見つめられる。楓の表情は変わらない。

「・・・・・・」
「話があるなら言ってくれないか、ないならないでそう答えてくれ」
「・・・・・・・・・ぅ」
「何?」
「・・・庇ってくれたから。それだけは、礼を言うわ・・・」

そして、すいっと避けられる眼差し。
すたすたと、一戦の際に放ることになっていた荷物を取りに行く背中は、年頃の小ささを物語っているようで。
その態度と相まみれ、それは非常に微笑ましいもので。

(・・・馬鹿か。相手は、あの柏木の娘だぞ?)

それでも、悪い気はしない。
無表情な少女のちょっとした仕草に、柳川は自分らしくもない感情を描くのであった。

・・・が、その刹那。幼い背中は赤に染まる。

パァンパァンパアンパアンっ!!!

「っ?!」
「なにっ!!!!」

襲撃に構えなおす、振り向いた先には・・・由綺が、真っ赤に染まった森川由綺が。

「ひゃひゃひゃひゃひゃっ・・・仕返しだよぉぉぉっっ」

それは何と表現してよいものか。
土下座のような形で倒れている彼女、打たれた右手はそのままで。
・・・根性で、左手を伸ばし89式小銃のトリガーを引いていたのだ。


普通であれば、そんなことで標準が取れるはずなどない。
しかし。

・・・由綺は、二人に襲撃した時点で、横に構えていたにも関わらず、ライフルの二脚を立てた形で装備していたのだ・・・

それは、銃に関して無知であった彼女だからこその結果であり。
そこまで見越すことのできなかった二人の、結果でもあった・・・。

「くそぅ!!!」

殺気を満たす、柳川は手にしたままであった出刃包丁を躊躇い無く投げつける。

「ひゃは・・・ひぐぅ!!!」

刃は由綺の眉間を貫く。それにより、彼女はやっと本当の意味で停止した。

「・・・何てことだ。」

二つの赤い池に挟まれる形で、柳川は呆然とするしかなかった・・・。




柳川祐也
【時間:1日目午後3時近く】
【場所:平瀬村住宅街(G-02上部)】
【持ち物:ハンガー・支給品一式】
【状況:呆然】

柏木楓  死亡

森川由綺  死亡
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