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漆黒の闇はいよいよ深まり、明かりも殆どないこの島では見えていたものさえ見えなくなる。 雨は上がり、雲もなくなった空では少し欠けた月と星の瞬きが地上を照らし出しているのがせめてもの救いだった。 車に荷物を詰め込み、もう忘れ物がないかと再三に渡るチェックを行ったリサ=ヴィクセンは、 廃屋同然になった民家を眺めてひとつ息をついた。 何せ車があるのをいいことに持っていけるものは持ち出せるだけ持ち出したのだ。 タオル、着替え、食べられるもの、食器、果ては生理用品まで。 まるで夜逃げのようだとリサは思ったものだったが、実際はこんなものは持っていかないだろう。 通帳と手形、パスポートに印鑑といったものを頭に浮かべ、ひとつとして荷物の中になかったことを考えると、 寧ろ旅行というに相応しいという結論に至り、リサは苦笑するしかなかった。 徐々に自分たちは日常に回帰しつつある。人と人が関わることを始め、自らもその環に入っている事実。 決して元通りではない、それどころか何一つとして戻ってくるものなどはない。 バラバラに砕け散って、寄せ集めて形にしたようなものでしかない。そうすることでしか傷を塞げないのが自分たちなのだろう。 だが元に戻せなくとも、傷が完全に癒えなくともなんとか出来てしまうのが人間なのだし、新しい欠片を見つけて繋ぎ合わせることだって出来る。 その気になりさえすれば理由をつけ、しぶとく生きていられるのが人間なのだ。 少なくとも、そういう逞しさ、ひたむきさを身につけたのは間違いのないことだった。 もっとも、私はただ諦めが悪いだけなのかもしれないけれど…… 筋を通しきれずここまで来てしまった女。まだ何も為していない。それは機会を逃してしまった結果だろう。 英二に先を越され、愚直になりきれなかったがために、自分はまだ生きている。 それで良かった。筋を通して生き抜いた英二の姿を見たからこそ、こうして責任を覚える生き方をしている自分がいるのだから。 恐らく、早かれ遅かれ、どちらかが死に、どちらかが残されていたのだろう。英二と自分、双方ともが不実を抱えていた人間だったから。 生きる役割を任されたのが自分なら、それを全うしてみせるのが軍人だった。 でも、とリサは思う。それでも共に道を歩める未来があっても良かったのではないだろうか、と考えてしまう。 掴めるはずのない理想なのだとしても、二人で道を拓けたかのもしれないのに…… できなかったのは、二人ともが大人であったから。その一事に尽きるのだろうと結論したリサは、 いつか英二と同じ場所に行ったら散々に愚痴ってやろうと考えたのだった。 女を残して行ってしまったことは、少々許しがたいものがあった。 どうやら諦めが悪いのは異性との関係についても同じことらしいと自覚し、雌狐と渾名された理由が掴めたような気がした。 自分が俄かに人の匂いを帯び始めたことがただ可笑しく、口元を歪めながらリサは民家を後にした。 「リサさーん。まだ?」 踵を返してみると、車の窓から顔を出している一ノ瀬ことみの姿があった。 腕をぷらぷらさせ、顎を枠に乗せている様子からは、失明したとは思えないほどの元気さがあった。 或いは、怪我などもうどうでもいいという領域にまで達しているのかもしれない。 どっこい生きてる、という彼女の言葉と、やりたいことがあると語った真っ直ぐな表情との両方を思い出して、そうなのだろうとリサは納得する。 不思議と、悲しいことだとは思わなかった。悲劇ではあるが、それを乗り越えられるくらいのものも手に入れている。 だからといって幸せでもないのも確かだ。ことみ自身が今のことみを受け入れているから、悲しくはないだけのかもしれない。 詮無いことだ、とリサは思った。自分だって、今が幸せだと言えるはずもない。だが納得はしているし、それでいいとも思っている。 昔のままでは掴めなかった、知るはずのなかった希望が、自分の手元にあるのを感じられるから…… 「瑠璃と浩之は?」 「寝てるの」 窓から後部座席を覗き見ると、そこでは肩を寄せ合って、静かに寝息を立てている二人が確認できた。 荷物に囲まれて窮屈そうではあったが、緊張の糸が切れたかのように安らかに眠っている。 無理もない。ここまで緊張状態を保ってきて、体が疲れていないはずはなかった。 逆に、ようやく眠れる場所を見つけていることに安心する気持ちを覚えながら、リサは「まあ、いいわ」と微笑んだ。 「起こすのも可哀想だし。あなたも寝ていいのよ」 ことみにもそう言ったが、彼女はゆっくりと首を振る。 「もう寝たから」 ああ、とリサは頷いた。一応、麻酔で眠ってはいた。意識的に眠れない状況なのだろう。 苦笑を漏らし、「だから、居眠り運転しないように見張っててあげるの」と続けたことみに、リサは「どうも」と言いながら肩を竦めてみせた。 正直なところ、疲れてはいるが眠くはなかった。そうなるように訓練されているからだ。 走行距離にしたってここから目的地までは三十分ほどの距離だ。呆けることもないはずだった。 運転席に乗り込み、キーが刺さっていることを確認し、エンジンをかける。 浩之の情報ではバンパーが潰れているだけ、らしかったが、実際のところはどうか分からない。 だがそんなものは杞憂だったようで、エンジンが小気味よく音を立て始め、車が微弱に揺れた。 音からしても特に問題はなさそうだった。 「……そういや、マニュアルじゃないのね」 リサ達が乗り込んでいるのは一般的によくあるオートマ車で、よく乗っている車種とは程遠い。 運転する快感は得られないのか、とどこかで残念がっている自分を見つけ、贅沢を言うなと言ってやる。 「車、好きなの?」 「ええ。早く走らせると気持ちいいものよ」 「……走り屋さん?」 「子供ね」 恐らくはボケだったのだろうが、リサは眉一つ動かさず受け流した。 逆にムッ、としたのはことみの方で、一蹴されたことが気に障ったようだった。 「免許取って、アメリカあたりにあるただっ広い田舎道を走ってみれば分かるわよ。特に自分の操作がダイレクトに伝わるタイプの車だと、最高」 「そういうものなの?」 「そういうものよ」 言いながら、リサはアクセルを踏み込んで車を走らせた。思った通り、ごくありふれた車では思った以上の初速も得られない。 やはり残念がっている自分がいて、走り屋と言ったことみが正しいようにも思えたリサは、 逆らうようにゆっくりとした速度を保ちながら運転を始めた。今までの調子だとどんな運転になってしまうかも知れず、 寝ている二人を起こしてしまう可能性があったからだった。 存外大人しい運転のリサに、ことみはしばらく怪訝な目を向けていたが、 やがて気にすることもなく、車の窓を開けて夜陰の涼しい風に身を浸すようになった。 低いエンジン音の他には何の音もない、静けさそのものに沖木島は包まれていた。 「そういえば」 ふと思い出したように、ことみが呟いた言葉が流れてくる。 「もしも、の話なんだけど、学校にいっぱい人が集まってることって、十分考えられるよね」 「そうね。宗一も人は何人か集めてるだろうし」 「今の生き残りが十四人。どれくらい集まるかな」 「流石に、全員ってことはないでしょうけど……」 専ら美坂栞と行動を共にしていたので、遭遇した人間は少ない。残り十四人のうちどれだけがまだ殺し合いを続けようとしているのかは分からない。 それでも、自分達のように脱出を目論もうとする連中よりは少ないことは確実だろう。 氷川村において、宮沢有紀寧を始めとして五人の『乗っている』人間は死亡している。大きくバランスが傾いたのは間違いない。 完全にいない、と楽観視はできる状況とは言い難いが、一箇所に集合することができたなら、もはや一人二人程度ではどうにもならない。 武器も集まっていることから、どれだけの犠牲を出したとしても『乗っている』連中を殲滅することは事実上可能だ。 逆に言えば、説得も可能ということになる。脱出の手段があることを示してやれば、応じる可能性は十分に高い。 それこそ、柳川祐也のように絶望しか見る事ができなくなってしまった人間でもない限りは。 想定の上では殲滅は出来ると考えたが、実際のところもう参加者同士で戦うのは無駄だとリサは思っていた。 戦力は一人でも多い方がいいし、この状況で人殺しだの何だのと言い合っている場合でもない。 人の死に関わっていない人なんているわけがないのだ。 説得に応じ、これまで行ってきたことを正直に告白するのならば、リサは殺すつもりはなかった。 絶望と対峙してきた中で、それ以上に信じられるものもあると理解することが出来たのだから。 「ちょっと、電話使っていいかな」 「どこにかけるの?」 「学校。言い忘れてたけど、別行動してる人がいるの」 言い忘れていたというよりは、言わなかったのだろう。リサは即座にそう考えた。 別行動というからには理由があるはずだった。 例えば、脱出するのに必要な資材の確保だとか、その他雑貨の調達などだ。 そうでなければ立て篭もっている方が安全性は高い。 ことみにしろ、ことみの仲間にしろ外に出なければいけないくらい時間と道具が不足していたのだろう。 いくら計画が完璧であっても、先立つものがなければ意味はない。 そういう意味では不完全なことみの計画に乗せられたということになる。 一種の駆け引きに負けたということだ。悔しいとは思ったが、それよりもことみのしたたかさは本物だと気付けたことが幸いだった。 彼女の頭のキレは、脱出するのに必要不可欠だと言える。少しばかりムラはあるが、誤差の範囲だろう。 人間性よりも先に能力の方を見てしまうのは癖としか言いようがなく、リサは誰にも聞こえないくらいの溜息をついた。 この感覚を共有できる相手がいなくなってしまったことが、本当に惜しすぎる。 「どうぞ。どんな人なの?」 「んー、友達、なの」 既にスピーカーの向こうに意識をやっているらしいことみは話半分にしか聞いていないようだった。 聞き耳を立てるわけにもいかず、リサは運転に集中することにした。 とは言っても、安全すぎるほど安全運転なので、集中も何もあったものではなかったが。 「Mary had a little lamb, little lamb, little lamb, Mary had a little lamb...」 「なんでメリーさんの羊?」 「メリーが羊を大好きだから」 「ことみちゃんは困って、困って、困ってことみちゃんはしくしく泣きだした」 言葉とは裏腹に、ことみはどこかしてやったという表情をしていた。 続きを返しようがないと分かっているからだ。こういう遊びでは敵わないのかもしれないと思いながら、リサは続きを口ずさんだ。 「Its fleece was white as snow...」 どこにでもついてきていたはずの羊は、もういない。 やっぱり、それは、乗り越えたはずでもとても辛いことで、悲しいことなのだった。 * * * はい皆様こんにちは、テレフォンショッキングのお時間がやって参りました。 さ、今回は先々週月曜のナイ=スガイさんからのご紹介でナナ=シサンですどうぞ。 ピリリリリリ。ピリリリリリ。 今時珍しいPHSのようなコール音を鳴り響かせながら佇む電話の前で人間四人……あいや、人間三人+ロボ一体がじっと凝視している。 さてどうしたものか。この正体不明の主と優雅な接触を図るか。 それとも力の限りスルーして電話の主を徒労に終わらせるか。 「で、どうするんだ」 芳野の兄ちゃんが俺を見る。釣られるように藤林とゆめみも見る。何だよ、俺がリーダー的な扱いになってるし。 どうしろったってなあ。もうコール音は三十六回目だ。普通ならもうとっくに諦めてそうなもんだが、なかなかどうしてしつこい。 これで新聞の勧誘だとか抜かしやがったらブチ切れるかもしれない。いや喜ぶべきところなのか? 電話なんて滅多なことでは考えられないことだ。何故ならそうするだけの理由がほぼないからなんだな。 だって正体不明の相手にかけたり、そもそもいるかどうかも分からないのに電話するわきゃねえだろう。 となれば、理由はたったひとつだ。特定の相手が出ることを期待してるに違いない。 俺はそんな約束をした覚えはない。ということは…… 「おい、誰か電話の約束とかしてなかったか」 藤林と芳野を見る。二人はしばらくきょとんとして、やがて「ああ!」と思い出したように手を打った。 忘れてたのか。 「ことみよ! 間違いない! ピンポイントで電話できるのなんて、あの子しかいないもの!」 どうやら信用できる相手に至ったようだ。やれやれだぜ。 まあ、ここ最近は色々あったからな。それに疲れもある。頭がちと鈍くなってもおかしくはない。 思い出しただけでよしとしよう。 コール音が四十七回目になったのを確認して、俺は藤林が受話器を取るより前に取り上げた。 は? という表情で藤林が睨んだが、頭のボケた奴に任せる気はない。 「もしもし」 『どうせなら、五十回目まで待って欲しかったの』 「そうはいくか」 受話器の向こうから聞こえてくるのは間延びした女の声だ。予想外であるはずの俺の声を聞いても平然としてやがる。 或いは、この電話に出た時点で信用できる人間だと考えているのかもしれない。 藤林が電話をもぎ取ろうとするが、手で制する。「いいから任せろ」と付け加えて。 「ということでどうも。学校の主ででございます。何か御用ですかね」 『生憎だけど、占拠させてもらうの』 「ほほう。攻め込んでこようというのかね」 『制圧前進のみなの。あなた達に生きる術はないなの』 「面白い、やってみるがいい」 「ちょっと! なんか話がおかしいじゃない!」 あーもう、いいところで邪魔しやがって。 ゆめみに目配せしてみたが、首を傾げられた。この絶妙な会話を理解していないようだ。 これだから融通の利かないロボットは……やはりメイド修行をさせるべきだな、うん。 芳野に目配せしてみるが、奴も分かっていないようだった。なんてこった。我が軍の参謀は壊滅的ではないか。 「大丈夫だって。これからがが本番だ」 藤林は納得のいかない表情だったが、俺にも一応実績はあることは知っているのでどうしても押し切れないようだった。 無論、本気で戦争しようという気はない。ちょっとした言葉遊びだ。 「ことみー! 私は大丈夫だからね!」 それでも誤解されるのを恐れたのか、藤林は口を大きくあけてそう叫ぶと、腕を組んで俺の動向を見守り……あいや、監視を始めた。 信用ねえな。ま、自業自得か。 「聞いての通り、こちらには優秀な部下が揃っている。お前に勝ち目はないな」 『ふふふ、杏ちゃんごときなんてことないの』 「おい藤林。お前のダチ、藤林のことを大したことない、ってよ」 「……へぇ?」 『……いじめる?』 若干顔を引き攣らせた藤林の顔と一転して涙声になったことみとやらのギャップが可笑しく、俺は声を押し殺して笑った。 電話の主は調子に乗るとミスをやらかすらしい。或いは、藤林を恐れてるだけなのかもしれないが。 まああの藤林の友達だもんな。お察しするぜ。 『いじめる? いじめる?』 「いじめないから続けろ」 『ん……えっと、とにかく、こっちには強力な武器があるからそっちには勝ち目などない! なの』 「ほう。こちらの鉄壁の守りを崩せるものとな」 『我が軍の大砲の前にはどんな防御壁も無意味なの。どっかーん! 敵は木っ端微塵なの』 「おお、こわいこわい」 『そういうことで覚悟してろなの。……それと』 「それと?」 『聖先生のこと、大丈夫だから、って伝えてくれないかな』 「あいよ。精々頑張って攻め込んでくるんだな」 プツン。そこで電話は途切れ、ツーツーという味気ない音だけが残った。 グッ、と親指を上げてキラリと白い歯を輝かせて微笑んでみたが、藤林に殴られた。 いてぇ。 「どこが真面目なのよ!」 さ、最後はシリアスだったのに……説明を求める藤林の目に、俺は渋々ながら言ってやることにした。 「お前の友達は大丈夫だそうだ。今そっちに向かってるってよ」 「それだけ?」 「まあ要約するとそうだな」 「……なんか、話がこじれた気がするんだけど」 「俺の交渉術は完璧だ。時代が時代ならネゴシエイターになっててもおかしくはなかった」 「今でも、その職業は存在するからな」 芳野が絶妙なタイミングで余計な口を出してくれやがったが、まあ気にするまい。 確かに、無事であることを伝えてこっちまで向かってくる、というのを聞くだけなら藤林でも役目は務まった。 しかし残念ながらその先は俺じゃないと務まらないんだな。 これでも俺はFARGOの研究員に上り詰めただけの頭の良さ、悪く言えば小賢しさは備えている。 何も考えず、目の前の仕事にだけ打ち込んできた日々が続いていたとはいってもキレは衰えてはいないつもりだ。 これは自慢でも慢心でもない、れっきとした自負だ。そうとも、狡さにかけては悪党顔負けのものを持っているのさ。 それを生かせず、責任逃れを続けてきた時点で俺の人間性は落ちぶれているも同然だが……今はいい。 とにかく、あの小娘……ことみとやらの会話の初めで、俺は奴がただ者ではないと思ったね。 あんな喋り方だが、ここまで生き延びてきた奴だ。それだけで評価する価値はある。 次にあれだけ軽口を叩けるということは、精神的にも余裕があるということだ。 少なくとも追い詰められてはいない。俺が出てきたことに驚きもしない。 普通なら、驚いて電話を切るか藤林の居所を探ろうとするかのどちらかだろう。 だがそうせず、寧ろ会話を続けようとした。俺のふざけた会話にも乗ってきたということは落ち着いているという証拠だ。 そして会話を続けようとしたこと。これは何か俺達に伝えたいことがあるということだ。 藤林個人や、その連れである芳野に向けてではなく、藤林や芳野と一緒にいる人間全てに。 となれば、重要事であるのは疑いようがない。だから俺は藤林に受話器を渡さなかったんだな。 言っちゃ悪いが、藤林は言葉遊びは苦手っぽいからな……良くも悪くも直情怪行なのがあいつだ。 芳野も芳野で鈍いところがあるしな。あいつら、案外似ているのかも。 それはそれとして、だ。会話の中で、ことみ嬢は『大砲』を持ってきているらしい。 『敵は木っ端微塵だ』とも。『敵』は当然俺達じゃない。残る敵……それはつまり、ここの島そのもの、引いては主催者連中のことだろう。 要するに、ことみ嬢は『爆弾』の調達に成功したという見込みが高い。 聞いたときには突拍子もないもんだと思ったが、まさか本当に持ってくるとはこの海の目の高槻にも見抜けなんだわ。 敵さんは当然爆弾なんて大火力は想定してさえいないだろう。 だから想定の外を突ける。奴らの懐に入り込める。そういうことだ。 ピースはひとつ、揃った。後は脱出手段の確保と、忌々しい首輪の爆弾と、どこを爆破するか、だ。 「ったく……なんか、疲れた……」 怒り疲れたらしい藤林は肩を落としてその辺の回転椅子に座ってぐるぐると回り始めた。 あの子もあの子よ、と小さく愚痴を漏らしながら。 しかしその顔はなんとなくホッとしていて、安心感のようなものがあった。 なんだかんだ言って、やっぱ無事なのは嬉しいんだろう。 芳野はこれ以上何もなさそうだと思ったのか、同様に椅子に腰を下ろして、軽く目を閉じていた。 ことみ嬢が来るまで休憩するつもりらしい。そういや、色々労働していたみたいだしな。 「あのう……」 二人の様子を眺めていた俺の脇腹をつんつんとつつくものがあった。ゆめみさんだった。 「ええと、その、電話は……」 見てみると、何故か受話器を手にとって耳に当てているゆめみの姿が。どうやらまだ切れていないと思っているらしい。 そうか。こいつの常識では切るときにも何か言うのが普通なんだろうな。 ここはひとつメイド修行をさせてやるべきだと判断した俺は、ゆめみの肩を叩きながら言った。 「いいか。俺についてこい。修行の時間だ」 受話器を握ったまま、ゆめみは目をしばたかせていた。 【時間:3日目午前2時10分頃】 【場所:H-8】 リサ=ヴィクセン 【所持品:M4カービン(残弾15/30、予備マガジン×3)、鉄芯入りウッドトンファー、ワルサーP5(2/8)、コルト・ディテクティブスペシャル(0/6)、支給品一式】 【所持品2:ベネリM3(0/7)、100円ライター、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、フラッシュメモリ(パスワード解除)、支給品一式(食料と水三日分。佐祐理のものを足した)、救急箱、二連式デリンジャー(残弾1発)、吹き矢セット(青×4:麻酔薬、黄×3:効能不明)】 【所持品3:何種類かの薬、ベレッタM92(10/15)・予備弾倉(15発)・煙草・支給品一式】 【状態:車で鎌石村の学校に移動。どこまでも進み、どこまでも戦う。全身に爪傷(手当て済み)】 姫百合瑠璃 【所持品:MP5K(18/30、予備マガジン×8)、デイパック、水、食料、レーダー、携帯型レーザー式誘導装置 弾数2、包丁、救急箱、診療所のメモ、支給品一式、缶詰など】 【状態:浩之と絶対に離れない。浩之とずっと生きる。珊瑚の血が服に付着している。寝てる】 【備考:HDD内にはワームと説明書(txt)、選択して情報を送れるプログラムがある】 藤田浩之 【所持品:珊瑚メモ、包丁、レミントン(M700)装弾数(3/5)・予備弾丸(7/15)、HDD、工具箱】 【所持品2:フライパン、懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、折りたたみ傘、鋸、支給品一式】 【状態:絶望、でも進む。瑠璃とずっと生きる。寝てる】 一ノ瀬ことみ 【持ち物:H&K PSG-1(残り0発。6倍スコープ付き)、暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)、100円ライター、懐中電灯、ポリタンクの中に入った灯油】 【持ち物2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、フラッシュメモリ】 【持ち物3:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式(保健室でいくらか補給)、乾パン、カロリーメイト数個、カメラ付き携帯電話(バッテリー9割、全施設の番号登録済み)】 【持ち物4:コルト・パイソン(6/6)、予備弾×13、包帯、消毒液、スイッチ(0/6)、ノートパソコン、風邪薬、胃腸薬、支給品一式】 【状態:左目を失明。左半身に怪我(簡易治療済み)】 【目的:生きて帰って医者になる。聖同様、絶対に人は殺さない】 【時間:3日目午前02時10分ごろ】 【場所:D-6 鎌石小中学校】 ネゴシエイター高槻 【所持品:日本刀、分厚い小説、コルトガバメント(装弾数:7/7)、鉈、電動釘打ち機12/12、五寸釘(10本)、防弾アーマー、89式小銃(銃剣付き・残弾22/22)、予備弾(30発)×2、P-90(50/50)、ほか食料・水以外の支給品一式】 【状況:全身に怪我。主催者を直々にブッ潰す。ゆめみを修行させよう】 ほしのゆめみ 【所持品:忍者刀、忍者セット(手裏剣・他)、おたま、S&W 500マグナム(5/5、予備弾2発)、ドラグノフ(0/10)、はんだごて、ほか支給品一式】 【状態:左腕が動くようになった。運動能力向上。パートナーの高槻に従って行動】 芳野祐介 【装備品:ウージー(残弾30/30)、予備マガジン×2、サバイバルナイフ、投げナイフ】 【状態:左腕に刺し傷(治療済み、僅かに痛み有り)】 【目的:休憩中。思うように生きてみる】 藤林杏 【所持品1:ロケット花火たくさん、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】 【所持品2:日本刀、包丁(浩平のもの)、スコップ、救急箱、ニューナンブM60(5/5)、ニューナンブの予備弾薬2発】 【状態:重傷(処置は完了。激しすぎる運動は出来ない)。休憩中】 ウォプタル 【状態:杏が乗馬中】 ポテト 【状態:光二個、ウォプタルに乗馬中】 - BACK