Twelve Y.O.







 死んだ。

 妹が。

 藤林杏が放送越しに確認した名前はあまりに淡白であっけないものだった。
 名前を呼ばれた頭はすぐに理解できず、数分経過してからじわじわと浸透してきた。

 ここに来てからずっと会えなかった妹。
 過酷な状況下で、それでもここまで生きてきたはずの妹。
 ちっぽけになってしまった自分を尻目に、変わっていたのだろうかと想像していた妹。

 引っ込み思案で、料理が下手で、占い好きで、ごくありふれた姉妹で、それでもどんなものより大切だった存在。
 それが……いなくなった。一目として会えず、どんな言葉も伝えられないまま。
 ついこの間まで一緒に料理の勉強をして、教えてやっていたというのに。
 他愛もない話で盛り上がっていたというのに。
 ずっと続くかと思っていたはずの現実が過去となり、急速に色褪せていくのが分かった。

 こうなるかもしれない、とは思っていた。
 知人が死に、友人の死を目の当たりにしてきた杏には痛いくらいに分かっている。
 それでも納得はできるものではなかったし、受け入れられるものではなかった。
 こんな理不尽な別れ方をして、仕方ないんだと言えるはずはなかった。

 ならばどうする。妹を殺した奴を憎み、恨むのか。
 残り二十人の中に必ずいるであろうその人物に怨嗟の丈をぶつけるのか。
 しかしそれも出来るはずがない、と杏は思った。
 そうしてしまえば自分も誰かに殺されるだとか、憎しみは憎しみを生むだけだからとか、そんな分かりやすく大層な理由ではない。
 妹が死んでしまった責任の一端が自分にもあると分かっていたからだった。

 この殺し合いであまりに小さくなりすぎて、自分を保つのに精一杯でしかなかった事実。
 思いばかりを空回りさせ、本当はできたはずのことさえできなかった不実。
 今まで積み重ねてきた大小の選択ミスが妹の死という原因のひとつになったということだ。
 そしてそういう失敗を犯しながら、未だ取り返せていない自分にも腹が立った。

 結局その程度の人間でしかないのだろうか、あたしは。

 諦めを覚え始めた新しい自分、まだ諦められないという本来の自分とが交差し、杏の心を傷つけていくのが分かった。
 こういうときはどうすればいいのか思いつかない。
 昔からそうだ。
 思いを伝えられず、臆病なまま時間を無為にしてきた。
 本当にどうしようもないときに、自分は立ち止まっていることしか出来ない――

「あの、藤林さん……」

 かけられたのは高槻の声でも芳野祐介の声でもなく、ほしのゆめみのものだった。
 工学樹脂の瞳には揺れ動くなにかが見えたが、果たしてそれがゆめみの感情を表しているのかは分からない。
 いや、そもそもゆめみに感情があるはずがない。ロボットにあるのは状況に応じた言葉であり、そうするようにプログラムされているだけだ。
 不躾で酷い考えだと自分でも嫌悪を抱いた杏は、憎めないなどと言いながらその実憎むだけの理由を探しているのかもしれないと思った。

 対象は誰でもよくて、ただ憤懣をぶつけられさえすればいい。
 生存競争の中に身を置き、常に敵を探し続けようとする習い性。
 忘れたくても忘れられない、人間の本性がそうさせているのか。
 内奥を巡る血がぐずぐずと粟立ち、不快感となって杏の頭を占拠した。
 今口を開いてしまえば、どんな言葉が出るかも分からず、杏はゆめみから目を背けた。

「こんなことを、言っていいのかどうか分かりませんが……お悔やみ、申し上げます」

 そう告げたゆめみの言葉尻には、言った本人さえもこれで良かったのかと逡巡する躊躇いがあった。
 彼女は疑っている。こんなことを無神経に言っている、己自身のプログラムに。
 理解した瞬間、杏は自分がたまらなくみじめなように思えて、我知らず言葉の箍を外していた。

「……なんで。なんで、あたしは……こんななのよ」

 体を抱えたのは、そうしなければ暴れだしてしまいそうなくらいに自分が制御できなかったからだ。
 泣き喚き、見境もなくやり場のない怒りをぶつけてしまうであろう我が身を想像したからだった。
 それほどに藤林杏という人間は小さい。変わろうとする意思も持てず、流されるがままにここまで来てしまったことが辛かった。

「わたしには、ご姉妹のことは分かりません。どんな人で、どんなことをしてきたのかも……
 ですから、わたしが言葉をかけられるような立場でないのは分かっていますし、その資格もないと理解しています。
 ……ですが、そうだとしても、声をかけなければいけない、と思いました。
 誰も言葉をかけてあげないと、一人で抱え込むしかないですから……」

 最後の言葉だけは杏そのものに向けた言葉ではなく、その先の別の誰かに対して向けられているように思えた。
 ゆめみは誰かの苦しみを請け負いたいのだろうか。そんなことが頭を過ぎる。

「わたしは、ロボットですから」

 何の脈絡もなく付け加えた言葉は、何の打算も思惑もなく、ただ人に尽くそうとする愚直なまでの誠実さだけがあった。
 これも教え込まれたものなのだろう。ロボットは人の役に立つことを役割として期待され、それを第一義として動く存在だ。

 だとしても、ロボットだって自分で考える頭を持っている。
 マニュアル通りの役に立つ方法ではなく、対象となる人が一番喜んでもらえる役立ち方を考え出そうとしている。
 ゆめみはロボットとしての役割を受け入れながらも、それを自分なりに解釈しているようだった。
 杏はゆめみの生き方に、軽い羨望を覚えた。

「それは、誰かから教わったことなの?」
「かもしれません」

 ゆっくりと振り返ると、曖昧に笑うゆめみの顔が目に入った。

「誰かにそうしろと言われたわけではありません。ここで色々な人の姿を見てきて、わたしなりに想像した結果です」

 ああ、と杏は自分とゆめみが持つ違いの正体をようやく理解した。
 ゆめみは自分から探しに言っている。教えてくれないのならば探せばいい。
 見つけられないのならば見つけに行けばいい。
 自分は待っていただけだ。

 どうして変われないのか、どうしてこうなってしまったのか、きっと誰かが教えてくれるだろうと決めてかかっていたのだ。
 学校での勉強と同じ、黙っていれば誰かが教えてくれる環境に慣れきり、当たり前にしてしまった人間の考え方だった。
 疑問が解消された瞬間、澱んでいた空気が抜け穴を見つけ、するすると外へ出てゆく感触があった。
 ゆめみは既にして、独立していたのだ。
 臆病かどうかなんていつか分かると考えていた自分に恥じ入り、引き裂きたい思いに駆られた。

 ……だったら。確かめにいかなくちゃ。

「ありがとう」

 自分でも驚くほど素直に出てきた言葉は取り繕うものでもその場しのぎの言葉でもなく、やるべきことを教えてくれたことへの感謝だった。
 妹を殺した奴と、言葉を交わさなければならない。
 理不尽な死の原因を理解は出来ずとも納得するために、杏は自ら歩み寄ることを選んだ。

 そして今度こそ、見つけてみよう。
 自分が思いを伝えられる相手も。

 ゆめみは無言で微笑した。
 どこか困ったようなその微笑は、単に理由が分からず、返す言葉が分からなかったからなのかもしれない、と思った。

     *     *     *

「あれで良かったのか。役目をほしのゆめみ一人に押し付けて」
「お互い様だ。お前だってそうだろうが。……俺達が言ってもしょうがないだろ」

 言いながらも、高槻の口調はどこか歯切れが悪かった。
 高槻の言う通りで、結局最後まで口に出せなかった自分も同じだ。
 慰めの言葉すら自分が言うと空疎で中身のないもののように思えたからなのだが、そうではないのかもしれない。

 自分達には言葉がなかった。杏の気持ちに気を使うあまりに何を言っていいのか分からなかったのだ。
 不器用と言えばそれまでの話だが、実際は無遠慮や素直さ、真っ直ぐさを忘れてしまったからなのだろう。
 大人になって様々な芥を浴びてきた自分達は言葉を額面通りに捉えられなくなってしまった。
 裏を探し、真意を読もうとし、素直に受け取る術を忘れてしまった大人。
 思う気持ちはあっても、大人として生きる術を覚えてしまった体が踏み込むことを躊躇わせた。
 高槻が煮え切らないのもそこに起因するのに違いなかった。

「自分勝手だな、俺は」

 ぽつりと呟かれた高槻の声は微かで、隣にいた芳野にも僅かな音量でしか届かなかった。

「生きるためには人の力が必要なことも分かってるのに、肝心なときに何もしようとしない。黙って見てるだけだ」
「そしてそれを自覚していながら、結局は踏み止まる。自分のことしか考えられずに……」

 高槻の後を引き取り、芳野が続けた。
 ここで人から教わったこと、学んだことは多いのに、恩に対して無言という形でしか応えていない。
 自分が変わった、良くなったという自覚はあっても、人に同様のことができたかというと答えは否だ。

 やろうと思ってやれるものでもないし、やるものでもない。
 それでも無為にしてしまうことに後ろめたいものがあった。
 こうなりたいと思って、なったわけではないのだから。

 無為にしてしまったという意味では、霧島聖に対しても借りを返すことは出来なかった。
 一ノ瀬ことみはまだ生きているようだったが、少なくとも争いに巻き込まれたのには違いない。
 あの聖のことだ。多分、ことみを庇って逝ってしまったのだろう。
 ことみは聖に対して懐いているようだったから心配ではあったが、聖の性格から考えると最悪の事態にだけはなっているまいと思う。
 大人でありながら誠実さを忘れずにいた彼女と、もう一度会いたかったと思いを結びながら、芳野はごく短い黙祷を終えた。

「なぁ、芳野の兄ちゃん。告白のひとつやふたつやったことはあるだろ?」
「いきなりどうした、藪から棒に」
「いいから答えろ」

 話題の転換にしては唐突で脈絡ないな、と芳野は思ったが、言わなければ高槻が不機嫌になりそうだったし、
 このまま沈黙が落ちるだけだろう。「一応な」と返した芳野に、「どんな気持ちだった?」と矢継ぎ早に質問が重ねられた。

「どうって……」

 伊吹公子に婚約を申し込んで、受け入れられてはいるがあれを告白と言っていいものなのだろうか。
 学生時代にはよく告白されてはいたが、自分から告白したことはない。
 どだい、愛だ何だと普段から叫んでいたがために本気にしてもらえなかったというのもあったのだが。

 いや公子に婚約を申し込んだときでさえ思慕の念が先立ち、
 付き合いを繰り返すようになって愛情へと変化していったようなものだから、
 そう思うと自分は恋愛というものを知らないのかもしれないと思った。

「……無我夢中としか言いようがない」
「なんだよそりゃ」

 呆れ果てた高槻の声に、芳野は自分でもげんなりした気分になる。
 今考えた自分の推測が正しいのなら、愛だと叫んでいた自分は何だったのだろう。
 ひょっとすると中身など分かっておらず、憧れのままに情動を発していたのかもしれない。

 自分の無知に嘆息する。一方でそんなことだからあのような人生を送ってきたのだと納得もしていた。
 ただ歌詞を捻り出し、表面だけ取り繕う歌を作り出してきた、過去のみじめな人生を……

「参考にならんな」
「参考って、何をするつもりだ? ……愛の告白か」
「馬鹿」

 憮然と受け流した高槻の表情を見るに、そうではないようだ。
 これ以上詮索するのも無粋だと思った芳野に、「やっぱ自分で考えるしかないんだな」と諦めたような吐息が出された。

 小学校の門は、すぐ近くに見えていた。

     *     *     *

 よい子のみんなよ、元気にしてたかい?
 ここ最近あんまり出番に恵まれない気がする高槻でござる。
 久々に暇になったのでここいらでひとつ俺語りをしてみようというわけさ。

 まず現在の状況を言っておこう。
 ここは職員室だ。普通の職員室ならコーヒーと煙草とコピー機の音がガションガションと聞こえてきそうなもんだが、そんなもんは全くない。
 そういうことで俺はゆめみにコーヒーを探して淹れてこいと命じた。
 喉が渇いてたし、一人と一体でじっと待つというのも気詰まりだからな。

 ポテトだって? あいつはあの恐竜馬みたいたのが気に入ったらしくぴこぴこけーけーとやかましく喋ってるんだろう。
 別に寂しくなんてないぞ。元々犬畜生なんだ。ああしてるのがお似合いさ。

 ちなみに芳野と藤林は外に何かを回収に行っているらしい。忘れ物って言ってたが、まぁ大体想像はつく。
 俺とゆめみは学校の中に誰かいるか調べてこいって言われたんだな。

 だが一通り部屋を回っても誰もいなかった。そりゃあ残りが二十人もいないっていうんだから、人がいる確率なんて低いんだろうよ。
 ただ視聴覚室の電気がついてたのはちょっと怪しかったね。PCの電源は消えてたから、多分誰かが使ってそのままってことだろう。
 電気は消し忘れたに違いない。念のため机の下やらロッカーの中やらも調べてみたが何もなかった。
 やれやれ、一度完全攻略したダンジョンの中を探っている気分だったね。

 もっとも、二手に別れている状況で戦闘にならなかったのは幸いだと言えるが。
 少し前なら張り合いがないだとかフラグが立たないとかそういうことを言っていたんだろうが、もうそんなゲーム脳じゃないんでね。
 何? ついさっきゲームに例えたものの見方をしていただって? ……た、たとえだよ、たとえ。

 とにかく。ここには誰もいなかったってことで戻ってきたんだが、肝心の藤林と芳野が来ない。
 ちょいと不安になったので見に行ったら、まだ作業をしていた。手伝おうかとゆめみが進言していたが、もうすぐ終わるのでいいと断られた。
 中々間が悪かったようで。ゆめみが肩を落として戻ってきたので、俺はコーヒーでも淹れておけばいいんじゃねえのと言ってやった。

 それで今に至るというわけさ。煙草のひとつでも欲しいところだが机の中を漁っても出てこなかった。
 どうやら禁煙奨励の小学校という設定だったらしい。随分と健康志向な設定で施設を建てたもんだ。
 主催者に文句のひとつでも言ってやりたいところだが、吸えないものはしょうがないので俺は椅子の背もたれに身を預けて天井を眺めていた。

 蛍光灯の頼りない明かりがチカチカと揺れ、ここから先はどうするという疑問を投げかけていた。
 仮に首輪を外せて、爆破される恐れはなくなったとしよう。だが問題なのはそこからで、どうやって島から脱出し、日本まで帰るか。
 こちらが確保しておくはずだった岸田の置き土産は木っ端微塵にされちまったし。

 今さらのようにあの失態が重く圧し掛かる。早かれ遅かれ、妨害はされていただろうという言い訳染みたものは浮かんだが、
 後手に回りきっていたという事実は変わらない。それに、目前でやられりゃあ、負い目のひとつも浮かんでくるというものだ。
 この失敗をどうやって取り返す? 言い訳をやめ、俺は底に沈みかけた責任の文字を引っ張り上げた。

 取り繕ったところで自分の失敗は取り返せない。ミスをミスとして認め、どうすれば挽回できるかを考えなければならないのだ。
 もうそんな悠長な状況じゃない。俺の勘だが、もうそんなに時間は残されていないような気がする。
 忽然と消えたアハトノイン。淡々と名前を告げるだけの放送。それでいて脅しもなにもないときた。
 俺には逆に敵の余裕のように感じられた。後はひとつ手順を踏むだけで、こちらを一揉みに揉み潰せる、そんな奴らの余裕が見える。

 余裕の中に、傲慢の一つでもあればいいんだがな……
 神頼みに近いことをしている俺の焦燥振りにも腹が立った。
 出来ることは、神頼みしかないのか。そんなのは断じて許せるはずがなかった。

「攻め入るには、一手が欠けるんだ……万全を期して待ち受ける奴らと戦うんじゃない。隊列の崩れたところから突けるような部分があれば」

 呟く間にも思考を重ねてみるが、今のところどうにもいいアイデアがない。
 彼我の情報差が大きすぎる。
 戦力は? 奴らの陣地は? 指揮系統は? 通信手段は?
 何一つとして分かっちゃいない。奴らは、徹底的に自分達の存在を秘匿している。

 そうする必要がないからでもあるし、臆病なまでの慎重さがあることも窺える。
 逆に考えれば、奴らもミスが許されないという状況でもあるかもしれない。だがこれも推測だ。
 確信の持てることがありゃしない。裏切り者でもいれば……ゆめみさんじゃね?
 よくよく考えればゆめみは元敵側だ。支給品だが、敵側だ。分解でもしてデータを抜き出せば……

 即座に馬鹿らしいという思いが立ち上がり、俺は再び思考の波に身を委ねた。
 抽出できるかなどの理屈がどうこうより、ただそうしたくないという気持ちの方が強かった。
 少しは仲間意識が芽生えているのか、などと思いつつ俺は対アハトノイン戦のパターンを考え始めた。

 恐ろしいことにまるで歯が立たなかったからな。武器差があったとはいえ、45口径が通じないなんて反則にも程がある。
 なんとなくガバメントを取り出して眺める。いつの間にか愛用の銃になっていた。最後まで、俺を守ってくれるだろうか。
 ゆめみも守ってくれたんだ、きっとまだ愛想は尽かされていないだろうと勝手に納得しながら、アハトノイン戦の肝はこいつだという思考に至る。
 思い出したのだが、アハトノインは『完全に防げる攻撃』は防御しないという特徴があるのだ。
 避けたのはあくまでも損傷が与えられる可能性のある武器だけ。ならば、その防御しない特性を逆手に取って何とかできるかもしれない。

「メモにでも起こすかね……」

 ガバメントを仕舞い、天井に向けていた顔を地上へと戻すと、そこにはお盆を手に持ったゆめみがいた。
 おわっ、といきなり現れたというか、多分ずっと待っていたのだろう彼女に驚き、思い切り体を逸らす。
 勢い良く動いた体がストンと落ちる感触があった。椅子からずり落ちたのだろうと認識する合間に、ゆめみが笑ったような気がした。
 コーヒーをお持ちしました、とかそういう意味の笑いだったのか、俺の無様に対する笑いだったのかは分からん。

 ちくしょう、要領の良さを身につけやがって。睨んだ俺に「どうぞ」とゆめみがコーヒーを差し出した。
 正確には、コーヒー豆だった。未開封のコーヒー豆。税込み数百円くらいの安っぽい袋が俺の前に待ち構えている。

 ここで俺はようやく思い出した。
 ゆめみはメイドロボじゃなかった、と。

 真実を教えてやり、ぺこぺこと例の如く平謝りするゆめみに、もういいよと言ってやろうと思った瞬間、がらがらと職員室のドアが開いた。
 どうやら作業を終えたらしい二人が「何をやってるんだ」という風な視線を投げかけている。

「メイド修行だ」

 割と真面目な意味でそう言ってやったところ、今度は溜息が増えた。
 馬鹿の相手はしてられないとばかりに二人は近くにあった椅子に座り、作業で疲れた体を休め始めたようだった。
 お前ら、いっぺんコーヒー豆食ってみるかと詰め寄ろうと思ったところ。

 職員室の電話が鳴り始めやがったのさ。
 さてここでお前らに質問だ。

 この電話は吉兆か凶兆か?
 取るべきか取らざるべきか?
 俺と芳野と藤林は顔を見合わせた。
 ポテトと恐竜馬は不在。
 ゆめみは暢気に応対しに行こうとしたので首根っこを掴んでおいた。

 さて――どうしますかね?




【時間:3日目午前02時00分ごろ】
【場所:D−6 鎌石小中学校】

メイドマスター高槻
【所持品:日本刀、分厚い小説、コルトガバメント(装弾数:7/7)、鉈、電動釘打ち機12/12、五寸釘(10本)、防弾アーマー、89式小銃(銃剣付き・残弾22/22)、予備弾(30発)×2、P−90(50/50)、ほか食料・水以外の支給品一式】
【状況:全身に怪我。一旦学校に戻る。船や飛行機などを探す。主催者を直々にブッ潰す】

ほしのゆめみ
【所持品:忍者刀、忍者セット(手裏剣・他)、おたま、S&W 500マグナム(5/5、予備弾2発)、ドラグノフ(0/10)、はんだごて、ほか支給品一式】
【状態:左腕が動くようになった。運動能力向上。パートナーの高槻に従って行動】

芳野祐介
【装備品:ウージー(残弾30/30)、予備マガジン×2、サバイバルナイフ、投げナイフ】
【状態:左腕に刺し傷(治療済み、僅かに痛み有り)】
【目的:一旦学校に戻る。思うように生きてみる】

藤林杏
【所持品1:ロケット花火たくさん、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【所持品2:日本刀、包丁(浩平のもの)、スコップ、救急箱、ニューナンブM60(5/5)、ニューナンブの予備弾薬2発】
【状態:重傷(処置は完了。激しすぎる運動は出来ない)。芳野に付き従って爆弾の材料及び友人達、椋を探す】

ウォプタル
【状態:杏が乗馬中】

ポテト
【状態:光二個、ウォプタルに乗馬中】
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