第四回定時放送







「……面白くないですね」

 例のモニターを眺めながら、デイビッド・サリンジャーはさも不快そうに息を吐き出す。
 それもそのはず、殺し合いを煽るはずだった放送はまるで意味を為さず、それどころか積極的殺人肯定派は全員が死亡。
 現状は15人。しかもやたらとグループを作り、あまつさえ連携まで取れだしている。

 サリンジャーは殺し合いが進まなかったことに腹を立てているのではない。自らの思い通りにいかなかった事実が腹立たしかった。
 神の掌で弄んでいるはずが、こちらを見据えて刃を突きたてようと目論んでいる。そのように思えたのだ。
 黄色い猿め、と内心に罵る。いつも自分を阻害し、否定しようとしてくる。

 だが奴らは現状、こちらに対する対抗手段を持ち合わせてはいない。アハトノインが損傷したことには内心焦りを覚えたが、
 右手が喪失しただけに過ぎず、相手側は寧ろ船という脱出手段を失ったのだ。
 これで首輪が解除できようができまいが、絶海に包囲され、身動きできなくなったも同然。
 もはやこちら側がじっくりと料理すればいいだけの話なのだ。

 アハトノインに損傷を負わせた事実は寧ろ褒め称えてやってもいい。人間のしぶとさを多少見誤っていた。
 いいデータが取れた、とこれだけに関してはサリンジャーも満足だった。
 02は現在帰還して損傷した箇所の修理にあたっている。
 ただ一朝一夕にパーツの交換が行えるはずもなく、整備には朝までかかりそうだというのが現状だった。

 朝か、とサリンジャーは蛍光色で光を帯びた腕時計を見る。デジタル式のそれはここに来てから三日が経ったことを告げている。
 日本政府、米国はそろそろ異常に気付いたころなのだろうか。日本各地で突如として起こった拉致事件。
 そして出現した謎の島。全てを繋ぎ合わせるには到底至っていないだろうが、そう悠長にできるほど余裕があるわけでもない。
 セレモニーはこちらから派手に行う必要があるからだ。神の軍隊による世界への宣戦布告を。

「とりあえず、今日中には決着をつけたほうが良さそうですね……楽しくなくなってきましたし」

 しかしこちらの思い通りにいかないというのはどうにもサリンジャーには癪だった。
 黄色い猿風情に噛み付かれたという事実そのものが嫌悪感を催すのだ。

 サリンジャーは決してシオニスト(差別主義者)ではない。
 あくまでも己が理論を否定し、断固として受け入れようとしない姿勢が気に入らないのだ。
 サリンジャーには自らが優秀だという自負がある。誰もが開発できなかった戦闘用ロボットを作り上げたという事実がある。
 にもかかわらず日本人は、いや世界は優秀であることを受け入れず寧ろ疎んじさえした。
 その結果がしがない会社の平プログラマーであり、ロボットは兵器であるべしという論文を真っ向から否定されたということだった。

 能力のある者が省みられないという現実。それがただ許せず、復讐の機会を目論んでいた。
 間違っているのは自分ではない、能力を疎んじた世界の方なのだと。

「時間だ。放送しろ」

 粘りつくような憎悪を含ませながら、サリンジャーはマイクの前に立っていたアハトノインに伝えた。
 怨恨によって研がれ、冷たく輝く瞳はモニターを凝視したままだった。

     *     *     *

「皆様、いかがお過ごしでしょうか。日付も変わりましたので、定時放送を行いたいと思います。
 親しい方や、大切な方を亡くされた方も大勢いらっしゃることでしょう。
 ですがくじけないでください。あなた方はここまで生きてこられたのです。
 終わりはすぐ、そこまで来ているのです。ですからどうか、光輝を目指して、諦めないでください。
 ――それでは、名前を発表致します。

4 天沢郁未
14 緒方英二
21 柏木初音
24 神尾晴子
32 霧島聖
39 向坂環
45 小牧愛佳
48 笹森花梨
54 篠塚弥生
69 遠野美凪
70 十波由真
78 七瀬彰
79 七瀬留美
85 姫百合珊瑚
91 藤林椋
100 美坂栞
104 水瀬名雪
108 宮沢有紀寧
111 柳川祐也

 以上、19名となります。次回の放送は朝とさせていただきます。
 それでは皆様、ごきげんよう。
 そして、神のご加護があらんことを」






【場所:高天原内部】
【時間:三日目:00:00】

デイビッド・サリンジャー
【状態:朝まで待機】
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