海岸沿いをつれづれと歩いていく老人が一人。幸村俊夫(043)だった。彼は殺人ゲームということが起こっているにもかかわらず、いつもと変わらない悠然とした調子で歩いていた。 すでに還暦を過ぎたこの老いさらばえた身にとっては、己の命などどうでもいい、とまではいかないものの、自分より若い者が次々と命を落としていくのには耐えられなかった。 ゆえに彼は、こうして一人でぶらぶらと歩いて、もしこのくだらんゲームに乗ってしまった人物と出くわしたら、喝をいれてやるつもりだった。 「…む、これは」 幸村が発見したのは自分と年が同等だと思われる老人が、物言わぬ姿となった現場だった。もちろん、幸村がその老人を篁だと知る術はなかったがそれでもこの哀れな犠牲者を弔ってやろうと思い、手を合わせてやった。 「…すまんの、昔ほど筋肉もなくてな。埋めてやるのはもう少し後にさせてくれないかの」 ナイフの刃を丁寧に抜いてやり、彼の横へと供えた。そして申し訳程度に手を組ませてやる。今の彼には、これが精一杯であった。 「さて、と」 幸村は周りの確認へと行動を変える。まずは篁の荷物を確認することにした。どうやら荷物を確認していなかったらしく、武器がまだ入っていた。幸村はここで一つ疑問を覚えた。 (ゲームに乗っている者なら、武器を欲しがるはず。どうしてまだ取られていないのかの?) ただ単に自分の持っていた武器が強力だったというなら納得はいくものの、それでもこの武器を欲しがらない参加者はいないはず。 デイパックの中身は、アサルトライフル、ステアーAUGだった。姿形こそ奇抜だが、その攻撃力は拳銃の比ではない。 「…ま、気狂いの心情など、わしには分からんがの」 危険極まりない代物だが、持ち歩くには少々年をとりすぎた。デイパックを木の影に隠し、他の参加者に見つからないように祈る。 「…さて」 再び幸村は周りを調べ始める。すると、近くで奇妙なものを発見した。木の削りカス。 恐らくは、ここにいた人物のもの。そして、篁を殺した人物のものかもしれない。 幸村には、一つの心当たりがあった。 「伊吹…風子」 幸村の知っている風子はそんなことをするような子ではない。この場の空気に呑まれたか、あるいは怯えた末の悲劇か。どちらにせよ、彼女に真偽を問う必要がある。 「わしの、勘違いであってくれればいいがの…」 幸村は一つ呟いて、その場を後にした。 『幸村俊夫(043)』 【時間:1日目午後2時半ごろ】 【場所:C−2】 【持ち物:武器は不明、支給品一式】 【状態:風子を探す。篁の荷物は近くの木の影に放置】 - BACK