ゲームに乗らず殺す者




 住井護は、このゲームに対し他の人間と思考ルーチンが違っていた。
他の人間は、ゲームに乗るか乗らぬかの選択をした、あるいは葛藤をした。
しかし、この男は違った。このゲームを好機と捉えていた。日ごろから抱えている
鬱屈を晴らす好機と。彼の目的は、生き残る事でも逃げる事でもなかった。
ゲームに乗らず、ゲームを利用する。それが彼の行動原理。
「しっかし、武器が頼りないね。おまけの方は使えそうなんだけどさー」
住井に支給されたもの、それは二つあった。一つは薬。不死とまではいかぬも、
生命力を格段にあげることができる。そう簡単には死ななくなる薬だった。
ちなみに有効期間が二日もある。そう取扱説明書に書いてあった。
その薬が入った注射器が、五つ支給されていた。
既に、その内の一つを自分に対し使用している。
「全く、俺の目的の為にあるようなもんだね」
 残りの四つの使用法は決まっていた。
 そしてもう一つの方であるが、つまりとりスポイト通称「ラバーカップ」であった。
市販のラバーカップと違う点は、ゴムの部分が異様に柔らかい事である。
『穴の周りがどんな複雑な形状でも、ジャストフィットします』
そう取説には書いてあった。
「トイレ掃除でもしろってのかよ」
住井は呟きそうになる声を慌てて抑えた。目の前を歩く少女の存在に気付いたから。
服はボロボロで、大きな緑のチェック柄リボンが特徴的な少女だった。
疲労の為か、こちらの存在に気付いていない。ゆっくりと後ろから近づく。
後10m、5m、3m、5歩、4歩、3歩、2…
 残り二歩の所で、飛び掛り後ろから組み伏せ、ラバーカップの柄を背中に突きつける。
銃だと錯覚してくれるだろうか。
「騒ぐと殺す。騒がなきゃ助けてやる」

少女、倉田佐祐理は悲鳴を上げそうになった口を慌てて押さえる。
自分には目的がある。死ぬわけには行かない、と。何をされても黙っていよう。
背中に当たった感触から考えて、彼は銃を持っている。もし、本当に殺すつもりなら
とっくに撃っていたのだ。だから、黙って従っていれば殺しはしないだろう。
と、佐祐理は都合のいい考えをしてしまった。してしまったのだ、不幸にも。

当初住井は武器を強奪するつもりであったが、佐祐理の肉付きのいい身体に
触れて考えを変えた。武器は後で奪えばいい、と。
それよりも今は、自分の脳に過ぎった悪魔的発想を実践してみたくなったのだ。
「命だけは助けてやるから、動くなよ」
 佐祐理のパンツに手をかけ、一気に下ろす。彼女の息を呑む声が聞こえたが、
抵抗はなかった。犯される程度の覚悟はしていたのだろう。
だがそれは、見当違いの覚悟だった。
 住井はラバーカップの吸引部分を、佐祐理の尻にあてがった。
なるほど、確かにジャストフィットだ。人体にさえジャストフィットだ。
住井は一瞬の躊躇も見せず、ラバーカップを思い切り押し、そして勢いよく引いた。
何かがひきずり出される手応えを、住井は感じた。
「ひゃあああああ!」
 瞬間、絶叫が辺りに木霊する。途轍もない苦痛に、彼女は堪え切れなかったのだ。
内臓を蹂躙する凄まじい圧力に、彼女は耐えられなかった。
 住井はラバーカップを引き剥がし、尻部の惨状を目の当たりにした。
肛門から、血や糞とともに腸が飛び出ていた。映画『黒い太陽731』の、
圧力器による人体実験が脳裏に浮かぶ。


「おっと、このままじゃ死にそうだな。約束どおり助けてやるよ」
 厳密には、佐祐理は叫んでいたので約束を反故にしてもいいのだが、先ほどの悲鳴は
聞こえなかった事にしたらしい。住井は注射器を取り出すと、佐祐理に準不死薬を
投与した。この薬の性能にもよるが、すぐに死ぬことはないだろう。
「しっかし、このラバーカップ、思ってたより高威力だなぁ」
 住井は続けて、佐祐理の性器にラバーカップをあてがった。痛みに悶絶していた
佐祐理だが、次に自分が何をされるかは分かったらしい。身体を捩って逃げようとした。
しかし、遅かった。
 強烈な圧力が、今度は膣内へかかる。体内に嵐が巻き起こり、破壊していく。
大切な何かが壊れ、体外へ排出されるのを彼女は感じ取った。
意識が飛びそうになる痛みの中でも、それを感じ取れた。
「今度は膣と尿が飛び出たか。気付け薬塗ってやるよ」
 住井は意地悪く笑うと、民家から拝借していた七味とマスタードを
はみだしている腸へと振りかけた。護身の目潰し用にと持ってきた物だが、
まさかこんな使い方をするとは考えてもいなかった。
「いやあああああ!」
 再び絶叫が沸き起こり、佐祐理の身体が痙攣しながら跳ねる。動くたびに
はみ出した膣や腸が地面に擦れ、その都度激痛が彼女を襲う。
地獄のループだった。
 住井は佐祐理の荷物をまとめると、約束通りトドメは刺さずに歩き始める。
その耳に「殺してください…」という佐祐理の声は届いたはずだが、
振り返りもしなかった。

 住井は歩く。目的に向かって。彼の目的は、折原浩平の目の前で
長森瑞佳を責め殺すことだった。生命力増幅の効果を持つこの薬は、
長森の為にこそあった。残された三つの内、二つは実験用だ。
どこまでやっても死なないのか、という。
 だから、次の標的は殺すことに決めていた。酷く責め抜いて殺す。
その為には、猿轡と隠れ家が必要だった。さっきみたいに、悲鳴を上げられては
落ち着いて実験できないから。
 万が一実験中に長森が死んだ場合は、折原を責め殺すつもりでいた。だから、
彼は焦ってはいなかった。長森はともかく、折原はそう簡単には死なないだろう
「折原ぁ、俺はお前の従属物じゃねぇってこと、しっかりと理解させてやるよ」
(そのためにも、お前も長森さんも、極限の苦痛の元に殺してやるよ。
さっきのリボン女みたいな、ぬるい事はやらねー)
 彼にとっては、先ほどの拷問ですら『ぬるい事』であった。




『倉田 佐祐理(036)』
【時間:一日目、午後5時半ころ】
【所持品:なし】
【場所:D−4】
【状態:脱腸、脱膣、膀胱破壊、擦過傷多数、生命力増幅薬効果継続中】

『住井護(059)』
【時間:同上】
【所持品:支給品一式、生命力増幅薬入り注射器*3、ラバーカップ、
菊一文字(E)or吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)(AB)
【場所:同上。ただし高原池方面に歩き始めている】
【状態:冷静、生命力増幅薬効果継続中】
【備考:最終目的は長森を浩平の眼前で殺すこと。若しくは浩平の抹殺。
    佐祐理から奪った武器は、ルートにより変化。002は不採用】
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