無題




(怖い・・・もう、どうすればいいのよ・・・)

それは、普段の気丈な彼女からは決して繋がることのない様子であった。
聖との接触後、七瀬留美は道に沿った形でとぼとぼと歩き続けていた。
うつむきながら、でも周囲への警戒は怠らない。
今となっては、もう誰にも会いたくなかった。浩平や、瑞佳でさえ。
友人等さえも100%信頼できるか分からない・・・というより、こんな情けない自分を見せたくなかったから。

(あいつらがこのゲームになんて乗るわけないじゃない!・・・でも、私は・・・)

足が止まる。握った拳に力が入る。

(私は・・・殺せるの?殺してしまえるの?)

これからどうするか。その展望など定まっているはずが無い。
辺りの色は既に茜になっていて、現在の時刻がそれを表し始めていた。
たった数時間、されど数時間。
留美の消耗は、激しかった。

その時。
握りこぶしを作ったまま立ち尽くしている彼女の脇から。
・・・ガサっと、音が、した。

「・・・あの、ちょっといいかな?大丈夫、攻撃はしないから」

現れたのは、一人の青年だった。


藤井冬弥は当てもなく歩き続けている留美を発見してから、少しずつ彼女に近づいていってた。
先の誤算から、時間にしてはそう経っているわけではない。
それでも、攻撃性のない人間を見つけられるというのはチャンスでしかないのだ。

(正直、一人で立ち向かうのはきついしね。)

恋人や友人等のことも気になっている。
情報が欲しかった。

スコープ越しの少女にそれを求めても大した結果は出ないだろうけれど。
でも、一か八かという言葉もあるし。

それに、そのか細い背中が気になって仕方ないのだ。
・・・大切な恋人も、こうして縮こまっているのだろう。
この、悲しい非現実に。

冬弥は守る存在に値するとして、彼女に近づいた。
しかし。

「・・・・・・・きゃああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

精神的緊張の限界を迎えていた留美にとって、それは逆鱗に触れるべき事になってしまった。




七瀬留美
 【時間:1日目午後4時近く】
 【場所:C−06】
 【所持品:P−90(残弾50)、支給品一式】
 【状態:混乱】

藤井冬弥
 【時間:1日目午後4時近く】
 【場所:C−06】
 【持ち物:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、他基本セット一式】
 【状況:普通】
-


BACK