一歩、一歩ずつ






「え?……どういう事だよ」

この過酷な殺し合いの中、常に抗い続けていた藤田浩之がただ空を見ていた。
ただ信じられなかった、先ほど流れた放送に。
誓ったはずだった、負けないと。
殺し合いに抗い続けると。
そうやってここまでずっと戦い続けていた。
ずっと。
ずっと。

だが、その頑張りを、歩みを踏みにじる様なものだった。
藤田浩之と言うたった一人の少年にはとてもとても重くて。
彼が戻りたかったもの。
彼が守りたかったもの。
全て、全て。

奪われた。

思わず跪いてしまう。
歩き続いてた足が止まる。
もう、その場から動けないぐらいに。

何の為に頑張っていたのだろうと思う。
何の為にここまで進んでいたのだろうと思う。

何で。
何で。

皆消えていったのだろう。

守りたかったはずだった。
守る決意もした。
守る覚悟もあった。

それなのに。
それなのに。

自分は守れなかった。

守れるはずだった。

なのにすべて失った。

「あかり……みさき」

大事な。
本当に大事な存在も。

「なぁ……何で逝ったんだよ……あかり」

浩之が思うのは本当に身近の少女の事。
失いたくなかった、大切な人。
守りたかったはずだった。

共に戻りたかった、あの日常に。

なのにどうして零れ落ちるんだろう。

あかりはどんな風に逝ったのだろうと。
幸せに逝けたのだろうか。
楽に逝けたのだろうか。
笑顔で逝けたのだろうか。

唯そんな事を考えて。


……でもバンと強く拳を叩きつける。

だって

「死んだらなにもならねぇだろうが!……死んじまったら……糞……畜生……」

死んだらもう逢えない。
死んだらもう話せない。

あの何処にでもあるようで幸せだった日々に戻れない。

そう、一緒に歩める事がもう、永遠に無理なのだから。
永遠に。
永遠に。

あかりだけじゃない

「雅史も、志保も、委員長も、理緒ちゃんも、綾香も……皆……皆!……死んで……あぁ……あああぁぁあぁあぁあぁあ」

浩之の隣に居て下らない話で盛り上がってた雅史も。
浩之と下らないネタで笑いあっていた志保も。
厳しいながら優しかった智子も。
必死に頑張ってた姿が微笑ましかった理緒も。
フランクであり気高かった綾香も。

皆、死んでしまった。

浩之が戻りたかった日常。
あの温かい日常。

その全てだった人達が居なくなってしまった。

唯、浩之を残して。

もう還りたかった日常は存在しない。

浩之は哀しくて。
苦しくて。

唯涙が溢れた。

思うのは無力。

もっと自分が上手くやれば。
もっと力があれば。

皆は生きることが出来たのではないかと。

そう思って悔しくて。
苦しくて。

ただ立ち尽くすしかできない。

そしてさらに二人の人物の死。
それが浩之を絶望へと誘う。

「みさき……観鈴……ごめん……ごめ……ん」

川名みさき。
神尾観鈴。

先程まで一緒にいた仲間達。

本当にさっきまで居たのだ。
なのに死んでしまった。

何故、と浩之は思う。

何故あの時離れた。
何故あの時安心だと思った。
何故あの時大丈夫だと思った。
何故あの時みさきのか細い手を取ってあげなかった。
何故あの時みさきを守るために傍に居てあげる事が出来なかった。

何故。
何故。
何故。


何故、自分は大切な人達を失ってしまった。


祐一も守れず。
観鈴も守れず。
みさきを守れず。

待ってて、笑っていてといったのに。

その笑顔を見ることは出来ないんだ。


浩之は思う。


なんて無力だと。



「俺は……俺は」


涙が止まらなくて。
悲しみが止まらなくて。
余りにも自分は愚かだと思って。

そのまま地面に倒れこむ。

このまま朽ちてしまえと思う。
このまま絶望に浸り。
そして、なくなればいいと。

何も守れない藤田浩之は。
力も無い藤田浩之は。
何にもできない藤田浩之は。

ここで。

消えてしまえと。

ただ。
ただ。

それだけを願う。


「あかり、雅史、志保、委員長、理緒ちゃん、綾香、祐一、観鈴、みさき……」

散っていった大切な人を思い。

浩之は目を瞑る。


願うは唯の闇。

何も無い虚空。

空の浩之と同じように。

それだけを思い。

目を瞑っていた。






――浩之ちゃん
――浩之君


そんな時だった。

大切な二人の声が聞こえてきたのは。


――頑張って。
――頑張れ。

浩之を励ます声。


――立ち上がって。
――めげないで。

温かな声。
絶望に沈む浩之を歩かせる為に。

「……もう疲れたよ、俺は」

浩之は呟く。
幻聴なのに、謝罪するように。
でも、それでも。

――浩之ちゃん、諦めないで。
――浩之君、諦めないで。

声は止まない。
浩之に歩けと。
浩之に沈んで欲しくないから。


――浩之ちゃん、生きて。
――浩之君、生きて。


その生きてと言う願いが聞こえてきて。
そして声は止んだ。

唯浩之を心配して。


浩之は


浩之は唯ゆっくりと


「俺は……」

立ち上がった。
まだ、目は虚ろだけど。
まだ、苦しいけど。

歩かなきゃ。
生きなきゃ。
進まなきゃ。

そう思って。
思わないと二人に怒られると思って。


「行こう……まだ、珊瑚達がいる」

残る仲間たちの下に歩き始めた。

一歩。
一歩。

ゆっくりだけど。
確かに。


歩き始めていた。


――浩之ちゃん、頑張ってね。
――浩之君、諦めないでね。


大切な。
大切な人達のエールを背に。

ただ、進み始めていた。




【時間:二日目18:40】
【場所:I-6】


藤田浩之
【所持品:珊瑚メモ、包丁、殺虫剤、火炎瓶】
【状態:絶望、でも進む。守腹部に数度に渡る重大な打撲(手当て済み)】
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