「みゅ、みゅーーーっ! こわいよー! たすけてー!」 「わーーっ、すみませんすみません神様〜〜! 私まだ死にたくないんですー! 家でお腹をすかせている弟や妹がいるんですー!」 思い思いに絶叫しながら並んで走る二人。しかし、この二人は最初から行動を共にしていたわけではない。 事の始まりはこの次第である。 「うう〜、いきなりこんなことになっちゃって、どうしたらいいんだろ…浩之さんもいないし、一人ぼっちだし、おまけに何なのこの武器…」 理緒はデイパックの中から出てきた『アヒル隊長』を見て若干の失望を覚えた。普段からヒキの悪い理緒だが、ここまでくだらないものが出るとは思わなかった。 「お風呂に浮かべて、水遊びでもしろって言うの?」 純真無垢な瞳で理緒を見つめるアヒル隊長。何の慰めにもならなかった。 理緒はまだ気付いていなかったのだが、このアヒル隊長、実はとんでもない仕掛けがあった。 中に時限装置式のプラスティック爆弾が入っていて、ゲーム開始からきっかり24時間後に爆発する仕組みになっていたのである。 当然説明書も入っていたのだが、理緒はまったく気にする事もなくそれはデイパックの奥底に眠っていた。 そんなこととは露知らずため息をつく理緒。そんな時どこからか声が聞こえてきた。 「みゅ〜〜〜〜〜っ!!!」 「ミュウ? ポケモンなら良太のほうが詳しいわよ、って、何アレ!?」 理緒が声のしたほうを向くと、そこには泣きじゃくりながら走ってくる制服姿の女の子――椎名繭――と種類は違うが同じく制服姿の女の子が走ってきた。…しかも、追いかけているほうは手に鋏を構えている。 「みゅ〜〜〜っ! どいて〜〜〜!」 「へっ? わわわ、こっち来ないでぇ!」 どしんっ! 双方避けきることが出来ず正面衝突。そのままごろごろと前方に転がる。 「…痛ったぁー…こっち来ないでって言ったのに…?」 地面に転がっている繭を見る。理緒は目を疑った。繭の体は擦り傷、切り傷だらけで、制服もぼろぼろだった。…まさか、あの子が? 後ろを見てみると、まさにその鋏を持った女の子がゆっくりと上品な笑みを浮かべながら近づいてきていた。 「くすくす…捕まえた」 ゾッとするくらいきれいで虚ろな瞳をたたえた少女――月島瑠璃子――は、あくまでもゆったりとした動作で鋏を振り上げた。 「ひいっ!」 とっさに転がったせいで何とか刺さることは免れた。…私も、狙われてる!? この子、まともじゃない! 逃げないと! 立ち上がって、走り出した時。 「みゅーーっ!」 何時の間にか起きあがったらしいみゅー少女、繭がこちらと並んで走ってくる。 「ちょっと、逃げるなら別の方向へ行ってよ! 二人いっぺんに狙われるじゃない!」 「いやだよー! いたいのやだー!」 聞いちゃいない。 「また、追いかけっこ? 楽しいね、くすくす」 地面から鋏を引きぬいた瑠璃子が、またこちらを追ってくる。 「きゃ〜〜っ、こっち来ないでーー!」 「みゅ〜〜〜〜っ!!! もうやだ〜〜!」 …以上が事の次第である。実際のところ理緒が別の方向へ逃げればいいのだが彼女にそんなことを考える余地はなかった。何しろ、意外と足の速かった瑠璃子はこちらとの差をもう数歩近くに縮めていたのだから。 (やだっ、やだっ、死にたくない死にたくない死にたくない! 助けてっ、神様!) 「くすくす。捕まえたよ」 「み゛ゅ〜〜〜っ…!!!」 祈りは通じた。ただし、他人を犠牲にした上での。 瑠璃子の鋏は理緒ではなく、傷ついた繭の方を狙ったのだ。繭の悲鳴が、森に木霊する。 その悲鳴に驚いた理緒が足をもつれさせて派手に転がる。 「痛っ…」 うめきを上げた後、事態はどうなったのだろうかと顔をあげる。そこには―― 「さぁ、もっと楽しもうね」 馬乗りになった瑠璃子と、血を流しながらじたばたと暴れる繭の姿だった。 『雛山理緒(083)』 【時間:1日目午後12時半ごろ】 【場所:H−9、森林帯】 【持ち物:アヒル隊長(24時間後に爆発)、支給品一式】 【状態:錯乱、目の前の事態に恐怖。アヒル隊長の爆弾については知らない】 『椎名繭(053)』 【時間:1日目午後12時半ごろ】 【場所:H−9、森林帯】 【持ち物:武器不明、支給品一式】 【状態:錯乱。全身に無数の切り傷、擦り傷と背中に深い刺し傷。瑠璃子に組み敷かれている】 『月島瑠璃子(067)』 【時間:1日目午後12時半ごろ】 【場所:H−9、森林帯】 【持ち物:鋏、支給品一式】 【状態:冷静。無差別に攻撃をしかける。繭を組み敷いている】 【備考:繭、瑠璃子はS5、理緒はS7がスタート地点。B系のルートで】 - BACK